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DATE/ 2022.07.05

世界のパトカー、車種の採用基準は?

 日本では交通取り締まりを行う車を「交通取締用四輪車」といい、一般的な犯罪・事件を取り締まる車を「無線警ら車」といいます。こういった用途の違いによりグレードの違いはあるようですが、パトカーの多くはクラウンです。では、海外ではどのような車がパトカーとして活躍しているのでしょうか。ここでは海外のパトカーの車種についてみてみましょう。また、後半では日本のパトカーはなぜクラウンなのか、という点についても整理します。

ドバイで活躍するGT-R

 UAE(アラブ首長国連邦)の7首長国の一つ、ドバイの警察にはスーパーカー部隊があります。ここでは世界で名だたるスポーツカーが警察車両として採用されています。例えばフランスの超高速スーパーカー、ブガッティ・ヴェイロン。最高400km/h越えの市販車です。スピードだけでなく価格も桁違い。1台1億円を超える超弩級のパトカーです。他にもドアが上に開くランボルギーニ・アヴェンタドール、フェラーリFF、アストンマーチンOne-77。ほかにもベンツ、BMW、マクラーレン、といった車が並んでいるそうです。またこの中には日本の最高速スーパーカー、日産GT-Rも入っています。

 こういった車両を導入している背景には、市民や観光客に友好的なイメージをもってもらう目的があるようです。このあたりは、さすがは世界に名をはせる観光立国です。徹底したアピールで世界的にも話題性抜群です。もちろんスピード違反をブガッティ・ヴェイロンに見つかれば、どのような車であれ逃げる術はありません。実用性としても十分過ぎる車たちです。

イタリアはランボルギーニ

 ランボルギーニと言えば、あの極端に平べったいデザインのイタリアを代表する高級スポーツカーです。イタリアの交通警察(国家警察)ではランボルギーニ社から寄贈された車両が活躍しています。2004年、2008年にはランボルギーニガヤルドが寄贈されています。この車両は高速道路のパトロールや緊急医療輸送任務にあたっているそうです。水色の車体には白いラインが入り「POLIZIA」の文字。緊急出動にはめっぽう強い車と言えるでしょう。

 ガヤルドの最高速度は325km/h。移植用の臓器輸送などにも利用されているそうです。ただし運転できるのは特殊な訓練を受けた30名(男性27名、女性3名)の警察官のみ。2014年にはガヤルドに代わってランボルギーニウラカンLP610-4が、2017年には警察用モデル、ウラカンポリツィアが寄贈されています。一方、一般的な警察車両で多く採用されているのはフィアットのパンダやプントといった小型車なども多いようです。

イギリスは日本車をはじめとしてバラエティ豊か

 イギリスで活躍する警察車両は輸入車が多いようです。日本車も多く採用されています。例をあげると、三菱ランサーエボリューションX、三菱・パジェロ/アウトランダー、レクサスRC、SUBARUインプレッサ、ホンダ・CR-V、といったさまざまな日本メーカーの車両があります。他の国の車両では、ボルボ・V70、フォード・クーガ、アウディ・A4といった車両も多いです。基本的には性能重視で選ぶようです。

 またBMWのi3は大気汚染対策として2017年から導入されています。現在は国内外のメーカーと電気自動車の導入で話し合っているそうです。イギリスの警察車両のデザインは、以前は特に決まっていなかったようですが、2011年ごろから統一され、白地に蛍光の黄色と青、オレンジといったかなり目立つ配色となっています。

日本のパトカーは採用基準が厳しい

 このように海外ではさまざまな車が警察車両として活躍していますが、先に示した通り日本で採用されているパトカーの多くはトヨタクラウン。警察車両が導入される際には、警察庁が国費を用いて一般入札で購入するものと、各都道府県が独自予算で購入する車両があります。このうち警察庁が導入する車両には以下の基準があります。

「4ドアセダン」「排気量2500cc級以上」「乗車定員5名以上」「トランクルームは、床面が概ねフラットなものであり、容量が450L以上」その他さまざまな点での耐久性など。メーカーはこの基準に応じた専用グレードを作る必要があります。こうして現在、パトカーの専用グレードを設けているのはクラウンのみとなっています。

クラウン以外のパトカー

 つまり、日本ではこういった基準に対応できるのは現状ではほぼトヨタクラウンのみということになります。ほかの車種がこれに対抗するにはかなりのコストがかかり、またリスクを追うことになります。こうして他に入札に参加するメーカーはありません。ただし、各都道府県が独自予算で購入する車両にはもう少しバラエティがあるようです。たとえば、警視庁ではトヨタ「マークXスーパーチャージャー」やトヨタ「カムリ」、日産「フェアレディZ NISMO」、埼玉県警ではスバル「WRX S4」などが導入されているそうです。

 これらは導入台数が少ないことから、個々にパトカー仕様に改装して納入するとのこと。ただしこの先はイギリスに見られるような、環境性能に関連した車両を導入する必要も生まれてくるでしょう。そうなったときには現状の採用基準にも変化が生まれるかもしれません。

<参考サイト>
警察のパトカーにトヨタ クラウンが多い理由とは|WEB CARTOP
https://www.webcartop.jp/2018/04/221967/
世界各国で活躍するポリスカーは個性派ぞろい!?その国を象徴する車たち|UruCar
https://crnavi.jp/detail/14015/
アウトランダーPHEVやスバルXVなど…海外で活躍する日本車パトカーたち|Carme
https://car-me.jp/articles/11503
世界のパトカー事情│日本と海外では何が違う?車種と特徴まとめ|WONDER!SCHOOL
https://thewonder.it/article/202/description/#midashi4
日本で最も困るのは警察!? クラウンがSUV化したら日本のパトカー事情に大激震か!?|ベストカー
https://bestcarweb.jp/feature/column/236223
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小原雅博
東京大学名誉教授