テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2023.03.10

子どもが愚行…親への賠償額は●●●万円!?

 子ども(未成年者)が愚行を冒し損害賠償が生じた場合、未成年者を監督する義務を負う者(親権者である親が多いため、以下「親」)が法的責任を負うことになります。

 では具体的に、子どもが何歳になるまで親は責任を負うことになるのでしょうか。また、損害賠償が生じた場合、親が支払う賠償額はどれぐらいとなるのでしょうか。

子どもの年齢と親の賠償責任有無の対応目安

 まずは、子どもの年齢に応じた親の責任有無と根拠法をみてみましょう。2023年2月現在、民法での子どもの年齢に応じた子どもと親の責任有無の目安は、以下のようになっています。

【子どもの年齢に応じた民法での子ども/親の賠償責任有無の対応目安】
「子どもが12歳未満」子ども×(民法712条)/親◯(民法714条)
「子どもが13~14歳」子ども◯(民法709条)/親◯(民法709条)
「子どもが15歳以上」子ども◯(民法709条)/親×(監督責任なし)*
※◯=責任あり、×責任なし。()内は根拠となる民法の条数。
*ただし、無免許運転やその他犯罪などの重大な事故・事件では、子どもが17~18歳でも親の責任を認める場合が多い。

監督義務を怠った親の賠償額は3160万円!…しかし

 親の責任有無の根拠法には、民法が挙げられます。そして、民法712条(責任能力)では、子どもに“責任能力がない場合”には、子ども自身は何らの法律上の責任を負わないと定められています。

 その場合、民法714条(責任無能力者の監督義務者等の責任)1項では、親が子どもによる行動の結果について法的責任を負うこととしています。ただし、親の責任が発生するためには、(1)当該責任無能力者(未成年者)の行為が、責任能力以外の不法行為の要件を満たすこと、(2)監督義務を怠らなかったこと、または監督義務を怠らなくてもその損害が発生したことの証明がないこと――、とした要件が定められています。

 つまり、あくまで民法での解釈、とくに民法709条(不法行為による損害賠償)における一般不法行為の適用の場合となりますが、(1)親に監督義務違反が認められ、かつ(2)同義務違反が不法行為上の義務違反と評価でき、加えて(3)同義務違反と損害との間に因果関係が認められる場合――、親にも責任が発生すると考えられているようです。

 例えば、11歳の子どもの火遊びで死者が出た火災では、監督義務を怠ったとして、親に3160万円の賠償命令が出ています。一方で、11歳の子どもが蹴ったサッカーボールを避けたことによる死亡事件では、親が監督義務を怠らなかったとして、最高裁では一審と二審で命じられた親への1千万円超の賠償命令を破棄し、請求を棄却しています。

子どもの愚行、親への損害賠償請求は難しい

 以上から、内容によるものの、15歳以上の子どもが愚行を冒した場合、損害責任を親に請求することは法的には難しいこと。また、愚行を冒した子どもが14歳未満であったとしても、親の監督義務や損害と因果関係などの証明が難しい場合、親への賠償額は発生しないことも多々あることなどがうかがえます。

 さらに現代では、子どもによる愚行としてSNS等での迷惑行為の拡散による事件が社会問題となっていますが、現状では、15歳以上~18歳未満の子どもが親のあずかり知らぬ所で発信した場合、親への損害賠償請求は難しい場合が多いと言わざるを得ないようです。

 時代にあった法改正とともに、社会変化に応じた愚行を起こさせないための教育が求められています。

<参考サイト>
・民法 - e-Gov法令検索
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089
・子どもの火遊びで2人死亡火災、母親に3160万円賠償命令…親の監督責任重く│読売新聞オンライン
https://www.yomiuri.co.jp/national/20210929-OYT1T50101/
・子供の蹴ったボールで事故、親の責任認めず 最高裁│日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXLASDG09H81_Z00C15A4CC1000/
・【子供と親権者の賠償責任(責任弁識能力の有無による違い,監督責任)】│弁護士法人みずほ中央法律事務所
https://www.mc-law.jp/kotujiko/1048/
・未成年の子どもが犯罪を! 親の責任は? 損害賠償は誰が応じるべきか│弁護士法人VERYBEST
https://fukuoka.vbest.jp/columns/criminal/g_young/1105/
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
「学ぶことが楽しい」方には 『テンミニッツTV』 がオススメです。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,300本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

“死の終りに冥し”…詩に託された『十住心論』の教えとは

“死の終りに冥し”…詩に託された『十住心論』の教えとは

空海と詩(4)詩で読む『秘蔵宝鑰』

“悠々たり悠々たり”にはじまる空海『秘蔵宝鑰』序文の詩文。まことにリズミカルな連呼で、たたみかけていく文章である。このリフレインで彼岸へ連れ去られそうな魂は、選べる道の多様さと迷える世界での認識の誤りに出会い、“死...
収録日:2024/08/26
追加日:2024/11/23
鎌田東二
京都大学名誉教授
2

国家は助けてくれない…「三田会」誕生への大きな経験

国家は助けてくれない…「三田会」誕生への大きな経験

独立と在野を支える中間団体(6)慶應義塾大学「三田会」の起源

中間集団として象徴的な存在である慶應義塾大学「三田会」について考える今回。三田会は単に同窓会組織として存在しているわけではなく、「公」に頼れない場合に重要な役割を果たすものだった。その三田会の起源について解説す...
収録日:2024/06/08
追加日:2024/11/22
片山杜秀
慶應義塾大学法学部教授
3

日本の根源はダイナミックでエネルギッシュな縄文文化

日本の根源はダイナミックでエネルギッシュな縄文文化

日本文化を学び直す(1)忘れてはいけない縄文文化

大転換期の真っ只中にいるわれわれにとって、日本の特性を強みとして生かしていくために忘れてはいけないことが二つある。一つは日本が森林山岳海洋島国国家であるというその地理的特性。もう一つは、日本文化の根源としての縄...
収録日:2020/02/05
追加日:2020/09/16
田口佳史
東洋思想研究家
4

国の借金は誰が払う?人口減少による社会保障負担増の問題

国の借金は誰が払う?人口減少による社会保障負担増の問題

教養としての「人口減少問題と社会保障」(4)増え続ける社会保障負担

人口減少が社会にどのような影響を与えるのか。それは政府支出、特に社会保障給付費の増加という形で現れる。ではどれくらい増えているのか。日本の一般会計の収支の推移、社会保障費の推移、一生のうちに人間一人がどれほど行...
収録日:2024/07/13
追加日:2024/11/19
森田朗
一般社団法人 次世代基盤政策研究所(NFI)所長・代表理事
5

謎多き紫式部の半生…教養深い「女房」の役割とその実像

謎多き紫式部の半生…教養深い「女房」の役割とその実像

日本語と英語で味わう『源氏物語』(1)紫式部の人物像と女房文学

日本を代表する古典文学『源氏物語』と、その著者である紫式部は、NHKの大河ドラマ『光る君へ』の放映をきっかけに注目が集まっている。紫式部の名前は誰もが知っているが、実はその半生や人となりには謎が多い。いったいどのよ...
収録日:2024/02/18
追加日:2024/10/14