テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2021.12.09

50代から「定年準備」を始めた方が良い理由

 平均寿命が伸び、「人生100年時代」と呼ばれる現在、長くなった定年後の自分を見据える人が増えてきました。ベストセラー『定年後 50歳からの生き方、終わり方』(中公新書)を書かれた楠木新氏は、そのベスト・タイミングを50代から、と考えています。その理由、実際に取り組んだほうがいいことなどについて、整理してみました。

定年準備は「50代から」が必要十分

 一口に定年後といっても、現在の平均余命からすると、一般的な定年年齢である60歳から男性では21.64年、女性では27.74年の人生があります(厚生労働省発表・令和2年簡易生命表より算出)。仮に百歳長寿を達成すれば40年、会社人生とほぼ同じ長さです。

 そのうち60歳から70代半ばまでを「黄金の15年」と見ようと、楠木氏は主張しています。ただし、その年代を輝かせるも棒に振るのも準備次第。では、準備は早ければ早いほど良いのでしょうか。

 30代や40代、まだ定年した自分のイメージが十分に湧かないうちから定年準備を始める手回しのいい人も世の中にはいます。しかし、30代から40代は、まだまだ本業に取り組む時期、そこで蓄積した経験値や技能が定年後の財産になるというのが楠木氏の考え方です。

 また、肉体的な条件や気の持ち方も40代、50代、60代で段階的に変化します。せっかく若い頃から備えていても、いざその年代の自分にはフィットしない、ということがありがちなのです。

 逆に、60歳になってから準備なしに飛び込むのも考えもの。経験者の話によると、待ちに待った釣り三昧・ゴルフ天国の日々を楽しめるのも最初の2、3か月からせいぜい半年程度。長年の宮仕えからの解放感が覚めると、「今日、何をしていいか分からない」「今日、どこへ行っていいのか分からない」時期がやってきます。

「会社人間」から脱皮するのは10年がかり?

 居場所を探して、図書館や喫茶店、スポーツクラブに行くのも悪くはありませんが、やがて充実した「核」のようなものが欲しくなります。自由に使える時間のなかで、自分は何者かが問われるのが定年後なのです。

 「仕事」という生活の中心を失うことが定年だとすると、それに代わる社会的な価値観を見つけるため、経験やスキルを生かして再就職したり、何かのビジネスを始めてみたりすることも、いわば「居場所づくり」になります。居場所を見つけるとは結局、自分の頭や行動を切り替えること、「自分が役に立つのはどこか」を、会社の名刺を通さずに考えてみることだからです。

 そうはいっても居場所をシフトさせるには時間がかかります。そのために、50代の在職中から、少しずつ「仕事以外のこと」「これからの人生でやりたいこと」を見つけ、実践し、人脈などの輪を広げていくことが重要になってくるのです。

 新しいことを始めた場合、多くの人が「3年1区切り」のパターンを実感しているといいます。うまくいくにせよ、いかないにせよ、立場やポジションを動かすのにそのぐらいの期間はかかるのでしょう。10年あれば、「3年1区切り」を3回ほど体験することができます。試行錯誤はあるにせよ、会社人間が、新しい行動様式を身につけるには10年の移行期間が大切になるということです。

 60歳から65歳までの雇用延長制度を利用すると、これまでなじんできた「仕事」から離れる日が先に延びるだけでなく、その期間の仕事内容が変わったり、あるいは待遇面が厳しくなったりすることもあります。そうした状況に対して納得するのは難しいという人も少なくないようですが、この機会に思考を変えて、「会社人間」からの脱皮のための猶予期間と捉えてみるといいかもしれません。

「考える」よりも「行動する」ための7か条

 最後に最も気にかけたいのは、頭で考えるよりも行動が大事だということです。そのための方法を楠木氏は7か条にまとめました。ざっとご紹介しましょう。

1. 焦らずに急ぐ
2. 趣味の範囲にとどめない
3. 身銭を切る
4. 個人事業主と接触する
5. 相手のニーズに合わせる
6. 自分を持っていく場所を探す
7. 子どもの頃の自分をもう一度呼び戻す

