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仏花なのに猛毒?劇物指定の植物シキミとは
「シキミ(樒)」という名の植物をご存じでしょうか。あまり耳慣れない名の植物ですが、古くから仏教と関わりが深く、特に関西地方では法要やお葬式などの仏事によく使われることで知られています。しかしそのいっぽうで「アニサチン」と呼ばれる猛毒を含んでおり、植物で唯一、取り扱いに十分注意しなければならない「劇物」に指定されているという、何ともおそろしげな特性を持っています。
そんな猛毒を持つ植物が、なぜ仏事に使われるようになったのでしょうか。
花はほんのり緑がかった薄い黄色で、マーガレットに似た多数の花弁を持つ花が、枝先に5~6個ほどまとまって咲きます。秋から冬にかけて星形の実がなり、その形が中華料理の「ウイキョウ」に似ているため、誤食されやすいといわれています。
シキミという名前の由来は、四季を通じて芽が出ること、葉が色鮮やかな緑色を保つことから「四季芽」や「四季美」、また毒があることから「悪しき実」が転じてシキミとなった、などの説があります。
鑑真は5度の航海失敗と失明の不運に見舞われながらも、強靱な精神力で来日。日本の仏教の制度を整え、のちに唐招提寺を建立するなど、日本の仏教に大きな影響を与えました。その鑑真が唐から来日した際、シキミを持ち込んだと伝えられています。
そんな鑑真がいた唐では、仏事にシキミではなく仏の青い瞳になぞらえた花「青蓮華(しょうれんげ)」の葉を使っていました。青蓮華とは、仏の世界「天竺」に咲くというハスの花です。
鑑真が来日してから約50年後の804年、遣唐使として唐に渡ったのが僧・空海です。空海は密教を学ぶため青蓮華を求めるも見つからず、代わりに似た形のシキミを使って修行をしたといわれています。そして日本に帰国し真言宗を開いた空海は、引き続きシキミで仏事を行いました。これが「シキミ=仏事」という認識が広がるようになったきっかけとされています。
しかしそのいっぽう、「香の木」と呼ばれるほど葉や樹皮に独特の強い芳香性があることでも知られており、それゆえに花言葉は「甘い誘惑」などといわれています。
それほどまでに強い毒と香りを放つシキミをなぜわざわざ仏事で使うのか、少し不思議ですよね。しかしその強い毒と香りこそ、仏事に適しているとされているのです。
実はシキミは人間はもちろん動物にとっても有害です。そのため害獣除けとして、荒らされやすい墓地に植えられるようになったことをきっかけに、お寺の庭や墓地に植栽される植物の定番となりました。
さらにシキミの強い香りには場を清める効果があると考えられ、邪気払いや死臭を消す目的からシキミをご遺体の枕元に供えたり、納骨の時に棺の中に敷き詰めたり、葉や樹皮から精油をとって線香や抹香の原料にしたりしました。
このように、シキミが伝えられた歴史、そしてその特性から、シキミは葬儀の場面で広く使われるようになりました。現在も供花や花輪の代わりにシキミが使われたり、末期の水を故人に含ませるためにシキミの葉を使ったりと、シキミは仏事に欠かせない植物として現在まで伝えられています。(※宗派や地域によって、シキミが使われていないこともあります)
ちなみにお寺ではなく神社では、神事において「榊(サカキ)」という植物が使われます。神主さんが、ご祈祷の際に枝を持って振るような仕草をしているのを見たことがあるでしょう。サカキとシキミは一見似ていますが、サカキは無毒無臭、葉の形も違い、全く違う植物です。しかし一部の神社ではサカキではなく、シキミが神事に使われる例もあるようです。
実は私たちにとって身近な植物のシキミ。今後も見かける機会が多いと思いますが、有毒ですので子どもが誤って口にしたりしないよう注意を払いましょう。
そんな猛毒を持つ植物が、なぜ仏事に使われるようになったのでしょうか。
シキミの特徴
シキミはマツブサ科シキミ属に分類される、一年中青々と生い茂る常緑樹です。葉はつやつやと光沢があり、高さは最大で10mほどになります。ツバキやサザンカ、シイなどを思い浮かべるとその姿が想像しやすいでしょう。花はほんのり緑がかった薄い黄色で、マーガレットに似た多数の花弁を持つ花が、枝先に5~6個ほどまとまって咲きます。秋から冬にかけて星形の実がなり、その形が中華料理の「ウイキョウ」に似ているため、誤食されやすいといわれています。
シキミという名前の由来は、四季を通じて芽が出ること、葉が色鮮やかな緑色を保つことから「四季芽」や「四季美」、また毒があることから「悪しき実」が転じてシキミとなった、などの説があります。
鑑真が伝え、空海が広めたシキミ
