テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2020.11.18

生きてるうちにお葬式「生前葬」とは

 自分らしい終活がテーマになる現在、お葬式にも「自分らしさ」を求める人が増えています。なかでも生きている間にお世話になった方々に直接感謝を伝えられる「生前葬」が注目の的。どんなふうに行うのか、メリットやデメリット、「お別れ会」との違いについても調べてみました。

生前葬の概要と流れ

 生前葬は、その名の通り、まだ生きているうちに行う葬儀です。本来ならば出席できない自分の葬儀に「喪主」として参加することで、お世話になった人や親しかった人に元気なうちに感謝とお別れを伝えたり、社会活動に区切りをつけたり。「還暦」の60歳や「米寿」の88歳のお祝いを区切りとする人もいれば、余命宣告されたことをきっかけに行う人もいます。

 生前葬には、決まりも制限もありません。自分でプランを立て、葬儀会社やイベント会社に相談して執りおこなう人が多いですが、形式は自由なので、場所と日取りさえ決まればすぐにでも案内状を出すことができます。

 一般的な流れは「開式挨拶」「(本人の人生をたどる)スライドショーなどの上映」「来賓・出席者のスピーチ」「演奏等の余興」「食事」「本人から出席者への挨拶」「閉式挨拶」。人前で行う結婚披露宴とほとんど変わらず、本人の趣味に応じたプログラムを入れるのも自由です。

 宗教による葬儀を虚礼と感じている方が行うことが多いため、読経や焼香を省ける、香典の用意は必要なく会費制、ドレスコードは平服というあたりが、一般の葬儀との違いです。もちろん趣向に応じて変更できますので、案内状にどのような形式で行うか(会費の記載、平服参加の旨など)記載されるといいでしょう。

生前葬のメリット・デメリット

 生前葬のメリットは、「自分で自由に楽しく式を演出できる」「時間的制約がない」「家族への負担が軽減する」ことなどが数えられます。

 いつどこで行い、誰を呼び、何をするか自分で決められるのが生前葬の最大のメリットでしょう。飾る花の種類や振る舞う料理の内容まで、すべて本人の嗜好を生かすことができます。礼儀作法や段取りに縛られることなく、参列した方に対して自分で感謝やお別れを伝えることができるのは、大きな魅力に数えられます。

 一般の葬儀では、医師から死亡診断が出て火葬するまで、という時間や手続きの縛りがあります。そのため、エンディング・ノートなどによほど詳しく記載し、周囲の賛同を得ておかないと、希望通りの式を行うのは困難です。また、当然のことながら、思い通りの式だったかを見届けられるのも生前葬ならではのメリットです。

 さらに、葬儀に関する打ち合わせや費用を本人が負担するという点も、忙しい家族に時間的・金銭的負担をかけたくない層が選ぶ、超高齢化社会ならではのポイントです。

 逆にデメリットは、「自分本位になりがち」「理解されにくい」「二度手間になる」という点、どれも「生前葬がまだポピュラーでない」ことに起因するものです。また、生前葬を行っても、実際に亡くなった後の火葬は必要で、それに伴う必要最小限の儀礼は行いたいのが身内の情、ということもあります。

生前葬を行った有名人たち

 生前葬とお別れ会の違いは、お別れ会のほうは本人が亡くなった後に開くこともできる点です。こちらは遺族に代わって発起人会がつくられて開催されるケースが多く、社会的立場が高く、交際範囲の広い方によく見られます。

 生前葬のほうは、もともとは「儀礼や社会通念を逆手に取る」という大胆な行為として始まったため、日本では20世紀初頭の落語家などの間でからポツポツと始まりました。

 「生前葬」の名前をポピュラーにしたのは、「男装の麗人」として一世を風靡した水の江瀧子さん。1993年、78歳の誕生日前日に森繁久彌を発起人とする生前葬をキャピトル東急ホテルで華やかに行い、翌日には「復活祭」を行って関係者を驚かせました。水の江さんはその後16年以上長寿を楽しまれましたが、「生前葬を行った人は長生きする」という風評の元もこのあたりかもしれません。

