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DATE/ 2023.01.20

海外の「流行語大賞」はどんなワード?

年末の風物詩・流行語大賞、実は…

 毎年恒例の流行語大賞、主催者によっていくつか種類がありますが、代名詞的存在となっているのが資格の通信教育講座を行っているユーキャンの「新語・流行語大賞」でしょう。2022年の流行語大賞は、プロ野球ヤクルトスワローズの村上宗隆選手の大活躍を神様になぞらえた「村神様」でした。このほかにも流行語の賞はいろいろあり、ネット風評を監視するイー・ガーディアンの「SNS流行語大賞」では、漫画作品「ちいかわ」に登場するフレーズ「〇〇ってコト!?」が入るなど、それぞれに特色ある言葉が選出されています。

 実は、このような流行語を選ぶ賞は海外にもあるのをご存知でしょうか。それぞれの世相が見えてきて興味深いので、アメリカとイギリスを例にご紹介しましょう。

アメリカでは不穏な言葉が…

 アメリカでは、辞書などを発行している出版社のメリアム・ウェブスター社が、運営しているオンライン辞書での検索数トップの言葉を流行語大賞に当たる「Word of the Year」として発表しています。2022年の大賞には「gaslighting」が選ばれました。意味は、「自分の利益のために、誤った事実を他人に信じ込ませること」です。フェイクニュースの横行やAI技術の発達によって、本物と偽物の見分けが難しくなったことを反映しているようです。

 gaslightingの文字通りの意味は「ガスを使用する照明」です。これが不穏な意味を持つようになった由来は、1930年代に上演された演劇「ガス燈」にあります。夫が妻の認識を狂わせるためにわざとガス燈を暗く灯し、妻が「暗い」と言うと「暗くない、お前のほうがおかしい」と返すので、妻は次第に自分のほうがおかしいと信じ込んでしまうという物語です。このような他人をコントロールしようとする人には、だまされないように気をつけたいですね。

 さらに過去3年を振り返ってみましょう。

 2021年・vaccine:ワクチンのこと。2020年と比較して約600%も検索数が増えたとのことです。コロナ禍が本格化してワクチンの供給不足や接種の自由など、医学目的以上の使われ方も増えた年でした。

 2020年・pandemic:感染症や伝染病が世界規模で大流行すること。日本語では感染爆発などのように訳されます。新型コロナウィルスの感染拡大は、アメリカでもインパクトが大きかったのですね。

 2019年・(my)pronouns:(私の)代名詞を意味します。自分の性自認=自分をどの性別の代名詞で呼んでほしいかを表明する人が増えたため選ばれました。英語圏では男性でも女性でもない「they/them」も使われます。

イギリスはホームランとゴブリン?

 イギリスでは著名な辞書であるケンブリッジ辞書とオックスフォード辞書がWord of the Yearを発表しています。オックスフォード辞書は世相を反映する言葉を選定したのち、2022年からはオンラインでの投票で決定するというユニークな手法を取っています。

 ケンブリッジ辞書の大賞は「homer」。意味は野球の「home run(ホームラン)」の略語ですが、選ばれた理由は野球と直接関係ありません。5文字の英単語を推測するオンラインゲーム「ワードル」で出題された日だけ、オンラインのケンブリッジ辞書で約6万5千回も検索されたからなのです。英語には発音や単語の使い方が微妙に異なる系統がいくつかあり、homerという言い回しはアメリカ英語で使われるため、それ以外の英語を使う人たちが検索した結果と考えられます。

 オックスフォード辞書の大賞は「goblin mode」。投票全体の93%、約32万票という圧倒的得票数での大賞受賞でした。goblin=ゴブリンとは西洋の童話や伝承に登場する、悪戯好きな妖精のこと。日本人の感覚でいうと妖精より小鬼に近い存在で、家具をひっくり返したり、食器やドアを叩いたりとやりたい放題の悪戯をします。つまりgoblin modeとは、「悪びれず好き勝手に、わがままでだらしなくふるまうこと」を意味します。コロナ禍で疲れ切ってなにもしたくない人が、「ゴブリンモードに入ります」などのように使うことが増えたため、大賞に選ばれたのです。

 さらに、オックスフォード辞書のほうの過去3年を振り返ってみましょう。

 2021年・VAX:ワクチンを表す略語。砕けた表現なので、SNSなどのプライベートな場で使われることが多いです。意味合いとしてはアメリカと同じで、コロナ禍関連の言葉が世界中で注目されたことがわかります。

 2020年・該当なし:該当がない代わりに、新型コロナウィルス関連などの年間調査レポートを公表しました。

 2019年・climate emergency:気候変動による環境被害を避けるための緊急事態を意味します。以前からあるclimate changeやclimate crisisより危機感が強調されており、異常気象への関心の高さが表れています。

 コロナ禍が長引き、まだ終わりも見えないままだった2022年の流行語は、不安感のある言葉も多かったようです。2023年は、もっと前向きな言葉が選ばれる年になるといいですよね。

<参考サイト>
・ユーキャン 「現代用語の基礎知識」選 2022ユーキャン新語・流行語大賞
https://www.u-can.co.jp/company/news/1217311_3482.html
・ORICON NEWS 『SNS流行語大賞2022』1位は“ちいかわ構文”「〇〇ってコト!?」
https://www.oricon.co.jp/news/2258530/full/
・財経新聞 2020年を代表する英単語は何? 「Word of the Year」発表
https://www.zaikei.co.jp/article/20201223/600282.html
・ENGLISH JOURNAL ONLINE 「(my)pronouns」「climate emergency」ってどんな意味?【2019年を表す英語】
https://ej.alc.co.jp/entry/20201211-ej-words-2021-05
・ENGLISH JOURNAL ONLINE 国によって全然違う!?日本・アメリカ・イギリスの流行語10年分を一目でチェック!!
https://ej.alc.co.jp/entry/20201207-ej-words-2021-01
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