シキミが日本に伝えられたのは、日本に仏教が根付いた奈良時代のこと。753年に唐の僧・鑑真が来日した時といわれています。鑑真は、当時正式な得度を受けない私度僧であふれ、乱れきっていた日本の仏教をただすために朝廷が唐から呼び寄せた高僧です。鑑真は5度の航海失敗と失明の不運に見舞われながらも、強靱な精神力で来日。日本の仏教の制度を整え、のちに唐招提寺を建立するなど、日本の仏教に大きな影響を与えました。その鑑真が唐から来日した際、シキミを持ち込んだと伝えられています。
そんな鑑真がいた唐では、仏事にシキミではなく仏の青い瞳になぞらえた花「青蓮華(しょうれんげ)」の葉を使っていました。青蓮華とは、仏の世界「天竺」に咲くというハスの花です。
鑑真が来日してから約50年後の804年、遣唐使として唐に渡ったのが僧・空海です。空海は密教を学ぶため青蓮華を求めるも見つからず、代わりに似た形のシキミを使って修行をしたといわれています。そして日本に帰国し真言宗を開いた空海は、引き続きシキミで仏事を行いました。これが「シキミ=仏事」という認識が広がるようになったきっかけとされています。
シキミが仏事に適した植物となった理由
シキミの最大の特徴は、前述したように有毒であるということ。葉や茎、花、種子、根にいたるまで神経毒の「アニサチン」「ネオアニサチン」を含んでおり、口にすると嘔吐や下痢、けいれんが起こり、最悪の場合、死に至るおそれすらあります。しかしそのいっぽう、「香の木」と呼ばれるほど葉や樹皮に独特の強い芳香性があることでも知られており、それゆえに花言葉は「甘い誘惑」などといわれています。
それほどまでに強い毒と香りを放つシキミをなぜわざわざ仏事で使うのか、少し不思議ですよね。しかしその強い毒と香りこそ、仏事に適しているとされているのです。
実はシキミは人間はもちろん動物にとっても有害です。そのため害獣除けとして、荒らされやすい墓地に植えられるようになったことをきっかけに、お寺の庭や墓地に植栽される植物の定番となりました。
さらにシキミの強い香りには場を清める効果があると考えられ、邪気払いや死臭を消す目的からシキミをご遺体の枕元に供えたり、納骨の時に棺の中に敷き詰めたり、葉や樹皮から精油をとって線香や抹香の原料にしたりしました。
このように、シキミが伝えられた歴史、そしてその特性から、シキミは葬儀の場面で広く使われるようになりました。現在も供花や花輪の代わりにシキミが使われたり、末期の水を故人に含ませるためにシキミの葉を使ったりと、シキミは仏事に欠かせない植物として現在まで伝えられています。(※宗派や地域によって、シキミが使われていないこともあります)
ちなみにお寺ではなく神社では、神事において「榊(サカキ)」という植物が使われます。神主さんが、ご祈祷の際に枝を持って振るような仕草をしているのを見たことがあるでしょう。サカキとシキミは一見似ていますが、サカキは無毒無臭、葉の形も違い、全く違う植物です。しかし一部の神社ではサカキではなく、シキミが神事に使われる例もあるようです。
実は私たちにとって身近な植物のシキミ。今後も見かける機会が多いと思いますが、有毒ですので子どもが誤って口にしたりしないよう注意を払いましょう。
<参考サイト>
・食品衛生の窓(東京都保健医療局)
https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/shokuhin/dokusou/11.html
・樒(しきみ)とは?仏教との関わりや葬儀の使用例、榊との違いを解説(お仏壇のはせがわ)
https://www.hasegawa.jp/blogs/butsudan/butsudan-shikimi
・樒(しきみ・しきび)とは?葬儀で使う意味や榊との違い(いい葬儀)
https://www.e-sogi.com/guide/17176/
・樒(しきみ)と仏教の関係とは?使われ方や榊との違いも(Coeurlien)
https://www.famille-kazokusou.com/magazine/manner/295
・食品衛生の窓(東京都保健医療局)
https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/shokuhin/dokusou/11.html
・樒(しきみ)とは?仏教との関わりや葬儀の使用例、榊との違いを解説(お仏壇のはせがわ)
https://www.hasegawa.jp/blogs/butsudan/butsudan-shikimi
・樒(しきみ・しきび)とは?葬儀で使う意味や榊との違い(いい葬儀)
https://www.e-sogi.com/guide/17176/
・樒(しきみ)と仏教の関係とは?使われ方や榊との違いも(Coeurlien)
https://www.famille-kazokusou.com/magazine/manner/295
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