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仕事で使える英語を習得!『英語独習法』とは
「楽(らく)して英語を習得したい」という願望を抱いた数多の挑戦者たちが、英語習得の高い壁の前に挫折してきました。しかし、そんな人にもオススメできる一冊として、慶應義塾大学環境情報学部教授・今井むつみ氏の『英語独習法』(岩波新書)が話題となっています。本書の画期的な点は、今井氏の専門である認知科学の視点、すなわち「人は世界をどのように見て、見たことを記憶しているのだろう?」という問いから書かれている点です。
さらに本書は、「仕事で使える英語」すなわち「自分の考えを的確・効果的に表現し、相手に伝えられるレベルの英語力」という明確な目標に向けて、「合理的に楽(たの)しみながら」英語を習得する方法(しかも独習で!)を、今井氏が自身の三大研究テーマ、1)言語と思考の関係、2)ことばの発達の研究、3)学びと教育の問題、――が重なり合う真ん中に立ち、日本語を母語とする者が英語を学習することをいかに身体化させえるかを書ききった、真に役立つ「実践の書」でもあります。
スキーマは、母語を使う際のメカニズムに当てはめるとわかりやすくなります。日常的に不自由なく使えている母語であっても、実はことばで説明できる知識は氷山の一角のようなもので、ほとんどの知識は言語化できていません。つまり、スキーマは、無意識にアクセスされる知識であり、かつ、ことばで表現されるようなルールとは違います。状況に応じて瞬時に身体が反応するような、“身体に埋め込まれた意味のシステム”といえます。
そしてスキーマは、生きていくために欠かせない重要なシステムでもあります。スキーマのおかげで類推や比喩といった認知の“飛び”で省略や想像をすることができ、脳を効率的かつ創造的に活用することができるからです。しかしながら、母語と外国語とではスキーマが異なります。そのため、英語と日本語のスキーマのズレがあり、多くの場合、英語学習を妨げてしまう結果となってしまいます。
(1)(2)は大前提ですが、それ以上に重要なとなる(3)の最大の理由を、「人は正しいスキーマを誰かに教えられただけでは、結局前からあるスキーマに負けてしまい、新しい、正しいスキーマを定着させることができないから」と説いています。そして(3)を行う際に大切なポイントとして、「意識」と「比較」挙げています。
英語スキーマをアウトプットに使えるようにすることは、すでに身体の一部になっている日本語スキーマとの闘いともいえます。闘いに勝つためには、学習者が表面に現れない英語のパターンを“自分で”見つけていかなければいけません。なお、その際に失敗を恐れる必要はありません。むしろ「仮説をもち、予測をして、それが裏切られたとき、人はもっともよく学ぶ」ため、自分で考えて取り組んだ場合の失敗は、未来の勝利のために最重要なファクターであると捉えることができます。
さらに具体的な学習に落とし込み、「スキーマ探索の最初の一歩は、単語それぞれの意味を今までより深く調べること」とし、必ず複数の例文に当たることによってことばの意味が点ではなく面であることを実感することが必要であること、さらにはオンラインなどでも展開されている「コーパス」というさまざまジャンルのテキストを集めたものを活用したコーパス学習によって、一つの単語から多くの文例を身体に通すこと。それらによって、その単語が使われる構文、使われる頻度、文脈、意味の広がり、共起語、さらにその単語が属する意味のネットワークまで自ら探っていくことで語彙を強化し、さらにその語彙のスキーマを身につけることができるとしています。
もちろん語彙が十分に育っていなければ文章は書けませんが、語彙の知識には限りがないのも事実です。しかしながら、人は推論によって自分で知識を増殖していく力をもっています。なんらかの法則を推論したら、すかさず次にその法則が他の関連した単語の使いかたに当てはまるかどうかも考える。つまり、仮説をもち、予測をして、実践する、そのアウトプットを試みることが大事なのです。
ただし、「悪いクセ」は意識して注意を向けないと絶対に直らないため、アウトプットしただけでは向上が望めません。理屈を習慣的に使えるようになるためには、「注意をむけながら」とにかく数をこなしつつも適切なフィードバックをかけ、自分で感覚をつかんでいくことが肝要となってきます。
