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DATE/ 2023.07.02

「飛行機の墓場」とはどんな場所なのか

役目を終えた飛行機は「墓場」へ行く

 車や家電には耐用年数があり、性能が落ちる頃合いになったら買い替える必要がありますよね。これは飛行機も同じことで、飛行機の耐用年数は20年ほどとされています。しかし飛行機の性能が落ちてしまったらとても危険なので、実際には安全な運用ができているうちに10年ほどで引退させることが多いといわれます。こうして役目を終えた機体は、「飛行機の墓場」という場所に引き取られます。

 飛行機の墓場はアメリカに複数あり、ほかにはカナダやオーストラリアにあります。都市から離れた砂漠につくられていることが多いため、役目を終えた航空機を厳しい環境の中に廃棄しているように見えるかもしれません。しかし、実は“廃棄”ではなく“保管”されており、保管のためには好都合なので、あえて砂漠が選ばれているのです。その理由は以下のようなもの。

・広い土地が確保できる:砂漠に住んでいる人はほとんどいないので、大きな航空機を何機も置けるスペースを取っても問題になりません。

・乾燥している:雨がほとんど降らず、年間を通じて空気が乾燥しているので、航空機を長期間置いていても劣化の心配が少ないです。

・地盤がしっかりしている:特にアメリカの砂漠は地盤が崩れにくい地質なので、土地を整備しなくても重量がある航空機を安定して並べられます。

 人がほとんどいない砂漠に築かれた飛行機の墓場とは、実際にどんな場所なのでしょうか。より詳しく探ってみましょう。

飛行機の墓場ってどんな場所?

 飛行機の墓場には、年代や国や用途を問わず、あらゆる引退した航空機が集められます。このため、最近引退した日本の旅客機や、50年以上前のアメリカの貨物機などがいっしょに並べられており、中には戦闘機の姿まで見られます。

 「墓場」というと墓標などが置かれていそうですが、実際にはそのようなものはなく、どちらかといえば機体が整然と並べられている駐車場のようなイメージです。また、飛行機の墓場はそれだけで独立しているわけではなく、空港の中にあるひとつの区画であり、資材置き場のような位置づけの施設です。

 つまり、飛行機の墓場に集められた飛行機は、そこに保管されて資材として使われるのです。現役で運用されている同型機に不調があったとき、その不調部分の部品を取って再利用するために保管されているのですね。そして再利用できる部品がなくなったり、同型機の運用が終了したりしたら最終的には解体ののち廃棄となります。このほかにも、一時的な減便で就航路線がなくなったため、復帰のときまで保管されている機体や、もともとリース会社の所有で、リースが終了して次のリース先に就航するまで待機している機体など、さまざまな事情の航空機が飛行機の墓場に集まっています。

代表的な飛行機の墓場

 それでは、具体的にはどんな飛行機の墓場があるのでしょうか。代表的なものをご紹介します。

・モハーヴェ空港:アメリカ・カリフォルニア州のモハベ砂漠につくられた空港。3本の滑走路を持つ広大な敷地に、幅広い年代のボーイング社の航空機などが保管されています。宇宙産業の拠点である宇宙空港の一面も持っているほか、ロサンゼルスからアクセスしやすいので、映画やドラマの撮影に使われることもあります。

・ヴィクターヴィル空港:正式名称は南カリフォルニア物流空港で、モハーヴェ空港と同じカリフォルニア州にあります。空軍基地として開発されたのち、政府によって貿易空港に変更されました。航空機を保管する“墓場”の役割だけでなく、破損を修理して再び現場に送り出す“病院”のような作業も行っています。

・デビスモンサン空軍基地:アメリカ・アリゾナ州につくられた空軍基地の中に飛行機の墓場があります。軍の施設ということもあって、保管されている機体には戦闘機が多く見られます。民間人の立入は禁じられていますが、外からの写真撮影は許可されており、内部を見学できるツアーが開催されることもあります。

 コロナ禍も落ち着きを見せてきた今、めったに見られない飛行機の墓場へ旅行するのも楽しそうですよね。

<参考サイト>
・乗りものニュース 世界一有名?な「飛行機の墓場」に潜入! 元JAL機は“衝撃の場所”で眠る 珍機も違った側面も
https://trafficnews.jp/post/126018
・乗りものニュース そこは「飛行機の墓場」…だけじゃない? 異例の公開 JAL機の”眠りの地”で話題のビクタービル空港
https://trafficnews.jp/post/125980
・Goods Press 世界の空港案内[TRIP:02] ビクタービル空港(アメリカ)
https://www.goodspress.jp/reports/73700/2/
・サバゲーアーカイブ 飛行機の墓場「デビスモンサン空軍基地」! そこには4,500機の戦闘機が!
https://sabage-archive.com/blog/archives/18701
・Gigazine 飛行機が時代と作られた目的を問わずに行き着く場所「飛行機の墓場」ことアメリカのモハーヴェ空港のフォトリポート
https://gigazine.net/news/20180305-planes-graveyard-mojave-boneyard/
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一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授