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『ゾルゲンキンドはかく語りき』が描くサイケデリックの物語
「サイケデリック」という言葉は、一般的に薬物で幻覚を見たり陶酔状態に入ったりする様子を指しています。こういった薬物に関しては、依存性のある怖いものという印象を持つ人は多いでしょう。実際に日本の法律では、所持や販売が禁止されているものも多く存在します。ただし、薬物にもさまざまな種類があり、医療現場で使われるものもあり、十把一絡げにするのは問題があります。こういった薬物(サイケデリックス)について解説する本が『ゾルゲンキンドはかく語りき』(蛭川立著、ビオ・マガジン)です。
著者の蛭川氏によれば、サイケデリックス(精神活性物質)とは「元々世界各地の伝統社会で超自然界へ飛翔するために使われてきた植物に含まれているもの」です。その地域の文化や人間の在り方と関係するものといえます。ただし、本書ならびに当コラムは、薬物の使用を推奨するものではありません。書籍の中では「この本は違法薬物の所持・使用を推奨するものではありません。薬物の所持・使用については、当該国の法律・法令に従ってください」と明示されています。
著者の蛭川立(ひるかわたつ)氏は、1967年生まれで、現在、明治大学情報コミュニケーション学部の准教授を務められています。専門は人類学と心理学の境界領域。京都大学大学院では生物学を、東京大学大学院では人類学を研究し、その後はブラジルやイギリスの大学研究所など国内外のさまざまな場所で研究員を歴任しています。現在まで中南米やインドなどを行き来して研究し続けるかたわら、京都DMT茶裁判、大藪大麻裁判などの薬物関連の裁判において弁護側専門家証人を務めるといった活動もしています。
また、依存形成が「弱」に入る「精神展開薬」は「MDMA」「大麻」の二つ。続いて「興奮剤」で依存形成が「弱」に入るものが「カフェイン」「メタンフェタミン(覚醒剤)」の二つです。これに対して、依存形成が「強」であるのは「興奮剤」の「コカイン」と「ニコチン(タバコ)」、あとは「抑制剤」の「エチルアルコール(酒)」「モルヒネ(アヘン)」「ヘロイン」となっています。
中南米やインドなどの伝統社会においてサイケデリックスを含む薬草は、儀礼や祭礼の時にだけ使用されてきました。たとえばインドでも大麻は違法ですが、インド暦の大晦日の夜だけは、伝統的なバング(大麻ラッシー)が屋台で振る舞われ、人々は夜通し神々への賛歌に陶酔するそうです。一方で、近代社会では、非日常的な陶酔は治療すべき狂気として捉えられ、サイケデリックスは排除されてきました。これに対して蛭川氏は、<聖なる>サイケデリックスは現代社会の抑鬱から人間を解放することができると述べます。
また本書のタイトルにも出てくるゾルゲンキンドは、サイケの森で人間と哲学をしながら街に降りてきます。もともとはスイスの工場から脱走し、街で自転車を乗り回したインテリな問題児で、本名は「LSD」です。LSDは麦角アルカロイドをモデルに1943年のスイスで開発されました。その後、1960年代にはサイケデリック・カルチャーを象徴する物質となったものです。
街には「エナジーマン」と「我利我利くん」がいて、草原にはミキさんやカンナビノイドの精霊たちである「ジオール(カンナビジオール)」や「ゲロール(カンナビゲロール)」などが住んでいます。そして、森の奥に住むのが正体不明の「アヤール」、本名は「DMT(ジメチルトリプタミン)」です。なかなかシュールな物語なのですが、メタファーが意味するものを読み解いていくと、これら精霊(精神活性物質)と人間との関係性やその役割、性質といったものが掴めます。
この物語はとてもシュールかつ、キャラクターやイラストが可愛らしい哲学絵本です。私たちは朝にはコーヒーの覚醒作用を使って仕事に向かい、夜にはアルコールの抑制作用を利用して心身を休めます。これだけではなく、他の精神活性物質も地域文化の中で生きているものがあります。こういった精神活性物質を、現代社会でどう取り入れれば、よりよい人間の在り方になるのか、という点について考えられた書といえるでしょう。
ここまで触れたように、実際にはサイケデリックス(精神活性物質)がさまざまな効果を持っています。よって、なんとなく怖いから避けるということではなく、その正体がどういうものなのか知識を持っておくことが重要です。そうすれば、どのように接していくべきかを私たちは考えることができるのです。そのためにもまずは本書を開いてみてはいかがでしょう。本書はゾルゲンキンドが語る人間の本来的な在り方がどういうものなのか、非常に示唆に富んだ貴重な一冊なのです。
著者の蛭川氏によれば、サイケデリックス(精神活性物質)とは「元々世界各地の伝統社会で超自然界へ飛翔するために使われてきた植物に含まれているもの」です。その地域の文化や人間の在り方と関係するものといえます。ただし、本書ならびに当コラムは、薬物の使用を推奨するものではありません。書籍の中では「この本は違法薬物の所持・使用を推奨するものではありません。薬物の所持・使用については、当該国の法律・法令に従ってください」と明示されています。
著者の蛭川立(ひるかわたつ)氏は、1967年生まれで、現在、明治大学情報コミュニケーション学部の准教授を務められています。専門は人類学と心理学の境界領域。京都大学大学院では生物学を、東京大学大学院では人類学を研究し、その後はブラジルやイギリスの大学研究所など国内外のさまざまな場所で研究員を歴任しています。現在まで中南米やインドなどを行き来して研究し続けるかたわら、京都DMT茶裁判、大藪大麻裁判などの薬物関連の裁判において弁護側専門家証人を務めるといった活動もしています。