結局のところ達人となるためには、無理をしすぎることなく、けれどもうまずたゆまずとにかく続けていくことで、「頭の知識」を「身体の知識」にするしかない。つまりは、人が何かを学習して熟達するということは、さまざまなことに注意を向けられるようになることではなく、その逆で “必要なことにしか注意を向けなくなること”といえます。
「自分の考えを的確・効果的に表現し、相手に伝えられるレベルの英語力」を身につけるためには、母語のスキーマを身につけ過程を後天的に体得するしかないといえますが、ここまでできれば十分に「仕事で使える英語」を体得していることでしょう。
今井氏は「英語を自由に使えるようになるということ」は「英語独自の世界の切り分けかた、世界のとらえかたを“身体に落とし込む”ことである」とし、さらに「熟達者になるために大事なこと」とは「知識を自分で探求し、発見する過程で、“生きた知識を生み出すサイクル”を編み出していくこと」と述べています。
本書を読みすすめていくうちに、「英語の習得」にとどまらず「英語の独習」まで深められている点、さらには「おとなであるからこそ楽しめる学びのための実践の書」であるという点がいわば身体化されるとともに、本書のテーマである、「合理的に楽(たの)しみながら続けていく」ことこそが「達人(プロフェッショナル)」になるために必要であることをポジティブに実感させてくれるのです。興味のある方は一度それを体感してみてはいかがでしょう。
さらに本書は、「仕事で使える英語」すなわち「自分の考えを的確・効果的に表現し、相手に伝えられるレベルの英語力」という明確な目標に向けて、「合理的に楽(たの)しみながら」英語を習得する方法(しかも独習で!)を、今井氏が自身の三大研究テーマ、1)言語と思考の関係、2)ことばの発達の研究、3)学びと教育の問題、――が重なり合う真ん中に立ち、日本語を母語とする者が英語を学習することをいかに身体化させえるかを書ききった、真に役立つ「実践の書」でもあります。
鍵概念「スキーマ」とは?
まず本書では、英語の文法や単語を「知っている」から「使える」ようにするために、認知心理学の鍵概念である「スキーマ」に注目します。「スキーマ」とは「ある事柄についての枠組みとなる知識」であり、「知識のシステム」(=抽象的な意味のシステム)ともいうべきものですが、多くの場合は自分がもっていることを意識することができていません。スキーマは、母語を使う際のメカニズムに当てはめるとわかりやすくなります。日常的に不自由なく使えている母語であっても、実はことばで説明できる知識は氷山の一角のようなもので、ほとんどの知識は言語化できていません。つまり、スキーマは、無意識にアクセスされる知識であり、かつ、ことばで表現されるようなルールとは違います。状況に応じて瞬時に身体が反応するような、“身体に埋め込まれた意味のシステム”といえます。
そしてスキーマは、生きていくために欠かせない重要なシステムでもあります。スキーマのおかげで類推や比喩といった認知の“飛び”で省略や想像をすることができ、脳を効率的かつ創造的に活用することができるからです。しかしながら、母語と外国語とではスキーマが異なります。そのため、英語と日本語のスキーマのズレがあり、多くの場合、英語学習を妨げてしまう結果となってしまいます。
スキーマのズレは“自分で”認識する
ではスキーマのズレにはどのように対処したらよいのでしょうか。本書では、日本語母語話者はまず、(1)英語を使うときに無意識に日本語スキーマを使っていること、(2)日本語スキーマを使ったままで不自然な英作文を作ってしまうこと、――を認識する必要があること。そのうえで、(3)英語母語話者のスキーマを自分で探していくことが重要、――と述べています。(1)(2)は大前提ですが、それ以上に重要なとなる(3)の最大の理由を、「人は正しいスキーマを誰かに教えられただけでは、結局前からあるスキーマに負けてしまい、新しい、正しいスキーマを定着させることができないから」と説いています。そして(3)を行う際に大切なポイントとして、「意識」と「比較」挙げています。
英語スキーマをアウトプットに使えるようにすることは、すでに身体の一部になっている日本語スキーマとの闘いともいえます。闘いに勝つためには、学習者が表面に現れない英語のパターンを“自分で”見つけていかなければいけません。なお、その際に失敗を恐れる必要はありません。むしろ「仮説をもち、予測をして、それが裏切られたとき、人はもっともよく学ぶ」ため、自分で考えて取り組んだ場合の失敗は、未来の勝利のために最重要なファクターであると捉えることができます。
