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たった10分!『親子で哲学対話』で実感する本質を問う楽しさ
「大人って何?」「思いやりってどんなこと?」といった、なかなか厄介な問いを子どもに投げかけられた経験がある人は少なくないのではないでしょうか。そして、困ってはぐらかしてしまった人も多いはず。でも、こういった問いはもしかしたら、親子の対話を深めるきっかけとなるかもしれません。
ではどのように対話すればいいのでしょうか。この点について参考になる本が今回紹介する『親子で哲学対話~10分からはじめる「本質を考える」レッスン』(苫野一徳著、大和書房)です。本書では、対話の方法に加えて、執筆当時40歳の著者が小学5年生の長女(ときに小1の次女も含めて)と行った実際の哲学対話がたくさん紹介されています。
著者の苫野一徳氏は1980年、兵庫県生まれの哲学者・教育学者で、現在は熊本大学大学院教育学研究科准教授です。経済産業省「産業構造審議会」の委員や熊本市教育委員を務めるほか、全国さまざまな自治体や学校のアドバイザーを歴任しています。ほかにも『子どものころからの哲学者』(大和書房)、『勉強するのは何のため?』(日本評論社)、『どのような教育が「よい」教育か』(講談社選書メチエ)など、教育学から哲学にまたがった内容の著書を多数執筆してます。
大きな話をすれば、哲学の命は「ここまでならたしかに誰もが深く納得できる!という本質的な考えにたどり着くことにある」と苫野氏はいいます。このたどり着いた考えは「共通了解」とも呼ばれます。この「共通了解」を探す行為が「本質観取」で、これは20世紀に現象学という哲学を創始した哲学者エトムント・フッサールの言葉です。
これまで人類は、どの神が正しいのかといった問いをめぐって激しい戦争をしてきました。これに対して、哲学は「何が絶対に正しい宗教(真理)かをめぐって争いあうのは、もうやめにしよう」と考え、「他者を傷つけるのでない限り、認め合おう」という考えが社会に広がっていきました。つまり、「本質観取」は、何か絶対的に正しい本質を明らかにしようというものではありません。しかし、「絶対に正しいことなんてない」というと、「ファシズム社会でもいい」ことになってしまいます。
大事なことは、それぞれの確信を持ち寄って「どこまでならみんなが納得できる『よい社会』の共通了解にたどり着けるか」と考えることです。このために、本質観取では「これはほんとうにすべての人にとって納得のいく考えになっているかな?」と、つねに自分たちを顧みながら対話を続けます。これを自身の身近な問題に対して行うことで、その物事を深く考えることができます。
苫野氏は「親子で哲学対話」は、子どもたちの思考力や言語力、対話力を飛躍的に育んでくれるものだと実感しています。また、これ以上に、自分はどんな人間で、何が好きで、どんなことを大事にしていて、どう生きていけば幸せになれるのかといったことを深く知り、考えていけるようになるという点からとても意義があるといいます。
二つ目は具体的な経験をもとに、「あれは学びだったなぁ」であるとか「これこそ学びだ」と思うものを出し合います。たとえば、夢中で調べ物をしていたとき、知らなかったことを知ることができたとき、失敗から学んだときのことなどが取り出せるかもしれません。
三つ目はそれらの経験に共通する本質的なキーワードをいくつか見つけることです。たとえば、「能動性」や「役に立つ」といったキーワードが見つかるかもしれません。
四つ目として、そこからもっとも核心をついた言葉(必要不可欠なキーワード)でその本質を言葉にしてみます。このとき、似た言葉や反対の言葉などと比べてみると、より本質が浮かび上がるかもしれません。「学び」に似た言葉であれば、「勉強」「訓練」「教育」などが浮かびます。どうして夢中で調べものをしていたときは、「勉強」ではなく「学び」だと感じたのか、と考えてみたりするといいということです。
五つ目は、こうして見つけた答えが最初の問題意識に答えるものになっているか、また具体的事例全てにちゃんと共通しているか、たしかめ直します。「学び」ではじめに出てきた問題意識は、「おもしろいと思えない学校の勉強を、どうすれば意味ある学びにできるかな」というものでした。これにちゃんと答えられているかどうか、たしかめます。また、どこかでいきづまったら、手順を少し戻って繰り返します。
