テンミニッツ・アカデミー|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツ・アカデミーとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2023.06.06

封筒に書かれている「親展」の意味とは

「親展」の郵便物が届いたら…

 常日頃に送られてくる郵便物のなかには、税金や年金の通知書、公共料金の請求書、健康診断の結果報告など、プライバシーにかかわるものもありますよね。そんな郵便物の封筒には、「親展」という文字が記載されていることが多いです。赤い色で書かれていたり枠で囲んであったりと、目立つ様式になっている場合がほとんどなので、自然と目が行く機会もよくあるはず。目立つように書かれているということは重要な内容だと想像がつきますが、一体どのような意味なのでしょうか。

 この「親展」とは、「宛名の本人に開封してほしい、直接見てもらいたい」という意図を込めた言葉です。「親」というと、血のつながったいわゆる「両親」のイメージが強いですが、この漢字には「自分でする」という意味もあります。そして「展」には、「展開」という熟語があることからもわかるように、「開く」という意味があります。つまり、「自分で開ける」という意味になるわけです。このため、お金や個人情報などのデリケートな内容を封入した郵便物に使われるのですね。

 親展の封筒には、さらに「請求書在中」などのように封入物を記載して、開封前に内容がわかるようにしているものもあれば、封筒の口に割り印をしたり剥がした痕跡が残るシールを貼ったりして、開封されたことがすぐわかるようにしているものもあります。大切な通知であることがわかりますね。

 個人情報や機密事項を取り扱うお仕事をしている方なら、ご自身で親展の郵便物を送ることも多いでしょう。特に近年は個人情報の扱いが厳重になっているため、親展の郵便物の送付は常に慎重さが求められる重要な業務となっています。

本人以外が開封したらどうなる?

 しかし、どんなに気をつけて送付したとしても、送られた宛名の人の家族や同居人が慎重さを欠いた扱いをしてしまうことも少なくありません。それでは、もしも親展の郵便物をうっかり宛名以外の人が開封してしまったら、どのようなことになるのでしょうか。

 実は、法律にのっとって罰せられることはありません。親展はあくまで送り主の希望や気遣いであり、マナーの範囲で守るものなのです。先ほど、両親を意味しているわけではないと解説しましたが、親展の封筒が未成年の子ども宛てに届いた場合は、両親が開封しても問題ありません。

 ただし、基本的に他人宛ての郵便物を無断で開封することは、親展であってもなくてもマナー違反です。他人宛ての郵便物を勝手に開けてしまわないよう、開封する前に一度きちんと宛名を確認しましょう。まれなケースではありますが、誤配達で他の家の郵便物が届いてしまうこともあります。この場合は誤って届けてしまった郵便配達側に問題がありますが、やはりトラブルを避けるなら間違えて開封しないことが一番です。

「親展」と「信書」の違いに要注意

 ここでひとつ気をつけたいことは、「親展」の郵便物は宛名の人以外が開封しても問題ありませんが、「信書」の郵便物は宛名の人以外が開封すると「信書開封罪」という罪に問われる可能性がある点です。この「信書」とは、総務省のガイドラインによると、郵便および信書便法によって規定されている「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書」とされています。一見すると親展と変わらないように思えますが、どこが違うのでしょうか。

 ガイドラインを見ると、定義が少し難しそうに感じる信書ですが、簡単にいうといわゆる「手紙」です。手紙は、差出人が特定の誰か一人に向けて書いたものですよね。このようにオンリーワンの内容がつづられた文書が信書です。つまり、企業が複数のお得意様に同じ内容のダイレクトメールを送る場合は親展で送ることがありますが、信書には該当しません。親展と書かれていたら必ず信書というわけではないのです。しかし、ダイレクトメールに受取人が明記されていたり、商品の購入履歴や契約内容など特定の受取人だけに当てはまる内容が記載されていたりする場合は信書に該当します。また、特定の誰かに宛てたあいさつや近況報告などは、親展と書いていなくても信書に該当します。

