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『数学の世界地図』を片手に数学の旅に出よう
みなさんは数学にどんな印象を抱いていますか。人によっては、学生時代に経験した公式の丸暗記や、憂鬱な試験勉強を連想するかもしれません。たしかに、数学は抽象的で複雑なものでもあり、時として驚くほど難解に感じられます。しかし、表面的な難解さの先には、豊かで面白い世界が広がっているのです。
今回紹介する『数学の世界地図』(古賀真輝著、KADOKAWA)は、数学に興味を持ちつつも、その世界へ一歩踏み出せずにいる人たちのためのガイドブックです。タイトル通り、本書はまさに数学の世界を旅するための地図となります。
一人旅は魅力的ですが、旅慣れしていない旅行者は道に迷ったり、予期せぬトラブルに遭遇したりしがちです。そうなってしまっては面白くありません。初めての土地を観光する初心者がガイド付きツアーに参加するのと同じように、本書は魅力的な数学の世界を探索する際の頼もしいコンダクターになるといってもいいでしょう。
この20代の若き数学教師が教壇での授業と並行して注力しているのが、YouTubeチャンネル「Masaki Koga [数学解説]」での活動です。このチャンネルでは数学の公式や受験問題の過去問解説を中心に、抽象的で難解な数学の世界がわかりやすく解説されています。2023年8月現在でチャンネル登録者数は6万人以上。本書のきっかけにもなった動画「数学にはどんな研究分野がある?数学の世界地図を一枚に描いて紹介してみた!」は、再生数が60万回を超えています。
古賀氏の数学解説は高校生から大学生、数学を学び直したい大人たちまで、幅広い世代からの人気を集めているのです。
目次を見るだけでも、例えば第2章で列挙されている「代数学」「幾何学」「解析学」「数学基礎論」「応用数学」など、数学の多様な分野の存在がわかります。また、それぞれの分野はさらに細かい項目に分けられ、「解析学」の節には「微積分学」「ベクトル解析」「微分方程式論」「複素解析学」などの項目が並んでいます。この章のタイトルは「いざ旅路へ」であり、まるで観光地をめぐるかのように、読者を数学の世界旅行へと誘います。
そして、各項目ではその分野が具体的に何を研究するのかが解説されています。ここでは数式、図表、グラフが多用され、具体的な例とともに説明されているため、読者が理解しやすくなっています。
たとえば、整数論を解説する項では、ガウス整数の応用例としてフェルマーの二平方和定理が紹介されています。これは、「素数pについて、pを4で割った余りが1であるか、またはp=2であるということと、pが2つの平方数の和で表されることは同値である」という定理です。こういった抽象的な定理も、次のように具体例が示されているのでわかりやすいのです。
(例24、本書59ページより)
・4で割った余りが1の素数と2は、2=1^2+1^2,5=1^2+2^2,13=2^2+3^2,17=4^2+1^2などのように2つの平方数の和で表されます。
・一方で、4で割った余りが3の3,7,11,19などの素数は2つの平方数の和では表せません。
各項目の解説の後には、「Essential Points on the Map」と題されたページが置かれており、その項目が他の分野や項目とどのようにつながっているかが示されています。例えば、次のような説明があります。
《代数学(第1節)とは代数系について考察する学問であり、その中にある線形代数(第1項)はベクトル空間という特定の代数系を取り扱う分野です。その他の代数系としては群(第2項)、環(第3項)、体(第4項)などが存在します》
このように、他のページで解説されている内容とのつながりが強調されています。それぞれの項目を線で繋いでいくと、「数学の世界」が浮かび上がってくるというわけです。
また、数学が得意な理数系の高校生であればこの本を十分に楽しめるでしょうが、本書の内容は大学レベルの数学を取り扱っているため、文系の学生にとっては読みづらい部分もあるかもしれません。
とはいえ、本書は「地図」であって、専門的な数学書ではありません。複雑な概念や詳細な内容がすべて理解できなくても、全体像を眺める楽しさは十分に感じられます。実際、筆者自身、大学では文系の学問を専攻し、数学は高校で学んだのが最後でしたが、本書を楽しく読むことができました。数学が好きな人、興味がある人、大学でこれから数学を学ぶ人にとって、本書は非常に魅力的な一冊だといえるでしょう。
数学の世界は目には見えませんが、確かに存在しています。この不思議で魅力的な世界への良き道先案内人が、本書です。この地図を片手に、あなたも数学という広大な世界への冒険を始めてみませんか。
今回紹介する『数学の世界地図』(古賀真輝著、KADOKAWA)は、数学に興味を持ちつつも、その世界へ一歩踏み出せずにいる人たちのためのガイドブックです。タイトル通り、本書はまさに数学の世界を旅するための地図となります。
一人旅は魅力的ですが、旅慣れしていない旅行者は道に迷ったり、予期せぬトラブルに遭遇したりしがちです。そうなってしまっては面白くありません。初めての土地を観光する初心者がガイド付きツアーに参加するのと同じように、本書は魅力的な数学の世界を探索する際の頼もしいコンダクターになるといってもいいでしょう。
若き数学インフルエンサー
