テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2023.10.18

ブラックでもホワイトでもない「パープル企業」とは

 「ブラック企業」とは、労働者に対し極端な長時間労働やノルマを課すなど就業環境が劣悪であったり、コンプライアンス意識が低かったりするなど、従業員に過重な負担を強いる企業や法人を指す言葉です。

 対する「ホワイト企業」とは、労働者にとって良好な職場環境が確保されている企業や法人を指します。特に、若手社員や女性社員の満足度が高く、離職率が低い企業や法人であることが特徴です。

 そのうえで、近年ブラック企業とホワイト企業の間(ただし、ブラック企業より)の企業や法人を指す言葉として、「パープル企業(または「ゆるブラック企業」)」という造語が誕生しました。

パープル企業のメリット・デメリット

 パープル企業にも明確な定義は確立されていませんが、以下のような特徴があるといわれています。

【パープル企業の利点(メリット)】
・仕事がきつくない
・職場の居心地が悪くない
・定時退社が基本で残業はあっても少ない
・離職率が低い

【パープル企業の欠点(デメリット)】
・やりがいや学びがない
・ルーティンワークや自社知識のみの業務が多く成長がない
・スキルや実務経験が身につかない
・給料が上がらない

 以上のように、パープル企業の利点(メリット)を見てみると、ホワイト企業と比べても遜色ない点があることがわかります。一方、パープル企業の欠点(デメリット)を見てみると、パープル企業で働くことの大きな心配点として、勤続するほどスキルや実務経験が身につかないため、いざというときに困ったり転職の際不利となったりすることが浮かび上がってきます。

 『日本経済新聞』(2022年12月15日)に掲載された「職場がホワイトすぎて辞めたい若手、成長できず失望」と題した記事では、「長時間労働やハラスメントへの対策を講じる企業が増えたほか、新型コロナウイルス禍で若手に課される仕事の負荷が低下。転職も視野に入れる彼らには成長の機会が奪われていると感じられる」と述べています。

 つまりパープル企業の最大の欠点(デメリット)とは、「勤続しても成長できない企業」であるといえるのではないでしょうか。

パープル企業で働く?働かない?

 ではどのような業界がパープル企業になってしまう可能性の高いといわれているのでしょうか。パープル企業になってしまう可能性の高いといわれている業界には、(1)インフラ、(2)運輸、(3)メーカー、(4)商社、(5)行政機関、(6)社団法人・学校法人――が挙げられています。

 ただし、パープル企業になってしまう可能性の高い業界であっても、当然ながらすべての企業がパープル企業になるわけではありません。もしも以上の6業界のどこかで働きたいがパープル企業はいやだと思った場合は、十分な企業研究を行うことが肝要といえます。

 また、仕事に求めるものも人それぞれです。例えば、仕事以外に目標があり、スキル向上は求めず必要最低限の賃金を稼げれば仕事は何でもよい人の場合などは、あえてパープル企業で働くことも選択肢の一つです。

 しかし、働いて成長したい、会社に依存することなく仕事したい、やりがいをもった働き方をしたいといった思いがある場合は、パープル企業で働かないことがブラック企業で働かないことと同様に、重要となってきます。

 ところで、「働くことで得られる成長」とはなにといえるのでしょうか。イノベーション論やマーケティング論などを専門とする金間大介氏(金沢大学融合研究域融合科学系教授/東京大学未来ビジョン研究センター客員教授)の言葉を借りると、「汎用的な能力やスキルを身につけること」といえます。

 金間氏は、「ゆるブラックを避ける若者の深層心理」(『Voice』2023年7月号)と題した論文で、「会社とは、お金をもらって、その分貢献する存在ではない。与えられた仕事をするのはもちろんだが、その過程を通して、会社や上司は、いかに汎用的な能力やスキルを身につけさせてくれるかが大事になってきている。〈中略〉それらを与えてくれない会社を『ゆるブラック』(※)と呼称する」と述べています。(※)「ゆるブラック」はパープル企業の別称。

 つまり、パープル企業で働くかぎり、汎用的な能力やスキルを身につけることができないといえます。そのため、汎用的な能力やスキルを身につけたり、自身のビジネスパーソンとしての市場価値を高めていざというときに備えたりしたいのであれば、パープル企業での働きを避けたり見直したりする必要がでてきます。