 個人情報などが書かれていない、他愛もない内容であっても、「信書の秘密」は基本的人権で守られているため、他人が侵害することは認められていません。信書開封罪は被害者が告訴した場合に罪として扱われる「親告罪」なので、必ず罪に問われるわけではありませんが、個人宛ての手紙を勝手に読んでしまわないよう気をつけましょう。

<参考サイト>
・ケイジェンド・プロダクツ 公的文書における「親展」の正しい記載位置とは?
https://www.insatu.co.jp/column/mame/column24/
・封筒印刷製作所 親展の書き方は封筒の種類によって異なる?正しい書き方と注意点を解説!
https://envelope.naire-seisakusho.jp/blog/howtowrite-shinten/
・総務省 信書のガイドライン
https://www.soumu.go.jp/yusei/shinsho_guide.html
・TRANS.Biz 「親展」の意味とは?封筒の書き方・取扱や「信書」との違い
https://biz.trans-suite.jp/47367
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
「学ぶことが楽しい」方には 『テンミニッツTV』 がオススメです。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

ショパン…ピアノのことを知り尽くした作曲家の波乱の人生

ショパン…ピアノのことを知り尽くした作曲家の波乱の人生

ショパンの音楽とポーランド(1)ショパンの生涯

ピアニスト江崎昌子氏が、ピアノ演奏を交えつつ「ショパンの音楽とポーランド」を紹介する連続シリーズ。第1話では、すべてのピアニストにとって「特別な作曲家」と言われる39年のショパンの生涯を駆け足で紹介する。1810年に生...
収録日:2022/10/13
追加日:2023/03/16
江崎昌子
洗足学園音楽大学・大学院教授 日本ショパン協会理事
2

中国でクーデターは起こるのか?その可能性と時期を問う

中国でクーデターは起こるのか?その可能性と時期を問う

クーデターの条件~台湾を事例に考える(6)クーデターは「ラストリゾート」か

近年、アフリカで起こったクーデターは、イスラム過激派の台頭だけではその要因を説明できない。ではクーデターはなぜ起こるのか。また、台湾よりも中国のほうがクーデターが起こる可能性はないのか。クーデターは本当に「ラス...
収録日:2025/07/23
追加日:2025/10/18
上杉勇司
早稲田大学国際教養学部・国際コミュニケーション研究科教授 沖縄平和協力センター副理事長
3

不動産暴落、大企業倒産危機…中国経済の苦境の実態とは?

不動産暴落、大企業倒産危機…中国経済の苦境の実態とは?

習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(7)不動産暴落と企業倒産の内実

改革開放当時の中国には技術も資本もなく、工場を建てる土地があるだけだった。経済成長とともに市民が不動産を複数所有する時代となり、地価は高騰し続けた。だが、習近平政権による総量規制は不動産価格を低下させ、消費低迷...
収録日:2025/07/01
追加日:2025/10/16
垂秀夫
元日本国駐中華人民共和国特命全権大使
4

なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る

なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る

学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち

たかが「1」、されど「1」――今、数の意味が理解できない子どもがたくさんいるという。そもそも私たちは、「1」という概念を、いつ、どのように理解していったのか。あらためて考え出すと不思議な、言葉という抽象概念の習得プロ...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/10/06
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授
5

学力喪失と「人間の理解」の謎…今井むつみ先生に聞く

学力喪失と「人間の理解」の謎…今井むつみ先生に聞く

編集部ラジオ2025(24)「理解する」とはどういうこと?

今井むつみ先生が2024年秋に発刊された岩波新書『学力喪失――認知科学による回復への道筋』は、とても話題になった一冊です。今回、テンミニッツ・アカデミーでは、本書の内容について著者の今井先生にわかりやすくお話しいただ...
収録日:2025/09/29
追加日:2025/10/16