 池田貴族さんの場合は、3年にわたるがんとの闘病のなか、「貴族 大生前葬」というチャリティーライブを二度実施。収益金は、がん遺児らを援助する「あしなが育英会」に寄付されています。

 ほかにもビートたけしさんは、62歳だった09年4月にテレビ東京「たけしのニッポンのミカタ!」会見で「ビートたけし生前葬」を開催。同じ年、桑田佳祐さんも53歳の若さで「桑田佳祐追悼特別番組」と題した企画をフジテレビ系の「桑田佳祐の音楽寅さん ~MUSIC TIGER~」内で行いました。翌年には食道がんが発覚した桑田さんですが、手術後10年を経過してお元気です。

 WAHAHA本舗の喰始さんやテリー伊藤さんは還暦を機に、プロ野球の仰木彬さんは「野球殿堂入り」を記念して、歌手の小椋佳さんは70歳を節目に「生前葬コンサート」を行っています。

 どんな形式が自分にはフィットするのか。考えてみるのも楽しいですね。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
自分を豊かにする“教養の自己投資”始めてみませんか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

なぜ毎日練習したくなるのか?大谷翔平の目標に向かう力

なぜ毎日練習したくなるのか?大谷翔平の目標に向かう力

大谷翔平の育て方・育ち方(8)目標に向かう力

「まずやってみる」――この精神を大切にしている大谷翔平選手は、つねに自分の可能性を更新している。それは、縦横無尽にアンテナをめぐらせ、どんなことも野球に結びつけ、いいと思ったらやってみる、その「伸び幅」を自身の才...
収録日:2024/11/28
追加日:2025/04/21
桑原晃弥
経済・経営ジャーナリスト
2

100年ぶりのアメリカ第一主義とトランプ新政権3つの焦点

100年ぶりのアメリカ第一主義とトランプ新政権3つの焦点

トランプ2.0~アメリカ第一主義の逆襲(1)アメリカ第一主義の歴史

トランプ第2次政権が本格的に始動したアメリカ。トランプが掲げる「アメリカ第一主義(アメリカファースト)」とはなにか。それは100年ぶりともなる「フロンティアの再定義」であり、「地球からの撤退宣言」なのだという。いっ...
収録日:2025/03/21
追加日:2025/04/19
東秀敏
米国安全保障企画研究員
3

世界で一人負け…「安い国」日本と急性インフレの現実

世界で一人負け…「安い国」日本と急性インフレの現実

衰退途上国ニッポン~その急所と勝機(1)安いニッポンと急性インフレ

現在、世界中でインフレが発生し、日本でもここ1年ほど急激なインフレ(物価上昇)が進んでいる状況である。とはいえ日本は、長い間デフレに苦しみ、経済が停滞してきた過去がある。しかも戦後、デフレを経験したのは日本だけな...
収録日:2023/06/30
追加日:2023/10/31
宮本弘曉
一橋大学経済研究所教授
4

『門』で描かれた明治の大事件…主人公・宗助は何と言うか

『門』で描かれた明治の大事件…主人公・宗助は何と言うか

いま夏目漱石の前期三部作を読む(8)『門』の世界観と日本の近代化

「この世の中はデタラメにできている」…実家に残された屏風の売買を通じて世の中の不条理を感じた『門』の主人公・宗助。その後、略奪した妻の元夫である安井が戻ってくることを知ると、逃避するようにして禅の修行へ向かうが、...
収録日:2024/12/02
追加日:2025/04/20
與那覇潤
評論家
5

トランプ戦略の歴史的検証…そして日本はどうすべきか

トランプ戦略の歴史的検証…そして日本はどうすべきか

世界を混乱させるトランプ関税攻勢の狙い(4)日本はどうすべきか

第二次世界大戦後、アメリカは自ら世界を支え、世界を発展させることで、自国の繁栄を実現してきた。だが、トランプ大統領は、そのようなアメリカの歴史を全否定し、むしろ「アメリカ崩壊の要因」と考えているようである。その...
収録日:2025/04/04
追加日:2025/04/13
島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授