さらに具体的な学習に落とし込み、「スキーマ探索の最初の一歩は、単語それぞれの意味を今までより深く調べること」とし、必ず複数の例文に当たることによってことばの意味が点ではなく面であることを実感することが必要であること、さらにはオンラインなどでも展開されている「コーパス」というさまざまジャンルのテキストを集めたものを活用したコーパス学習によって、一つの単語から多くの文例を身体に通すこと。それらによって、その単語が使われる構文、使われる頻度、文脈、意味の広がり、共起語、さらにその単語が属する意味のネットワークまで自ら探っていくことで語彙を強化し、さらにその語彙のスキーマを身につけることができるとしています。
「達人(プロフェッショナル)」への過程
しかしながら、コーパス学習までだけでは、まだ「頭の知識」で留まっている状態です。英語の単語や文法の知識を自在に使うためには、単語を使ってたくさんの文をアウトプットする訓練が必要となります。そして、「達人(プロフェッショナル)」レベルに堪えうる英語の表現力を身につけるためには、なによりも語彙が大切であることを、本書は示します。もちろん語彙が十分に育っていなければ文章は書けませんが、語彙の知識には限りがないのも事実です。しかしながら、人は推論によって自分で知識を増殖していく力をもっています。なんらかの法則を推論したら、すかさず次にその法則が他の関連した単語の使いかたに当てはまるかどうかも考える。つまり、仮説をもち、予測をして、実践する、そのアウトプットを試みることが大事なのです。
ただし、「悪いクセ」は意識して注意を向けないと絶対に直らないため、アウトプットしただけでは向上が望めません。理屈を習慣的に使えるようになるためには、「注意をむけながら」とにかく数をこなしつつも適切なフィードバックをかけ、自分で感覚をつかんでいくことが肝要となってきます。
結局のところ達人となるためには、無理をしすぎることなく、けれどもうまずたゆまずとにかく続けていくことで、「頭の知識」を「身体の知識」にするしかない。つまりは、人が何かを学習して熟達するということは、さまざまなことに注意を向けられるようになることではなく、その逆で “必要なことにしか注意を向けなくなること”といえます。
「自分の考えを的確・効果的に表現し、相手に伝えられるレベルの英語力」を身につけるためには、母語のスキーマを身につけ過程を後天的に体得するしかないといえますが、ここまでできれば十分に「仕事で使える英語」を体得していることでしょう。
「合理的かつ合理的を超えた楽しみ」を与えてくれる貴重な一冊
最後に、本書のもう一つの魅力として“読み物としての面白さ”を挙げたいと思います。認知科学の観点で合理的に言語習得のメカニズムを類推しながら解き明かしていく過程は、極上の本格推理小説さながらかつ、まさに自分の脳から身体を通した生物進化の名著体験として、純粋に読書の喜びや学びへの好奇心を高めてくれます。そんな本書は、まさに「合理的かつ合理的を超えた楽しみ」を与えてくれる貴重な一冊といえます。今井氏は「英語を自由に使えるようになるということ」は「英語独自の世界の切り分けかた、世界のとらえかたを“身体に落とし込む”ことである」とし、さらに「熟達者になるために大事なこと」とは「知識を自分で探求し、発見する過程で、“生きた知識を生み出すサイクル”を編み出していくこと」と述べています。
本書を読みすすめていくうちに、「英語の習得」にとどまらず「英語の独習」まで深められている点、さらには「おとなであるからこそ楽しめる学びのための実践の書」であるという点がいわば身体化されるとともに、本書のテーマである、「合理的に楽(たの)しみながら続けていく」ことこそが「達人(プロフェッショナル)」になるために必要であることをポジティブに実感させてくれるのです。興味のある方は一度それを体感してみてはいかがでしょう。
<参考文献>
『英語独習法』(今井むつみ著、岩波新書)
https://www.iwanami.co.jp/book/b548866.html
<参考サイト>
今井むつみ先生の研究室
https://cogpsy.sfc.keio.ac.jp/imailab/
『英語独習法』(今井むつみ著、岩波新書)
https://www.iwanami.co.jp/book/b548866.html
<参考サイト>
今井むつみ先生の研究室
https://cogpsy.sfc.keio.ac.jp/imailab/
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