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DATE/ 2023.07.19

日本はなぜ「左側通行」なのか

 日本の道路で車を運転したり、自転車に乗ったりするとき、わたしたちは左側を通行することを当然のように思っています。しかし、世界を見渡してみると世界各国の7割以上が右側通行を採用しています。右側通行の身近な国としては、ヨーロッパ諸国、アメリカやカナダ、中国、韓国、ベトナムなどがあげられます。では、なぜ日本では左通行が採用されているのでしょうか?

 今回のテーマは、日本の道路が左側通行になった理由と、その背景についてご紹介していきます。

日本の左側通行はいつからなのか?

 現在の日本の道路における左側通行は、1949年に施行された道路交通法によって規定されました。その後、改めて1960年に施行された道路交通法には「車両は、道路の中央から左側を通行しなければならない」と明記されており、車両の左側通行が求められています。それでは、法律が施行される前はどうだったのでしょうか?

 そもそも、日本の道路が左側通行を採用するようになったのは明治時代のことです。さかのぼること1881年、「人力車が行き合った場合には左側に避けるように」という指示が警察庁から出されています。さらに1900年には「道路取締規則」が制定され、車両や歩行者の通行方法が明確に規定されるようになります。こうした流れのなかで、道の左側を諸車牛馬が通行し、歩行者は道路の右側を通行することが基本とされたのです。

左通行の理由はイギリスがお手本?それとも武士の作法?

 しかし、なぜ明治時代の日本政府は、右ではなく左側通行を選んだのでしょうか? じつはこの理由ははっきりしておらず、いくつかの説が語られています。なかでも代表的なものは、「イギリスを参考にした」というものと、「江戸時代武士の作法に由来する」というものです。

 まず1つめの「イギリスを参考にした」という説からご紹介しましょう。イギリスは、近代化を目指していた日本がお手本としていた国の1つです。イギリスも左通行の国として知られ、車のハンドルも日本同様、右側に配置されています。この通行ルールは、イギリスの馬車事情に由来しているようです。馬車の御者台は中央にあり、御者のほとんどは右利きで、右手で馬をコントロールするためにムチを振るいます。このムチが歩行者に当たらないように左側通行が定められ、これがそのまま車両にも応用されました。

 2つめの「武士の作法に由来する」説ですが、こちらは武士が刀を左腰に差していたため、刀同士が当たらないように左側通行を心がけていたというものです。いずれも明確な資料などはないそうですが、なるほどと納得してしまう説得力があります。

沖縄が右側通行から左側通行に変わった理由

 また、日本のなかでも沖縄県は、右側通行を経験している唯一の地域です。沖縄は終戦後、アメリカの統治下に置かれました。アメリカは右側通行の国のため、GHQからは日本全国を右側通行に変える案が出たそうです。しかし、全国規模の変更となると莫大な予算がかかるため、日本政府はこれを拒否しました。結果、本土は左側通行のままでしたが、沖縄だけは右側通行になったのです。

 しかし、沖縄が日本に復帰する際に、再び左側通行に切り替えることが決定されます。左側通行になったのは、本土復帰後の1978年7月30日から。この切り替えは、一夜にして行われたため入念な準備がなされました。日付に由来して「730」というキャンペーンが開催され、警視庁からも多くの警察官が応援にかけつけたといいます。

馬車から車へと変化してきた交通事情と安全

 いかがでしたでしょうか。日本の道路が左側通行であることに、明確な理由があるわけではありませんが、少なからず歴史的な経緯や安全性の観点がありました。明治時代に左側通行の指示が警察庁から出されてから、道路を通る車両の種類は、馬車から車へと少しずつ変化して行きました。2023年7月からは、運転免許がなくても電動キックボードに乗れるようになるなど、その時々で法律も変わっていきます。

 日々、何気なく通っている道路。これまで培ってきた安全な交通環境を、きちんと未来に引き継ぐためにも、わたしたち一人一人が正しい通行ルールを守ることが大切ですね。

<参考サイト>
[Q]なぜ日本は左側通行なの?│JAF
https://jaf.or.jp/common/kuruma-qa/category-drive/subcategory-sign/faq165
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