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DATE/ 2021.11.29

ネットでよく見る「要約」コンテンツの違法性

 2020年に「ファスト映画」と呼ばれるコンテンツが問題となりました。これは映画を10分程度に編集した動画にナレーションや解説をつけてアップしたものです。中には700万回近く再生された動画もあるとのこと。一方、最近では「ビジネス本の図解アカウント」といったものもTwitterで見受けられます。では、こういった「要約」コンテンツに違法性はないのでしょうか。

「引用」かどうかというポイント

 「ファスト映画」はさまざまなポイントで違法となる点はあるようですが、ここでは「引用」という観点からみてみましょう。アカウントのスタンスは「映画の解説」というものでしたが、原作の映像や音声を使用してしまえば解説を超えているといえます。たしかに著作権法第32条では、一定要件の下で「引用」することは著作権の侵害にならない、という点が示されています。一般的に「引用」とみなされる条件は、著作物がすでに公表されている上で、報道、批評、研究などの引用の目的上「正当な範囲内」であることが前提です。また一般的に「引用箇所が明瞭に区別できる状況で、引用する側を主、引用される側を従と判別できる」ことが大事と考えられます。こう見てみると「ファスト映画」は元の映像そのものをただまとめているものだったので、やはり引用とは認められないと考えられるでしょう。

 この問題ではグループのうち一人が1000万円を超える賠償金を支払うことで和解したとのことです。投稿者の中には広告料を稼ぎたいといった人のほかに、「お気に入りの作品をより幅広い人たちに知ってほしい」という人もいたようです。しかし、どういった気持ちからであっても、こういった形式の場合、著作権者の許諾を得ていなければ責任を免れることはできないと考えられます。

「本図解」は著作権法条の「翻案」に該当する可能性

 一方、Twitter上では「本図解」といったコンテンツも見られるようになりました。これは本の重要な内容を抜粋し、表やグラフといった何枚かの画像にまとめた投稿のことです。特にビジネス書に関してのものが多いようですが、著者や出版社の許可を得て掲載しているのかどうかは不明です。また、最近では「図解アカウントの運用の仕方」といった情報商材も販売されているようです。こうしたノウハウによって、さらにさまざまな書籍が図解されています。

 この点に関してねとらぼの記事では、白石総合法律事務所の宮崎大輔弁護士の見解が示されています。これによると、「本図解」は著作権法違反になる可能性はあるとのこと。著作権法第27条には、「著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。」と記載されており、図解することは「翻案」に該当するという意見です。「本図解」も著作権者に同意を得ていない場合、著作権法違反となる可能性が高いとのことです。

著作権者の許諾を得た形で展開するサービスもある

 一方で、「要約」、「書評(レビュー)」、「要点解説」といったものをまとめてサブスクリプションにより提供するサービスもあります。こういったサービスは著作権者に確認をとることで、より正確で公正な情報を掲載するスタンスで運営されています。こうすることで実際にこの内容を見たユーザーが紹介された書籍を購入する流れがあるとのこと。つまりこの「要約」サービスによって、ユーザーは商品の詳細を知って好奇心を刺激されます。このことによって、実際に本を買って読んでみようという好循環が生み出されています。

 ここでは紹介者(要約サービス運営者)、ユーザー、出版社や書店まで誰も損をしない仕組みができているといえます。ここで大事な点は、その商品の紹介が勝手なものではなく、きちんと著作権者の確認をとっているという点です。ここまで取り上げた通り、著作権に関係する問題は多くの場合著作権者の許諾があるかどうかという点がポイントです。また許諾を得るためには、その制作物に関わる全てのひとに利益がある形を模索する必要があると言えるでしょう。

<参考サイト>
「ファスト映画」投稿者が初の逮捕、著作権法違反の疑いで|ITmedia NEWS
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2106/24/news078.html
「ファスト映画」で逮捕なぜ?「ファスト映画」の著作権法上の違法性について|知財FAQ
https://chizai-faq.com/2__copyright/7390
著作者にはどんな権利がある?|公益社団法人著作権情報センター
https://www.cric.or.jp/qa/hajime/hajime2.html
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