テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2020.11.19

現代で配慮すべき「性別表現」ガイドライン

 男女共同参画社会基本法が公布され早20年が経とうとしています。昭和の頃に比べれば一般的な男女観は変わってきており、女性の社会進出や男性の家事育児も普通のこととして浸透しつつあります。とはいえ、今日でもなお古い価値観に基づいたCMが炎上し、こんな時代錯誤な宣伝が未だに作られるのかと絶句させられることも少なくありません。

 現代はまさに新旧の価値観が混ざり合う過渡期、公共機関や企業はそれに対応した新しい広報のガイドラインを提示しています。今回はそれらガイドラインにどのようなことが書かれているのかを紹介します。

性別による役割分担イメージを刷新

 かつてCMで使われた「私作る人、僕食べる人」というフレーズをご存知の方も多いのではないでしょうか。婦人団体から性別役割分担の固定化につながると抗議を受けた結果、約2ヶ月で放送中止になりました。現代の広報では、従来の男女の役割分担的イメージへの配慮、刷新がひとつのキーになっているといっても過言ではありません。

 各自治体のガイドラインでは、広報に使われるイラストや写真へも配慮を促しています。たとえば《夕飯前の家族の様子》を描いたイラスト画では、

<従来→新>
《ご飯を作っているお母さん》→《テーブルの上を片付けているお母さん》
《お手伝いをする女の子》→《お手伝いをする》
《パソコンで作業中のお父さん》→《ご飯を作っているお父さん》
《遊んでいる男の子》→《お手伝いをする》

 というように、男女共に家事をするイメージが掲げられています。また、職場での会議や講演会の様子を描いたイラストなどにありがちな、《中心的な男性》《従属的な女性》という構図や、防犯ポスターなどでしばしば目にする《被害者=女性/加害者=男性》という役回りも、性別で固定せず均等にするよう推奨されています。

 他にも「火の用心! 火事に気をつけよう!」と訴えるポスターに火事とも消防署とも関係ない女性の写真やイラストを載せるなど、アイキャッチャーとして女性を使う広告も見直しが呼びかけられているようです。

言葉のガイドライン《職業編》

 ガイドラインには私たちに身近な《言葉》や《名称》の改正も提示されています。
 職業にまつわる名称で性別にとらわれることのないよう変わったものとして真っ先に思い浮かぶのは「看護婦」が「看護師」になったことでしょう。2001年に「保健婦助産婦看護婦法」が「保健師助産師看護師法」という名称に変わったことにより、翌年から男女共に「看護師」に統一されました。他にも「スチュワーデス」が「客室乗務員(キャビン・アテンダント)」になったように、様々な職業名が改められてきています。

・「営業マン」→「営業社員」
・「サラリーマン/OL」→「会社員」
・「女子アナ」→「アナウンサー」
・「カメラマン」→「フォトグラファー/写真家」
・「女流作家」→「作家」
・「女社長」→「経営者」

 一部例外として「女優」や「巫女」などはそのままで良いそうですが、職業を不必要に《マン=男性》に限定しない、性別を強調したり特別視したりしないことに基準があるようです。

 とはいえ、大河ドラマ『女城主 井伊直虎』のタイトルが『城主 井伊直虎』になってしまうと、戦国時代という過酷な時代を城主として強く生き抜いた女性がいたというアピールが効かなくなってしまいます。ただの言葉狩りにならないよう、パブリックとエンターテイメントなど場面によっての使い分けが求められるところです。

言葉のガイドライン《日常編》

 家父長制や家制度に基づいた表現の見直しも図られています。「奥さん」「家内」「旦那さん」「主人」「亭主」という言葉は男性を主としてとらえ、女性は家の中にいるものという旧来のイメージを抱かせるものとして、今では「妻/夫」「つれあい」「パートナー」などに改められています。

 ……しかし、そうなると名前で呼べるほど親しくない人のパートナーについて質問するときは困ってしまいますね。「奥さん/旦那さんはお元気にされていますか?」というような質問をしたいときに「パートナーはお元気にされていますか?」だといまひとつ座りが悪い気がします。いずれ新しい言葉が出てくるかもしれません。