精神活性物質は三つに分類される
精神活性物質は大きく三種類に分けられます。この三つとは、精神を興奮させる「興奮剤」、精神を抑制する「抑制剤」、これに加えて「精神展開薬」です。本書序盤では、それぞれの依存性について、「依存治療」「依存形成弱」「依存形成強」の三段階にまとめた表が示されています。これによると「精神展開薬」の中でも「LSD」「シロシビン」「メスカリン」「ケタミン」については、「依存治療」つまり、ほかの物質に対する依存症を治療する作用を持つものがあります。また、依存形成が「弱」に入る「精神展開薬」は「MDMA」「大麻」の二つ。続いて「興奮剤」で依存形成が「弱」に入るものが「カフェイン」「メタンフェタミン(覚醒剤)」の二つです。これに対して、依存形成が「強」であるのは「興奮剤」の「コカイン」と「ニコチン(タバコ)」、あとは「抑制剤」の「エチルアルコール(酒)」「モルヒネ(アヘン)」「ヘロイン」となっています。
サイケデリックスは現代社会の抑鬱から人間を解放する
身近な「カフェイン」と「メタンフェタミン(覚醒剤)」が同じ依存形成度(弱)であったり、「ニコチン(タバコ)」と「エチルアルコール(酒)」が「コカイン」や「モルヒネ」「ヘロイン」と同じ「強」の依存形成度であったりすることに驚くかもしれません。この点に関して、表のキャプションでは「合法・違法の区別には必ずしも科学的・医学的な根拠があるわけではなく、歴史的・文化的な事情で決められたものが多い」と示されています。中南米やインドなどの伝統社会においてサイケデリックスを含む薬草は、儀礼や祭礼の時にだけ使用されてきました。たとえばインドでも大麻は違法ですが、インド暦の大晦日の夜だけは、伝統的なバング(大麻ラッシー)が屋台で振る舞われ、人々は夜通し神々への賛歌に陶酔するそうです。一方で、近代社会では、非日常的な陶酔は治療すべき狂気として捉えられ、サイケデリックスは排除されてきました。これに対して蛭川氏は、<聖なる>サイケデリックスは現代社会の抑鬱から人間を解放することができると述べます。
森、草原、街には精霊が住んでいる
本書では精霊が出てくる物語が展開します。この精霊たちは森や草原、街に住んでいます。たとえば街で人間に活を入れる精霊はエナジーマン。緑色でドリンク缶の姿をしています。この精霊の本名は「カフェイン」です。人間の願いや愚痴を聞きすぎて痩せ細って黒くなってしまったのは我利我利くん。でも我利我利くんは、もともと山の神社で頼りにされていたミキさんでした。この精霊の本名は「エチルアルコール(エタノール)」です。また本書のタイトルにも出てくるゾルゲンキンドは、サイケの森で人間と哲学をしながら街に降りてきます。もともとはスイスの工場から脱走し、街で自転車を乗り回したインテリな問題児で、本名は「LSD」です。LSDは麦角アルカロイドをモデルに1943年のスイスで開発されました。その後、1960年代にはサイケデリック・カルチャーを象徴する物質となったものです。
街には「エナジーマン」と「我利我利くん」がいて、草原にはミキさんやカンナビノイドの精霊たちである「ジオール(カンナビジオール)」や「ゲロール(カンナビゲロール)」などが住んでいます。そして、森の奥に住むのが正体不明の「アヤール」、本名は「DMT(ジメチルトリプタミン)」です。なかなかシュールな物語なのですが、メタファーが意味するものを読み解いていくと、これら精霊(精神活性物質)と人間との関係性やその役割、性質といったものが掴めます。
よりよい人間の在り方を語る哲学絵本
物語後半では、ゾルゲンキンド(LSD)が他の精霊や修行者、警察官などを相手に語る内容が示されます。その言葉は、さまざまな知識をもとにした人間の在り方への考察や深い思索です。言葉自体は短いのですが、なかなか密度の濃い言葉が散りばめられています。また、専門用語については、比較的わかりやすい日本語に置き換えられています。この物語はとてもシュールかつ、キャラクターやイラストが可愛らしい哲学絵本です。私たちは朝にはコーヒーの覚醒作用を使って仕事に向かい、夜にはアルコールの抑制作用を利用して心身を休めます。これだけではなく、他の精神活性物質も地域文化の中で生きているものがあります。こういった精神活性物質を、現代社会でどう取り入れれば、よりよい人間の在り方になるのか、という点について考えられた書といえるでしょう。
ここまで触れたように、実際にはサイケデリックス(精神活性物質)がさまざまな効果を持っています。よって、なんとなく怖いから避けるということではなく、その正体がどういうものなのか知識を持っておくことが重要です。そうすれば、どのように接していくべきかを私たちは考えることができるのです。そのためにもまずは本書を開いてみてはいかがでしょう。本書はゾルゲンキンドが語る人間の本来的な在り方がどういうものなのか、非常に示唆に富んだ貴重な一冊なのです。
<参考文献>
『ゾルゲンキンドはかく語りき』(蛭川立著、ビオ・マガジン)
https://www.biomagazine.jp/ゾルゲンキンドはかく語りき/
<参考サイト>
蛭川研究室
https://hirukawa.hateblo.jp/
蛭川立氏のX(旧Twitter)
https://x.com/ininsui
『ゾルゲンキンドはかく語りき』(蛭川立著、ビオ・マガジン)
https://www.biomagazine.jp/ゾルゲンキンドはかく語りき/
<参考サイト>
蛭川研究室
https://hirukawa.hateblo.jp/
蛭川立氏のX(旧Twitter)
https://x.com/ininsui
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