 まず「焦らずに急ぐ」ということで、ともかく50歳になったら準備を始め、会社に属しながらできることを増やしていく。「趣味の範囲にとどめない」は、社会の要請に応えるため、少しでもお金になることにこだわるということ。次の「身銭を切る」では、会社の経費という感覚から離れて、今までの枠組みを破っていく。「個人事業主」からは、社会と直接つながる感覚を教えてもらう。「相手のニーズに合わせる」ことも、会社人間からの脱皮につながる。そして「自分を持っていく場所を探す」ためにも、「子どもの頃の自分をもう一度呼び戻す」ことは、大きなきっかけになる。

 ということで、足を動かし、人と出会って、「定年後」の黄金の15年間を謳歌したいものです。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
“社会人学習”できていますか? 『テンミニッツTV』 なら手軽に始められます。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

相互依存で平和は保てるか…EUの深化・拡大の難題とは

相互依存で平和は保てるか…EUの深化・拡大の難題とは

地政学入門 ヨーロッパ編(9)EUの深化・拡大とトルコの問題

国際政治の理論として国同士の経済交流、相互依存が安全保障、つまり平和を維持できると伝統的に考えられてきたが、今般の国際政治ではそれは必ずしも当てはまらないようだ。そこでEUの問題である。国の垣根を越えて世界国家に...
収録日:2025/02/28
追加日:2025/06/30
小原雅博
東京大学名誉教授
2

最悪のシナリオは?…しかしなぜ日本は報復すべきでないか

最悪のシナリオは?…しかしなぜ日本は報復すべきでないか

第2次トランプ政権の危険性と本質(8)反エリート主義と最悪のシナリオ

反エリート主義を基本線とするトランプ大統領は、金融政策の要であるFRBですらも敵対視し、圧力をかけている。このまま専門家軽視による経済政策が進めば、コロナ禍に匹敵する経済ショックが世界的に起こる可能性がある。最終話...
収録日:2025/04/07
追加日:2025/06/28
柿埜真吾
経済学者
3

江藤淳と加藤典洋――AI時代を生きる鍵は文芸評論家の仕事

江藤淳と加藤典洋――AI時代を生きる鍵は文芸評論家の仕事

AI時代に甦る文芸評論~江藤淳と加藤典洋(1)AIに代わられない仕事とは何か

昨今、生成AIに代表されるようにAIの進化が目覚ましく、「AIに代わられる仕事、代わられない仕事」といったテーマが巷で非常に話題となっている。では、AIに代わられない事とは何であろうか。そこで、『江藤淳と加藤典洋』(文...
収録日:2025/04/10
追加日:2025/06/25
與那覇潤
評論家
4

遍歴とアバター…多様な仏、多様な菩薩が変容する面白さ

遍歴とアバター…多様な仏、多様な菩薩が変容する面白さ

おもしろき『法華経』の世界(5)遍歴するアバター

『銀河鉄道の夜』の著者・宮沢賢治にとってもそうだが、『法華経』の重要なテーマは「遍歴」であると考えられる。遍歴や修行の旅は、仏教的には方便を用いて悟りに向かうことだが、『大日経』住心品には悟りと大悲こそが究境と...
収録日:2025/01/27
追加日:2025/06/29
鎌田東二
京都大学名誉教授
5

重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ

重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ

「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス

「重要思考」で考え、伝え、聴き、そして会話・議論する――三谷宏治氏が著書『一瞬で大切なことを伝える技術』の中で提唱した「重要思考」は、大事な論理思考の一つである。近年、「ロジカルシンキング」の重要性が叫ばれるよう...
収録日:2023/10/06
追加日:2024/01/24
三谷宏治
KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院 教授