 他にも結婚を表す言葉では、
・「嫁をもらう/やる/嫁ぐ」→「結婚する」
・「入籍」→「婚姻届を出す」
・「婿/嫁」→「娘の夫/息子の妻」
・「姑/舅」→「妻or夫の母/妻or夫の父」

 など、何気なく口にしている名称にもメスが入れられていました。世代によっては馴染むのに時間がかかりそうですね。

 このように、日常における言葉遣いのレベルからも男女平等意識の変革が行われるよう、ガイドラインでは制定されています。しかし、何よりも望まれているのは《名》だけでなく《実》がともなう男女平等社会の実現であることに相違ありません。男女のいずれの性別であることも、人生設計の妨げにならない時代の到来が待ち望まれます。

<参考サイト>
・『男女共同参画の視点からの公的広報の手引』宇都宮市
https://www.city.utsunomiya.tochigi.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/012/720/kouhoutebiki.pdf
・『男女の表現についていっしょに考えてみませんか』宝塚市
http://www.city.takarazuka.hyogo.jp/s/_res/projects/default_project/_page_/001/000/450/guideline.pdf

~最後までコラムを読んでくれた方へ~
「学ぶことが楽しい」方には 『テンミニッツTV』 がオススメです。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,100本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

失敗から学んだ石田梅岩、独学で教養を高めた少年期の体験

失敗から学んだ石田梅岩、独学で教養を高めた少年期の体験

石田梅岩の心学に学ぶ(2)梅岩の教養を育んだ少年期の体験

江戸の町人の例に漏れず11歳で奉公に出た石田梅岩だが、奉公先の商家の事情から15歳で帰郷する。失敗ともいえるこの体験が梅岩思想に与えた影響は大きいと言う田口氏。郷里へ戻った梅岩が23歳で再び奉公するまでの記録は残って...
収録日:2022/06/28
追加日:2024/04/15
田口佳史
東洋思想研究家
2

ロボットの「カンブリア爆発」時代へ電動化がもたらすもの

ロボットの「カンブリア爆発」時代へ電動化がもたらすもの

日本のエネルギー&デジタル戦略の未来像(1)電動化で起こる「カンブリア爆発」

「カーボンニュートラル」に代表されるように、持続可能なエネルギー活用を目指す動きは世界的に加速している。特に東日本大震災以降、日本でもエネルギー問題は課題となっている。では日本は、どのようなエネルギー戦略を構築...
収録日:2024/02/07
追加日:2024/04/13
岡本浩
東京電力パワーグリッド株式会社取締役副社長執行役員最高技術責任者
3

がん治療にも応用、オートファジーによる疾患制御の方向性

がん治療にも応用、オートファジーによる疾患制御の方向性

オートファジー入門~細胞内のリサイクル~(5)オートファジーと疾患の関係

オートファジーは人間の疾患とどのように関係しているのか。大隅良典氏の研究を皮切りに、急速に発展してきたオートファジー研究だが、その研究成果は医学の分野において、薬剤の開発やがん治療への応用など、新たな手法を生み...
収録日:2023/12/15
追加日:2024/04/14
水島昇
東京大学 大学院医学系研究科・医学部 教授
4

議論で和を実現せよ、怒りと執着を捨て凡夫の自覚を持て

議論で和を実現せよ、怒りと執着を捨て凡夫の自覚を持て

聖徳太子「十七条憲法」を読む(5)条文を読む…和と議論

「議論によって和を実現する」――これは、十七条憲法の条文の中で最も多くかつ非常に重要なこととして第一条、第十条、第十五条、第十七条に記されている内容である。議論を尽くすことにより自ずと立ち上がる道理。また、その前...
収録日:2023/08/24
追加日:2024/01/04
賴住光子
東京大学大学院人文社会系研究科・文学部倫理学研究室教授
5

なぜ今「心理的安全性」なのか、注目を集める背景に迫る

なぜ今「心理的安全性」なのか、注目を集める背景に迫る

チームパフォーマンスを高める心理的安全性(1)心理的安全性が注目される理由

「心理的安全性」は近年もっとも注目されるビジネスバズワードの一つともいわれている。その背景には、コロナ禍におけるリモートワークの増大、社会全体が未来予測の難しい「VUCAの時代」に入ったことがある。職場環境が多様に...
収録日:2022/04/26
追加日:2022/07/23
青島未佳
一般社団法人チーム力開発研究所 理事