ちなみに、ここで例として取り出した「学び」は、過去に小中学生と本質観取をした際のものだそうですが、そこでたどり着いた言葉は「学びとは、自分自身の問いと気づきを通して、人生が豊かになっていく営みである」とのこと。ワークショップでは1時間ほどかけるそうですが、苫野氏が長女と行っていたときには、だいたい夜寝る前に10分から20分くらいで行っていたそうです。
こうした対話をぜひ自身の家庭や身近な人たちで行ってほしいと苫野氏はいいます。ただし、ポイントは「楽しむ」こと。子どもは、ふだんあまり話をしないようなことについて話すことを純粋に楽しみます。考えることを楽しむと、思考を深めたり、言葉を磨いたりすること自体が楽しくなります。もちろん無理やり行うではなく、効果を求めすぎず、リラックスして行うことも大事です。
本書を読んで、お子さんや身近な人たちと哲学対話を実践してみるといいでしょう。きっと対話相手のこれまで知らなかった表情に出会えるはずです。そして、自分のなかで「そうだったのか」といった新たな発見と出会える可能性も大いにあるのです。なんだかとてもワクワクしてきますね。それがたった10分ではじめられるのですから、一度ためしてみてはいかがでしょう。
ではどのように対話すればいいのでしょうか。この点について参考になる本が今回紹介する『親子で哲学対話~10分からはじめる「本質を考える」レッスン』(苫野一徳著、大和書房)です。本書では、対話の方法に加えて、執筆当時40歳の著者が小学5年生の長女(ときに小1の次女も含めて)と行った実際の哲学対話がたくさん紹介されています。
著者の苫野一徳氏は1980年、兵庫県生まれの哲学者・教育学者で、現在は熊本大学大学院教育学研究科准教授です。経済産業省「産業構造審議会」の委員や熊本市教育委員を務めるほか、全国さまざまな自治体や学校のアドバイザーを歴任しています。ほかにも『子どものころからの哲学者』(大和書房)、『勉強するのは何のため?』(日本評論社)、『どのような教育が「よい」教育か』(講談社選書メチエ)など、教育学から哲学にまたがった内容の著書を多数執筆してます。
「本質観取」とは何か
苫野氏の長女は小学校3年生のころ、「学校をやめた」時期がありました。いわゆる不登校の状況ですが、このころから長女は苫野氏が大学のゼミやワークショップなどで行っていた「本質観取」という哲学対話に興味を持ち、親子で哲学対話をするようになったそうです。この「本質観取」とはどのようなものなのでしょうか。大きな話をすれば、哲学の命は「ここまでならたしかに誰もが深く納得できる!という本質的な考えにたどり着くことにある」と苫野氏はいいます。このたどり着いた考えは「共通了解」とも呼ばれます。この「共通了解」を探す行為が「本質観取」で、これは20世紀に現象学という哲学を創始した哲学者エトムント・フッサールの言葉です。
これまで人類は、どの神が正しいのかといった問いをめぐって激しい戦争をしてきました。これに対して、哲学は「何が絶対に正しい宗教(真理)かをめぐって争いあうのは、もうやめにしよう」と考え、「他者を傷つけるのでない限り、認め合おう」という考えが社会に広がっていきました。つまり、「本質観取」は、何か絶対的に正しい本質を明らかにしようというものではありません。しかし、「絶対に正しいことなんてない」というと、「ファシズム社会でもいい」ことになってしまいます。
大事なことは、それぞれの確信を持ち寄って「どこまでならみんなが納得できる『よい社会』の共通了解にたどり着けるか」と考えることです。このために、本質観取では「これはほんとうにすべての人にとって納得のいく考えになっているかな?」と、つねに自分たちを顧みながら対話を続けます。これを自身の身近な問題に対して行うことで、その物事を深く考えることができます。
「本質観取」は自分を深く知り、あり方を考えることができる
実際に親子で「本質観取」をする際には、子どもが気になっている言葉で行うこと。たとえば「友情」の本質観取をつづけていると「あぁ自分はこんな感情を友情と思っていたんだな」ということを、言語化を通して改めて発見することができるかもしれません。そうして、自分がどんな人生を欲していたのかといったことまであざやかに見えてくる可能性もあります。苫野氏は「親子で哲学対話」は、子どもたちの思考力や言語力、対話力を飛躍的に育んでくれるものだと実感しています。また、これ以上に、自分はどんな人間で、何が好きで、どんなことを大事にしていて、どう生きていけば幸せになれるのかといったことを深く知り、考えていけるようになるという点からとても意義があるといいます。
