社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2023.03.26

愛知の喫茶店「モーニング文化」発祥の理由

 喫茶店の「モーニング」とは、ドリンク代のみでトーストやゆで卵などの軽い朝食をセットで提供する朝限定のサービスを指します。現在ではモーニングを提供している喫茶店は全国各地にありますが、モーニングが有名な地域といえば、やはり愛知県名古屋市を挙げる人が多いようです。

 しかし、諸説はありますが、モーニングの発祥地は意外なことに、名古屋市ではないようです。ただし同じ愛知県内に、2つのモーニング発祥地候補市があります。

 愛知県出身・在中のフリーライター大竹敏之氏は、モーニング発祥地候補市といわれる愛知県の2市ともに、昭和30(1955)年代前半頃からコーヒーにおまけをつけるサービスが始まり、それが地域全域へと広まったと考察しています。

「モーニング」発祥地候補その1・一宮

 モーニング発祥地候補地その1は、県北部・尾張地方の一宮市です。

 一宮は、繊維の街として栄えてきました。特に、昭和25(1950)年に勃発した朝鮮戦争を機に発生した好景気「ガチャマン景気(ガチャンと織機を動かすとごとに1万円儲かる)」に沸いた昭和30(1955)年代前半に最盛期を迎えました。

 当時の一宮には、各地から次々と商談が舞い込んだといいます。しかし、機械音がうるさい工場内では会話もままなりません。そこで、近所の喫茶店が頻繁に活用されるようになり、一宮市では喫茶店も繁盛していくことになったそうです。

 そのうちに喫茶店がひいきにしてくる常連客へのお返しとして、コーヒーにゆで卵やピーナッツなどを付けるサービスを始めました。これがモーニングの始まりといわれています。

 ちなみに、「一宮モーニング協議会(2009年に一宮市の商工会議所を中心に設立)」の調べによると、最古のモーニングとして1956(昭和31)年に「三楽」という喫茶室でモーニングを出したことが確認されています。

「モーニング」発祥地候補その2・豊橋

 モーニング発祥地候補地その2は、愛知県東南部・三河地方の豊橋市です。

 豊橋でも、昭和30(1955)年代前半に「松葉」「仔馬」などで、モーニングが開始されたといわれています。そして、豊橋で最初にモーニングの恩恵を受けたのは、水商売従事者の常連客だといわれています。

 当時の豊橋は駅前に飲み屋街が広がり、それに伴い喫茶店も多数あったといいます。そのうちの一軒が、夜勤明けにコーヒーを飲みに来てくれるスナックやキャバレーの従業員へのサービスとして、朝食代わりとなるトーストなどを付けたことが、豊橋モーニング誕生のきっかけとされています。

「モーニング文化」を広めた街・名古屋

 さて、モーニングは愛知の中心地である名古屋にも伝わり、提供されるようになりました。もともと喫茶店激戦区であった名古屋では、コスパ好きの常連客のニーズも相まって、モーニングは瞬く間に広まり人気のサービスとなったといわれています。

 さらに、モーニングサービス合戦も白熱。昭和40(1965)年にはすでに新聞で取り上げられるなどメディアでもモーニングの人気が拡散され、いよいよ愛知の喫茶店発祥の「モーニング文化」が一般に認知されるようになりました。

 以上のように、諸説はありますが、愛知の一宮と豊橋の喫茶店で発祥したとされるモーニング。同じく愛知の名古屋でモーニング文化ともいえる広がりを経て、全国区となった現在へとつながっています。

 そして、愛知の喫茶店で「モーニング文化」が発祥した最大の理由は、愛知の喫茶店主たちの常連客への利益還元、なによりも喫茶文化が根付いている愛知ならではのサービス精神とおもてなしの心にあるといえるのではないでしょうか。

<参考文献・参考サイト>
・『間違いだらけの名古屋めし』(大竹敏之著、ベストセラーズ)
・『サンデージャーナルのデータで解析!名古屋・愛知』(サンデージャーナル取材班&大竹敏之著、リベラル社)
・『なごやじまん』(大竹敏之著、ぴあ)
・一宮モーニング公式サイト
https://ichinomiya-morning.com/
・じつは名古屋の名物老舗喫茶はやっていない…愛知発祥の過剰サービス「モーニング」の謎を追う
https://president.jp/articles/-/66355?page=1
・名古屋名物“モーニング”。発祥の地・一宮市でその秘密と喫茶文化に迫る!
https://www.homes.co.jp/cont/press/buy/buy_01211/
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
“社会人学習”できていますか? 『テンミニッツTV』 なら手軽に始められます。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

日本でも中国でもない…ラストベルトをつくった張本人は?

日本でも中国でもない…ラストベルトをつくった張本人は?

内側から見たアメリカと日本(1)ラストベルトをつくったのは誰か

アメリカは一体どうなってしまったのか。今後どうなるのか。重要な同盟国として緊密な関係を結んできた日本にとって、避けては通れない問題である。このシリーズ講義では、ほぼ1世紀にわたるアメリカ近現代史の中で大きな結節点...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/10
2

密教の世界観は全宇宙を分割せずに「つないでいく」

密教の世界観は全宇宙を分割せずに「つないでいく」

エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(4)全てをつなぐ密教の世界観

岡本浩氏、長谷川敏彦氏の話を受けて、今回から鎌田氏による講義となる。まず指摘するのは、空海が説く『弁顕密二教論』の考え方である。この著書で空海は、仏教の顕教は「中論」「唯識論」「空観」など世界を分割して見ていく...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/20
3

島田晴雄先生の体験談から浮かびあがるアメリカと日本

島田晴雄先生の体験談から浮かびあがるアメリカと日本

編集部ラジオ2025(28)内側から見た日米社会の実状とは

ある国について、あるいはその社会についての詳細な実状は、なかなか外側からではわからないところがあります。やはり、その国についてよくよく知るためには、そこに住んでみるのがいちばんでしょう。さらにいえば、たんに住む...
収録日:2025/10/17
追加日:2025/11/20
4

知ってるつもり、過大評価…バイアス解決の鍵は「謙虚さ」

知ってるつもり、過大評価…バイアス解決の鍵は「謙虚さ」

何回説明しても伝わらない問題と認知科学(3)認知バイアスとの正しい向き合い方

人間がこの世界を生きていく上で、バイアスは避けられない。しかし、そこに居直って自分を過大評価してしまうと、それは傲慢になる。よって、どんな仕事においてももっとも大切なことは「謙虚さ」だと言う今井氏。ただそれは、...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/16
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
5

成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ

成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ

経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本

組織のまとめ役として、どのように接すれば部下やメンバーの成長をサポートできるか。多くの人が直面するその課題に対して、「経験学習」に着目したアプローチが有効だと松尾氏はいう。では経験学習とは何か。個人、そして集団...
収録日:2025/06/27
追加日:2025/09/10
松尾睦
青山学院大学 経営学部経営学科 教授