テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2021.10.29

ネットでよく見る美容系広告の闇

 スマートフォンでウェブサイトを見ていると「サプリを飲むだけで10キロ痩せる」「シミが消える」など、極端な言葉を使う美容系広告に出会うことがありますよね。時にはその言葉を鵜呑みにしてクリックしてしまうこともあるかもしれません。

 しかし、このような美容広告には違法広告が多く含まれていることをご存じですか? 違法でありながらなぜ広告が表示されてしまうのでしょうか。今回は美容広告の闇を深堀りしてみましょう。

どんな違法広告があるのか

 広告を出す際には消費者に誤解を与えないように、さまざまなルールが決められています。しかしそれらのルールを守らない広告がよく見られます。どんな広告がどんなルールに反しているのかを紹介します。

・薬機法の違反

 化粧品やサプリの広告で「シミが消える」「飲むだけで10キロ減」「医者も認めた」という言葉を目にしますがが、こうした表現は、化粧品を含む医薬品などの品質、有効性及び安全性に関するルールを細かく定めた、薬機法に違反するものになります。

 薬機法では、他社商品の誹謗広告の制限、医薬関係者等の推薦、効果効能や安全性を保証する表現などは認められていません。また、化粧品の効果効能として使える表現は56個に限定されています。こうしたルールに照らし合わせると、上記の3つはいずれも薬機法に抵触することが分かるでしょう。

・医療法の違反

 美容手術などの広告でよく見る「ビフォーアフターで劇的な変化」「著名人も施術」「99%の満足度」といった表現は医療業界のルールである医療法が定める広告規制に抵触することもあります。

 医療法では虚偽広告、比較優良広告、誇大広告、公序良俗に反する広告、誤認のおそれがある治療の前または後の写真の広告などが原則禁止されています。これらに照らし合わせてみると、いずれも当てはまることが分かります。

 この他にも、商品やサービスの品質、内容、価格等を偽って表示を行うことを厳しく規制する景品表示法や、団体が定める化粧品等の適正広告ガイドライン、化粧品の表示に関する公正競争規約など、美容広告にはさまざまなルールが細かく決められています。厳しいルールに照らし合わせて法律的に問題のない美容広告もありますが、極端な表現や誇大している場合にはこうしたルールに反していることもあることを覚えておきましょう。

なぜ違法広告が表示されてしまうのか

 こうした事態が認識されていながら、違法広告は野放しになってしまっている理由のひとつに、web広告という媒体の特殊性があげられます。web広告はオークション形式で枠が買われることが多く、より高い金額で入札した広告が表示される仕組みがあります。この形式ではより過激な言葉で消費者の興味を引き、もうけを生む違法広告の方が儲かるので高い金額で入札できる、つまりより高い確率で違法広告が表示されるようになってしまう、というカラクリができてしまっているのです。

 では、広告の審査を厳しくすることはできないのでしょうか。運営会社は広告をまったくチェックしていないわけではありませんが、専門的な知識が必要なチェックは専門家に依頼する必要があり、そのコストを払うことは経営的にも現実的ではないのでしょう。

 そして、こうした問題が起こっているにも関わらず「周りもやっているからうちもやる」と現状を打開する人がいないということも大きな問題でしょう。こうした違法広告にしかるべき制裁が与えられるようになれば罰則や課徴金、措置命令が下されることもあり、社会的信頼にも関わる大きな問題にもなりえるのです。その問題の大きさを知らずに違法広告に関わっている人も決して少なくないのです。

私たちへの影響は?

 最後に、違法広告が私たちに与える影響について考えてみましょう。広告で紹介したような表現が使われている場合、私たちは「私も絶対に10キロ痩せられる」など思ったりするでしょう。しかし、それは広告のようには実現しないことがほとんどでしょうし、ひどい場合には違法の成分が含まれることで健康を害するおそれもあります。こうしたケースは一例ですが、決して人ごとだと思わずに、甘い言葉の広告には騙されないように気をつける必要があります。

 本来、広告は正しい情報を消費者に伝えるべきツールですが、違法広告はその根幹を揺るがす存在でもあります。広告業界の工夫なのか行政の介入なのか、違法広告が取り締まられる日がくることを願うばかりです。

<参考サイト>
薬機法(旧薬事法)の化粧品で認められる効能効果と広告表現│薬事法マーケティングの教科書
https://yakujihou-marketing.net/archives/125
医療法改正! 美容医療クリニックのウェブサイトにも広告規制が!│独立行政法人国民生活センター
http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20180524_1.pdf
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,300本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

55年体制は民主主義的で、野党もブレーキ役に担っていた

55年体制は民主主義的で、野党もブレーキ役に担っていた

55年体制と2012年体制(1)質的な違いと野党がなすべきこと

戦後の日本の自民党一党支配体制は、現在の安倍政権における自民党一党支配と比べて、何がどのように違うのか。「55年体制」と「2012年体制」の違いと、民主党をはじめ現在の野党がなすべきことについて、ジェラルド・カ...
収録日:2014/11/18
追加日:2014/12/09
2

5Gはなぜワールドワイドで推進されていったのか

5Gはなぜワールドワイドで推進されていったのか

5Gとローカル5G(1)5G推進の背景

第5世代移動通信システムである5Gが、日本でもいよいよ導入される。世界中で5Gが導入されている背景には、2020年代に訪れるというデータ容量の爆発的な増大に伴う、移動通信システムの刷新がある。5Gにより、高精細動画のような...
収録日:2019/11/20
追加日:2019/12/01
中尾彰宏
東京大学 大学院工学系研究科 教授
3

マスコミは本来、与野党機能を果たすべき

マスコミは本来、与野党機能を果たすべき

マスコミと政治の距離~マスコミの使命と課題を考える

政治学者・曽根泰教氏が、マスコミと政治の距離を中心に、マスコミの使命と課題について論じる。日本の新聞は各社それぞれの立場をとっており、その報道の基本姿勢は「客観報道」である。公的異議申し立てを前提とする中立的報...
収録日:2015/05/25
追加日:2015/06/29
曽根泰教
慶應義塾大学名誉教授
4

BREXITのEU首脳会議での膠着

BREXITのEU首脳会議での膠着

BREXITの経緯と課題(6)EU首脳会議における膠着

2018年10月に行われたEU首脳会議について解説する。北アイルランドの国境問題をめぐって、解決案をイギリスが見つけられなければ、北アイルランドのみ関税同盟に残す案が浮上するも、メイ首相や強硬離脱派はこれに反発している...
収録日:2018/12/04
追加日:2019/03/16
島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授
5

健康経営とは何か?取り組み方とメリット

健康経営とは何か?取り組み方とメリット

健康経営とは何か~その取り組みと期待される役割~

近年、企業における健康経営®の重要性が高まっている。少子高齢化による労働人口の減少が見込まれる中、労働力の確保と、生産性の向上は企業にとって最重要事項である。政府主導で進められている健康経営とは何か。それが提唱さ...
収録日:2021/07/29
追加日:2021/09/21
阿久津聡
一橋大学大学院経営管理研究科国際企業戦略専攻教授