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DATE/ 2023.10.20

『宇宙になぜ、生命があるのか』で読み解く「生命」誕生の謎

「この広大な宇宙の中で、地球以外にも生命は存在しているのだろうか」――子どもの頃、誰もが1度は疑問に思ったことがあるのではないでしょうか。現在のところ、地球外生命体が確認された記録はありません。本当に生命は地球にだけ存在しているのでしょうか。それとも、宇宙のどこかには私たちがまだ知らない生命が潜んでいるのでしょうか。

 このような疑問に答えを求めるとき、『宇宙になぜ、生命があるのか 宇宙論で読み解く「生命」の起源と存在』(戸谷友則著、ブルーバックス)は最良の一冊になるでしょう。本書は、「宇宙における生命」というテーマについて、専門知識がない読者にも分かりやすいように解説しています。宇宙物理学の専門家として知られる著者が、生命の起源という大問題に挑戦し、その成果がまとめられているのです。

宇宙物理学者、生命誕生の謎に挑む

 著者の戸谷友則氏は、1971年、愛知県生まれ。1998年に東京大学で物理学の博士号を取得した戸谷氏は、その後、国立天文台助手、プリンストン大学客員研究員、京都大学准教授を歴任し、現在は東京大学で天文学の教授として活躍しています。専門は宇宙物理学や天文学、特に宇宙論や銀河形成といった分野での理論的研究です。生命とは無縁のように思える研究分野ですが、戸谷氏は6、7年前から宇宙における生命について考えるようになったといいます。近年、「アストロバイオロジー」という、宇宙における生命の起源や位置づけを研究する分野が注目を集めるようになったのですが、それがきっかけでした。

 自然科学の分野は専門分化が進み、同じ物理学者でも分野が違えばわからないこともあります。しかし、生命の起源のような大問題は、さまざまな分野の知識を駆使したり、あるいは横断したりしながら取り組む必要があるため、誰もが気になるテーマであっても、専門分野を超えて取り組む研究者はそれほど多くないようです。

 そのような中、戸谷氏は専門外であった生命科学を最初から学び直し、物理系と生命系両方の知見に基づいて生命起源の問題に挑戦しています。本書は、宇宙論と物理学の最新の知見をベースに、生命がどれほどの確率で宇宙のどこかに誕生するのかについて分析しています。これは、2020年に学術雑誌「Scientific Reports」に発表された戸谷氏の論文が元になっています。

生命科学の基礎知識から宇宙論による謎の解明まで

 本書の内容を概観してみましょう。第1章では「生命とは何か」という根本的な問題から始まります。多様な定義を紹介しながら、生命現象の本質について考察されます。第2章では生命内の化学反応プロセスについて解説され、第3章では地球上の生命の歴史が概観されます。

 第4章では宇宙の始まりから地球の誕生までが説明され、第5章からは原始生命誕生のシナリオとその謎に迫ります。第6章と第7章では宇宙における原始生命の誕生確率や条件について考察されます。第8章では地球外生命探査の最新計画が紹介されます。終章では生命の奥深さやその神秘について洞察されています。

 ということで、本書は前半部が生命に関する基礎知識の解説で、後半部が宇宙論と物理学による生命起源の謎の解明という構成になっています。後半部は、まさに本書の中心となる議論で、読んでいてワクワクする部分です。

原始生命が生まれるためには何個の星が必要?

 本書が挑戦する問題は、「全生物の共通祖先となった最初の生命は、生命がまったく存在しなかった状態からどのように出現したのか」です(7ページ)。この問題に対するこれまでの有力な説として「RNAワールド」というものがあります。生物の体内では、DNAが情報を持ち、タンパク質が代謝などを担っていますが、RNAはその両方の機能を持っています。そのため、最初に誕生した生命はRNAだけでできていたとする説です。

「RNAワールド」は研究者に広く受け入れられている説ですが、それでも謎は残っています。生物学者によれば、生命活動をはじめるためには40~100塩基くらいの長さのRNAが必要だそうです。しかし、これがランダムな化学反応から非生物的に誕生する確率は、「サルがタイプライターで適当にタイプしていたらシェイクスピアの小説ができた」ことに例えられるほど、非現実的なものでした。

 そこで戸谷氏は、この謎に宇宙論からアプローチしていきます。現在の研究では、宇宙は138億光年を半径としてどの方向にも一様に広がっているといわれています。ただし、これは私たちに「観測可能な宇宙」の話であって、実際の宇宙はもっと大きいと考えられています。それを支持するのが1980年頃に提唱された「インフレーション宇宙論」です。

 宇宙はビッグバンの直後、急速に膨張した時期があったとするこの説によれば、真の宇宙の大きさは観測可能な宇宙の10の26乗倍、体積でいうとその3乗である10の78乗倍程度だと考えられます。そして、観測可能な宇宙に存在する太陽のような恒星は10の22乗個ほどなので、真の宇宙全体には「10の22乗×10の78乗=10の100乗個」の恒星が含まれると推測できます。

宇宙の大きさと生命誕生の確率

 戸谷氏の議論のポイントは、宇宙にこれほど多くの星があるなら、そのどこかで生命が誕生してもおかしくない、ということです。生命が生まれるためには、自己複製機能を持つのに十分な長さをもったRNAが必要になります。そのようなRNAがランダムな化学反応から生まれることは、観測可能な宇宙の範囲だとありえないとされてきました。

 しかし、それよりもはるかに大きな「インフレーション宇宙」の規模で考えれば、単純な化学反応の積み重ねで生命が生まれることは十分にありえるのです。こうして、本書は非生物的過程で生命が誕生するための最も現実的な方法を示したのです。

 ただし、この理論が正しいとすれば、私たちが今後、地球外生命体を発見できる確率は極めて低いということになります。そうなると、スピルバーグ監督の映画『未知との遭遇』のようなことは起こらないのです。ちょっとさびしい気もしますね。

 ですが、戸谷氏も認めているように、本書の議論はいまだ仮説に過ぎず、今後の研究によって未知のRNA合成プロセスが発見されるかもしれません。実際に、現在でも地球外生命探査の試みは続けられており、本書の第8章ではその最新の状況について触れられています。2023年4月には木星氷衛星探査機「JUICE」が打ち上げられました。8年をかけて木星系まで到達し、生命の存在可能性を探査します。もしかしたら何か大発見があるかもしれません。

 戸谷氏の出した結論は、宇宙はあまりに広大なので、一見不可能に思えることでも統計的・確率的な観点からは実際に起こり得るというものでした。ただ、それが分かった後でも生命の不思議や神秘を感じなくなったわけではない、と戸谷氏は言います。科学の枠組みとはまた別のところで、人間は宇宙の神秘に心を動かされているのかもしれません。宇宙の不思議に興味がある人に、ぜひ手にとっていただきたい一冊です。

<参考文献>
『宇宙になぜ、生命があるのか 宇宙論で読み解く「生命」の起源と存在』(戸谷友則著、ブルーバックス)
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000379402

<参考サイト>
戸谷友則氏のホームページ
https://sites.google.com/view/tomonori-totani/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0

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