本書の著者である古賀真輝氏は、学生時代から数学を学び続けてきた方です。私立開成高等学校、京都大学理学部を経て、京都大学大学院理学研究科数学・数理解析専攻の修士課程を修了。現在は私立甲陽学院中学校・高等学校で教諭として勤務しています。この20代の若き数学教師が教壇での授業と並行して注力しているのが、YouTubeチャンネル「Masaki Koga [数学解説]」での活動です。このチャンネルでは数学の公式や受験問題の過去問解説を中心に、抽象的で難解な数学の世界がわかりやすく解説されています。2023年8月現在でチャンネル登録者数は6万人以上。本書のきっかけにもなった動画「数学にはどんな研究分野がある?数学の世界地図を一枚に描いて紹介してみた!」は、再生数が60万回を超えています。
古賀氏の数学解説は高校生から大学生、数学を学び直したい大人たちまで、幅広い世代からの人気を集めているのです。
数学の広大な世界と多様な分野
本書は、広大な数学の世界を描き出す地図であるとされています。この地図を見ると、数学にはさまざまな分野が存在し、それぞれが独自の魅力を持ちながら、密接に結びついていることがわかります。目次を見るだけでも、例えば第2章で列挙されている「代数学」「幾何学」「解析学」「数学基礎論」「応用数学」など、数学の多様な分野の存在がわかります。また、それぞれの分野はさらに細かい項目に分けられ、「解析学」の節には「微積分学」「ベクトル解析」「微分方程式論」「複素解析学」などの項目が並んでいます。この章のタイトルは「いざ旅路へ」であり、まるで観光地をめぐるかのように、読者を数学の世界旅行へと誘います。
そして、各項目ではその分野が具体的に何を研究するのかが解説されています。ここでは数式、図表、グラフが多用され、具体的な例とともに説明されているため、読者が理解しやすくなっています。
たとえば、整数論を解説する項では、ガウス整数の応用例としてフェルマーの二平方和定理が紹介されています。これは、「素数pについて、pを4で割った余りが1であるか、またはp=2であるということと、pが2つの平方数の和で表されることは同値である」という定理です。こういった抽象的な定理も、次のように具体例が示されているのでわかりやすいのです。
(例24、本書59ページより)
・4で割った余りが1の素数と2は、2=1^2+1^2,5=1^2+2^2,13=2^2+3^2,17=4^2+1^2などのように2つの平方数の和で表されます。
・一方で、4で割った余りが3の3,7,11,19などの素数は2つの平方数の和では表せません。
点と点を結んで全体像を描く:分野間のつながり
本書の特徴は、数学の各分野間のつながりに重点を置いている点にあります。数学の分野を専門家以外にもわかりやすく解説している書籍は他にも存在しますが、各分野間の関連性を示し、全体像を描こうとするのは本書ならではの魅力です。各項目の解説の後には、「Essential Points on the Map」と題されたページが置かれており、その項目が他の分野や項目とどのようにつながっているかが示されています。例えば、次のような説明があります。
《代数学(第1節)とは代数系について考察する学問であり、その中にある線形代数(第1項)はベクトル空間という特定の代数系を取り扱う分野です。その他の代数系としては群(第2項)、環(第3項)、体(第4項)などが存在します》
このように、他のページで解説されている内容とのつながりが強調されています。それぞれの項目を線で繋いでいくと、「数学の世界」が浮かび上がってくるというわけです。
本書の対象読者について
本書をおすすめできるのはどんな人でしょうか。「はじめに」によれば、本書は「主に高校生や大学初学年の人のために、今なんとなく勉強している数学がどのように広がっていくかについて解説したもの」です。「『厳密さ』第一」というのが著者のモットーで、定義や概念を一つ一つ丁寧に説明し、例を使って具体的に解説するスタイルは、むしろ本格的といってもいいでしょう。また、数学が得意な理数系の高校生であればこの本を十分に楽しめるでしょうが、本書の内容は大学レベルの数学を取り扱っているため、文系の学生にとっては読みづらい部分もあるかもしれません。
とはいえ、本書は「地図」であって、専門的な数学書ではありません。複雑な概念や詳細な内容がすべて理解できなくても、全体像を眺める楽しさは十分に感じられます。実際、筆者自身、大学では文系の学問を専攻し、数学は高校で学んだのが最後でしたが、本書を楽しく読むことができました。数学が好きな人、興味がある人、大学でこれから数学を学ぶ人にとって、本書は非常に魅力的な一冊だといえるでしょう。
数学の世界は目には見えませんが、確かに存在しています。この不思議で魅力的な世界への良き道先案内人が、本書です。この地図を片手に、あなたも数学という広大な世界への冒険を始めてみませんか。
<参考文献>
『数学の世界地図』(古賀真輝著、KADOKAWA)
https://www.kadokawa.co.jp/product/322110000991/
<参考サイト>
You Tubeチャンネル: Masaki Koga [数学解説]
https://www.youtube.com/c/MasakiKoga
古賀 真輝氏のツイッター
https://twitter.com/4p_t
『数学の世界地図』(古賀真輝著、KADOKAWA)
https://www.kadokawa.co.jp/product/322110000991/
<参考サイト>
You Tubeチャンネル: Masaki Koga [数学解説]
https://www.youtube.com/c/MasakiKoga
古賀 真輝氏のツイッター
https://twitter.com/4p_t
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