 人は誰でも多彩な可能性を持ち、働くときにはそれぞれの目的を持っています。多種多様な企業や働き方から、あなたにあった働き方や職場を探してみてください。

<参考文献・参考サイト>
・「考えさせたい大人、答えが欲しい若者(第5回)ゆるブラックを避ける若者の深層心理」(金間大介著、『Voice』2023年7月号)
・『デジタル大辞泉』(小学館)
・「職場がホワイトすぎて辞めたい若手、成長できず失望」『日本経済新聞』(2022年12月15日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD2865W0Y2A121C2000000/
・残業はないが成長もない「ゆるブラック企業」が多い業界、少ない業界
https://diamond.jp/articles/-/208868
・残業もないが成長もない……「ゆるブラック企業」は若者もごめんだ
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00030/052500183/
・ゆるブラック企業とは?特徴や危険性を知って働き方を見直そう
https://maneql.co.jp/blog/2021/08/06/yuru-black/#i
・パープル(ゆるブラック)企業を知ってますか?かなりヤバイ企業です。
https://maru-money.com/2019/04/know_purple_company_dangerous_company/
・「ホワイトすぎて」退職って本当? 変化する若者の仕事観
https://news.infoseek.co.jp/article/itmedia_bizmakoto_20230824051/
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,100本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

【会員アンケート企画】人間力を高めるために大切なものは?

【会員アンケート企画】人間力を高めるために大切なものは?

編集部ラジオ2024:5月15日(水)

今回の会員アンケート企画では「人間力を高めるために大切なものは何か?」というテーマでご意見をいただきました。

そもそも「人間力」とは? これは、ある意味ではどのようにも考えられる難しい問いです。しかし...
収録日:2024/05/08
追加日:2024/05/15
テンミニッツTV編集部
教養動画メディア
2

徳川吉宗の政治顧問・室鳩巣が説く「運を磨く」ための方法

徳川吉宗の政治顧問・室鳩巣が説く「運を磨く」ための方法

運と歴史~人は運で決まるか(5)「運を磨く」ことはできるか

江戸時代の剣術家にとって非常に大切な「運」があり、江戸時代の高名な儒学者で徳川吉宗の政治顧問だった室鳩巣は「武運を磨くことの大切さ」を説いた。そして、「運はどこから出てくるのか」という問いに対して、「運は天から...
収録日:2024/03/06
追加日:2024/05/16
山内昌之
東京大学名誉教授
3

どうなるアメリカ大統領選…多極化時代の潮流を読む

どうなるアメリカ大統領選…多極化時代の潮流を読む

グローバル・サウスは世界をどう変えるか(7)世界システムの変容と多極化

第2次世界大戦後、圧倒的な経済力でアメリカ中心の国際秩序が形成された。しかし、変動相場制移行や冷戦終結などでパクス・アメリカーナが終焉すると、その後はグローバリゼーションが世界を覆っていった。そして近年、グローバ...
収録日:2024/02/14
追加日:2024/05/15
島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授
4

なぜアメリカはロシア、中国より圧倒的に地理的優位なのか

なぜアメリカはロシア、中国より圧倒的に地理的優位なのか

地政学入門 歴史と理論編(3)地政学でみたアメリカ・ロシア・中国

国や地域がどこに位置するかという普遍的な要素から、国際政治の歴史や情勢を分析する地政学。今回はアメリカ、ロシア、中国という3つの大国を例にとり、地図を俯瞰しながらどのような分析が可能になるかを具体的に見ていく。ラ...
収録日:2024/03/27
追加日:2024/05/14
小原雅博
東京大学名誉教授
5

なぜ「父祖の遺風」がローマと江戸に共通する価値観なのか

なぜ「父祖の遺風」がローマと江戸に共通する価値観なのか

ローマ史と江戸史で読み解く国家の盛衰(1)父祖の遺風

1200年に及ぶ古代ローマ史と、260年以上続いた江戸時代。この二つの歴史は、国家や組織について学ぼうとする者には宝の山である。本シリーズは、古代ローマ史がご専門の本村凌二氏と江戸時代を中心に執筆活動を行う中村彰彦氏の...
収録日:2019/08/06
追加日:2019/12/19