本質観取(哲学対話)のやり方
では本書から、実際のやり方を見てみます。本質観取の手順は、大きく五つに分けることができるということで、一つ目はテーマを出してもらって、「なぜこのテーマで本質観取をしたいのか」、「どんな意義があるだろう」と話し合うことです。本書では「学びとは何か」というテーマが取り出されています。これであれば、たとえば「おもしろいと思えない学校の勉強を、どうすれば意味のある学びにできるかな」という問題意識にたどりつくかもしれません。この問題意識があると、本質観取の意義が深まります。二つ目は具体的な経験をもとに、「あれは学びだったなぁ」であるとか「これこそ学びだ」と思うものを出し合います。たとえば、夢中で調べ物をしていたとき、知らなかったことを知ることができたとき、失敗から学んだときのことなどが取り出せるかもしれません。
三つ目はそれらの経験に共通する本質的なキーワードをいくつか見つけることです。たとえば、「能動性」や「役に立つ」といったキーワードが見つかるかもしれません。
四つ目として、そこからもっとも核心をついた言葉(必要不可欠なキーワード)でその本質を言葉にしてみます。このとき、似た言葉や反対の言葉などと比べてみると、より本質が浮かび上がるかもしれません。「学び」に似た言葉であれば、「勉強」「訓練」「教育」などが浮かびます。どうして夢中で調べものをしていたときは、「勉強」ではなく「学び」だと感じたのか、と考えてみたりするといいということです。
五つ目は、こうして見つけた答えが最初の問題意識に答えるものになっているか、また具体的事例全てにちゃんと共通しているか、たしかめ直します。「学び」ではじめに出てきた問題意識は、「おもしろいと思えない学校の勉強を、どうすれば意味ある学びにできるかな」というものでした。これにちゃんと答えられているかどうか、たしかめます。また、どこかでいきづまったら、手順を少し戻って繰り返します。
ちなみに、ここで例として取り出した「学び」は、過去に小中学生と本質観取をした際のものだそうですが、そこでたどり着いた言葉は「学びとは、自分自身の問いと気づきを通して、人生が豊かになっていく営みである」とのこと。ワークショップでは1時間ほどかけるそうですが、苫野氏が長女と行っていたときには、だいたい夜寝る前に10分から20分くらいで行っていたそうです。
ぜひ「哲学対話」を楽しんでみよう
このような方法で、本書では親子でさまざまなテーマ(幸せ、愚かさ、人間、信頼など)を取り上げたやり取りがいくつも掲載されています。苫野氏と長女のやり取りのおもしろさに加えて、途中で参加する次女(小1)の形而上学的問いなど、興味深いやり取りがそのまま掲載されています。もちろんうまく言葉が出ないときもあったようですが、深い洞察もあったり、うらなされたりする部分も多いのです。こうした対話をぜひ自身の家庭や身近な人たちで行ってほしいと苫野氏はいいます。ただし、ポイントは「楽しむ」こと。子どもは、ふだんあまり話をしないようなことについて話すことを純粋に楽しみます。考えることを楽しむと、思考を深めたり、言葉を磨いたりすること自体が楽しくなります。もちろん無理やり行うではなく、効果を求めすぎず、リラックスして行うことも大事です。
本書を読んで、お子さんや身近な人たちと哲学対話を実践してみるといいでしょう。きっと対話相手のこれまで知らなかった表情に出会えるはずです。そして、自分のなかで「そうだったのか」といった新たな発見と出会える可能性も大いにあるのです。なんだかとてもワクワクしてきますね。それがたった10分ではじめられるのですから、一度ためしてみてはいかがでしょう。
<参考文献>
『親子で哲学対話~10分からはじめる「本質を考える」レッスン』(苫野一徳著、大和書房)
https://www.daiwashobo.co.jp/book/b10078654.html
<参考サイト>
苫野一徳氏のX(旧Twitter)
https://x.com/ittokutomano
『親子で哲学対話~10分からはじめる「本質を考える」レッスン』(苫野一徳著、大和書房)
https://www.daiwashobo.co.jp/book/b10078654.html
<参考サイト>
苫野一徳氏のX(旧Twitter)
https://x.com/ittokutomano
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