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DATE/ 2019.11.08

「天の川」とは一体何か?その正体を知る

 「ではみなさんは、そういうふうに川だと云われたり、乳の流れたあとだと云われたりしていたこのぼんやりと白いものがほんとうは何かご承知ですか」―先生は、黒板に吊した大きな黒い星座の図の、上から下へ白くけぶった銀河帯のようなところを指しながら、みんなに問をかけました。

銀河系は「どら焼き」? 太陽はどこに?

 上は宮沢賢治『銀河鉄道の夜』の冒頭です。先生はこの後、天の川を本当の川になぞらえ、底の砂や砂利に当たるのが星々、川の水が真空だと説明しました。東京大学名誉教授で現代の銀河天文学者、岡村定矩氏のレクチャーでは、どうなるでしょうか。

 わたしたちの住む地球は太陽系の惑星。その太陽が銀河系と呼ばれるたくさんの星の集団に属していることは天文学の初歩として、銀河系の形が円盤状であることは、早くも18世紀に分かっていました。

 最新の観測では、銀河系を横から見ると「どら焼き」や凸レンズのように中心部のふくらんだ円盤の形になっていることが確認されています。正面から見ると、円盤内にはきれいな渦巻き模様が見えて、中心には棒のような構造があります。

 太陽系は中心から少し離れた渦巻き腕の中にあり、真横から見ると円盤の中心からはかなり離れた位置にあります。言ってみればわたしたちは、どら焼きのあんこの中にいる、というイメージです。

 ただし「あんこ」部分のほとんどは、黒いダストを含むガス。これらを「星間物質」と呼びます。宮沢賢治の頃はまだ存在が知られていなかった概念で、1969年以降議論が続けられています。

天の川は内側から見た銀河の姿

 円盤の中心から離れた渦巻き腕の中にある太陽系から銀河面の方向を見ると、たくさんの星が天球面に投影されて、天の川となっています。銀河面にぴったり沿った方向を見ると、ダストで遮られて星が見えないので、それが天の川の中心の黒い帯としてあらわれます。

 つまり、天の川は銀河系を内側から真横に見た姿。そのため、銀河系のことを最近では「天の川銀河」とも呼ぶようになりました。銀河系に含まれる恒星の数は、なんと1000億個のケタとされています。

 銀河系には、星の集まりである星団(球状星団、散開星団)や星間物質のほか、輝くガスが集まった星雲、ダスト(宇宙塵)とガスが濃く密集した暗黒星雲といった天体があります。さらにダークマターやブラックホールの存在も考えられています。今回は肉眼や双眼鏡でも見えるような星団を中心に、代表的な星雲などを見ていきましょう。

清少納言が好きだった「すばる」はプレアデス星団

 清少納言が『枕草子』の中で「星はすばる」と愛でたのが「プレアデス星団」。散開星団という、生まれたばかりの星々の集団です。肉眼で確認できるのは5~7個ですが、双眼鏡で観測すると数十個の青白い星が集まっているのが分かります。

 冬の星座としてなじみ深いのが、真ん中に三つ星を有する「オリオン座」。望遠鏡で三つ星の下の方を見ると、蝶が羽を広げたような「オリオン大星雲」が赤みのある光を放っています。星間物質であるガスが集まっている中に生まれたての星があるため、その強烈な光がガスを温め、ガス自体が光っているのです。また、三つ星の左端の星の下には、暗黒星雲があります。双眼鏡では見えませんが、「馬頭星雲」と名付けられたように、馬の頭に似ています。

 球状星団の「きょしちょう座47」や「バラ星雲」も、地球から見える天の川銀河の代表的存在。さらに、日本の文献に書き留められたことで有名なのが、「かに星雲」です。こちらは超新星残骸という種類の天体。およそ1000年前の西暦1054年に、超新星爆発を起こして飛び散っている姿が、今も宇宙空間を広がっています。

 そして、この超新星爆発を記録したのが、藤原定家の『明月記』。「客星」(普段見慣れない星)を注目していた彼が、自分の出生以前の出来事について、陰陽師に問い合わせた記録を「大きさ歳星(木星)の如し」などと記載したものです。

 冬の天の川は日没すぐから観察できます。たまには人工の明かりを避け、夜空を見上げるような時間も持ちたいですね。
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