社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2024.01.28

中高年の「ひきこもり」その実態とは?

 「ひきこもり」といえばこれまで、不登校をキッカケとして、社会から孤立する若者の問題とされてきました。しかし実態はさにあらず。若者だけでなく中高年におよぶ社会問題であることが内閣府の調査によっても明らかになってきました。

「ひきこもり」とは

 「ひきこもり」は、家族とは衣食住といった最低限のつながりを持ちつつも、自室に閉じこもりきりとなり、一般社会とのつながりを持てなくなった状態を示します。

 一般的な現象としては、「就労、就学していない」「精神障害ではない」「家族以外の他者との交流を持たず6カ月以上続けて自宅にひきこもっている状態」です。

 令和4年度の内閣府調査で、15歳~64歳の生産年齢人口において推計146万人、50人に1人がひきこもり状態であることがわかってきました。その中で、ひきこもり状態になったきっかけに、5人に1人がコロナ禍の影響を理由に挙げており、また「退職」がキッカケとする人の割合が比較的高く、本人の性向というよりは、なにかしらの社会情勢や社会的要因がひきこもりのトリガーになっているのです。

「8050問題」とは

 150万人弱の「ひきこもり」を想定すると、それを支える親・家族の問題として、少なく見積もっても300万~400万人規模の社会問題として捉えることができます。

 ひきこもる子と支える親、長期高齢化する社会において、80代の親と50代の子どもが身を寄せる世帯が社会から孤立してしまう「8050(はちまるごーまる)問題」として知られるようになりました。

 島根県が2014年3月に公表した「ひきこもり等に関する実態調査報告書」によると、地域の中でひきこもっている人の年齢は、40歳代が一番多く、40代以上の比率が53%に達していることが分かっています。また、佐賀県が2017年5月に公表した「ひきこもり等に関する調査結果」でも、年代別では、60歳以上が一番多く、次いで40歳代、50歳代となっていることから、ひきこもりの高年齢化が進んでいることは明らかです。

職場環境に起因するひきこもり

 ブラック企業が蔓延し、高ストレスな社会においては、中高年からの「ひきこもり」が少なくなく、安定した就労や社会的な自立支援が不足していることから、今後、問題はさらに大きくなることが予測されます。

 若者だけでなく中高年のひきこもりが多くなっているのは、環境として学校だけではなく職場に及んでいることがわかってきました。パワハラ、暴言、暴力、叱責、非難、といった職場での傷つき体験がひこもりに至るトリガーなってしまっているのです。

 内閣府調査では、職場環境の要因として、人と仕事のマッチングの問題も指摘されています。「自分にむいていない」、「やりたい仕事ではない」「自分の才能や特技を生かせない」と考える人が3割(40歳~69歳)から5割(15歳~39歳)に上っています。

 「ひきこもり」が長期化するすると、本人だけでなく支える家族も加齢とともに、病気や障害、貧困など問題は複層化していきます。個人の性向や家族環境の問題に留まらない、職場環境にも視野を拡げた社会問題として、早急な対策が望まれます。

<参考サイト>
・特定非営利活動法人KHJ全国ひきこもり家族連合会:「ひきこもり」全国推計146万人 50人に1人 内閣府調査を受けたKHJの見解
https://www.khj-h.com/news/statement/8862/
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
「学ぶことが楽しい」方には 『テンミニッツTV』 がオススメです。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために

なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために

エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如

現代社会にとって空海の思想がいかに重要か。AIが仕事の仕組みを変え、超高齢社会が医療の仕組みを変え、高度化する情報・通信ネットワークが生活の仕組みを変えたが、それらによって急激な変化を遂げた現代社会に将来不安が増...
収録日:2025/03/03
追加日:2025/11/12
2

『武功夜話』は偽書か?…疑われた理由と執筆動機の評価

『武功夜話』は偽書か?…疑われた理由と執筆動機の評価

歴史の探り方、活かし方(5)史実・史料分析:秀吉と秀次編〈下〉

豊臣秀次事件に対する見方を変えた『武功夜話』だが、実は偽書疑惑もある。今回は、そのことに鋭く迫っていく。『武功夜話』は、豊臣秀吉に仕えて大名まで上り詰めた前野長康の功績を中心に記された史料だが、その発表・出版の...
収録日:2025/04/26
追加日:2025/11/28
3

日本企業が世界のビジネスに乗り遅れた要因はオウンゴール

日本企業が世界のビジネスに乗り遅れた要因はオウンゴール

内側から見たアメリカと日本(6)日本企業の敗因は二つのオウンゴール

日本企業が世界のビジネスに乗り遅れた主な要因として、二つのオウンゴールを挙げる島田氏。その一つとして台湾のモリス・チャン氏によるTSMC立ち上げの話を取り上げるが、日本はその動きに興味を示さず、かつて世界を席巻して...
収録日:2025/09/02
追加日:2025/11/25
4

歴史作家・中村彰彦先生に学ぶ歴史の探り方、活かし方

歴史作家・中村彰彦先生に学ぶ歴史の探り方、活かし方

編集部ラジオ2025(29)歴史作家の舞台裏を学べる

この人生を生きていくうえで、「歴史」をひもとくと貴重なヒントにいくつも出会えます。では、実際にはどのように歴史をひもといていけばいいのか。

今回の編集部ラジオでは、歴史作家の中村彰彦先生がご自身の方法論...
収録日:2025/10/17
追加日:2025/11/27
5

なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み

なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み

何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み

なぜ「何回説明しても伝わらない」という現象は起こるのか。対人コミュニケーションにおいて誰もが経験する理解や認識の行き違いだが、私たちは同じ言語を使っているのになぜすれ違うのか。この謎について、ベストセラー『「何...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/02
今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授