社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
世界の外国為替市場に影響を与えるFX投資家「ミセス・ワタナベ」の正体とは?
1ドル120円を超えていた円安傾向だが、最近徐々に円高傾向にふれてきている。貿易赤字も続いているので、ある程度なら円高になることは望ましいのだが、急激な上昇ということになると、それはそれで困る。輸出不振を招き、最近好調な外国からの観光需要も台無しにしてしまうためだ。
円の価格が上がるにしろ、下がるにしろ、その変化は緩やかであってくれた方がやはり望ましい。企業としても、消費者としても、余裕をもって対応できるから利益の確保と、損失回避をしやすいからだ。
しかし、米国の金融緩和の年内終了が難しいという見通しが出たこと、EUに難民問題やフォルクスワーゲンの不正問題が降りかかるなど、短期間で立て続けにドルやユーロの価値を大幅に下げるようなことが起こった。
結局、1ドル120円前後で上下していた円は、10月中旬には118円台まで一気に上がってくるという事態になってしまった。プロの投資家たちは、今こそドルを売って円を買う時だと判断したのだ。
しかし、ここで思わぬ動きを見せる投資家がいた。「ミセス・ワタナベ」だ。彼女は、多くの投資家が円買い・ドル売りに走る中、その逆張りで巨額の円売り・ドル買いを浴びせかけたのだ。
そのおかげで急激な円高はいったん食い止められることになった。さて、ミセス・ワタナベとは一体誰なのだろう?名前の響きからしてどうやら日本人らしいが、円の価値を安定させ、日本経済を守ってくれる愛国的なお金持ちなのだろうか?
残念ながら、我々を守ってくれようとする、そんな奇特なお金持ちではない。もっと言えば、そもそも、ミセス・ワタナベという人物は存在すらしない。
実はミセス・ワタナベとは、日本人の小口外国為替証拠金取引を行う人々のこと。要するに個人でFXをやっている日本人のことなのだ。彼らはみな非常に似た動きをする。例えば、円が売られて安くなっていると買い、買われて高くなっていると売るという逆張り戦略。他には、昼休み時などに一気に注文をすること。ミセス・ワタナベを構成するひとりひとりのほとんどは、投資は飽くまで副業で、主婦やサラリーマンなどの本業を持っているからだ。
彼らひとりひとりの動かす金額は少ないが、同じような動きをするため、あたかも、金融のプロたちの判断(つまり為替相場の流れを作るもの)とは違う動きをする、ひとりの巨大投資家がいるように見えるわけだ。
FXがブームになった2000年代半ばから、為替相場に影響を与えるその存在は知られるようになった。FXをやっている層にビジネスの世界からはほど遠い、まして金融の専門知識を備えているとは考えにくい主婦層までいたことに驚いた欧米のメディアが、この現象をミセス・ワタナベと言い始めた。
現在では、ミセス・ワタナベは非常に大きな影響力を為替市場に持つようになった。その動きを読んで、カモにしてやろうというミセス・ワタナベ狩りという動きをするプロの投機筋すら存在する。
ミセス・ワタナベが生まれるのは、個人投資家たちが、プロと比べ、乏しい情報と限られた時間の中で取引を行うからだ。日銀やFRBの発表などに気を配るよりも、実際の値動きの中である程度大きなものがあったら動く。つまり、数円単位(これは為替相場では十分大きい)で上がったら売る、下がったら買うということばかりをやるわけだから、同じような動きが大量に発生するわけだ。
その結果、ミセス・ワタナベはたびたび狩りの対象になりながらも、日本円の安定に一定の貢献を果たしてきた。誰もそんなことは意識せずに。これからも逆張り戦略で、急激な円価格の乱高下をおさえる役割を果たしてくれるだろう。
円の価格が上がるにしろ、下がるにしろ、その変化は緩やかであってくれた方がやはり望ましい。企業としても、消費者としても、余裕をもって対応できるから利益の確保と、損失回避をしやすいからだ。
しかし、米国の金融緩和の年内終了が難しいという見通しが出たこと、EUに難民問題やフォルクスワーゲンの不正問題が降りかかるなど、短期間で立て続けにドルやユーロの価値を大幅に下げるようなことが起こった。
結局、1ドル120円前後で上下していた円は、10月中旬には118円台まで一気に上がってくるという事態になってしまった。プロの投資家たちは、今こそドルを売って円を買う時だと判断したのだ。
しかし、ここで思わぬ動きを見せる投資家がいた。「ミセス・ワタナベ」だ。彼女は、多くの投資家が円買い・ドル売りに走る中、その逆張りで巨額の円売り・ドル買いを浴びせかけたのだ。
そのおかげで急激な円高はいったん食い止められることになった。さて、ミセス・ワタナベとは一体誰なのだろう?名前の響きからしてどうやら日本人らしいが、円の価値を安定させ、日本経済を守ってくれる愛国的なお金持ちなのだろうか?
残念ながら、我々を守ってくれようとする、そんな奇特なお金持ちではない。もっと言えば、そもそも、ミセス・ワタナベという人物は存在すらしない。
実はミセス・ワタナベとは、日本人の小口外国為替証拠金取引を行う人々のこと。要するに個人でFXをやっている日本人のことなのだ。彼らはみな非常に似た動きをする。例えば、円が売られて安くなっていると買い、買われて高くなっていると売るという逆張り戦略。他には、昼休み時などに一気に注文をすること。ミセス・ワタナベを構成するひとりひとりのほとんどは、投資は飽くまで副業で、主婦やサラリーマンなどの本業を持っているからだ。
彼らひとりひとりの動かす金額は少ないが、同じような動きをするため、あたかも、金融のプロたちの判断(つまり為替相場の流れを作るもの)とは違う動きをする、ひとりの巨大投資家がいるように見えるわけだ。
FXがブームになった2000年代半ばから、為替相場に影響を与えるその存在は知られるようになった。FXをやっている層にビジネスの世界からはほど遠い、まして金融の専門知識を備えているとは考えにくい主婦層までいたことに驚いた欧米のメディアが、この現象をミセス・ワタナベと言い始めた。
現在では、ミセス・ワタナベは非常に大きな影響力を為替市場に持つようになった。その動きを読んで、カモにしてやろうというミセス・ワタナベ狩りという動きをするプロの投機筋すら存在する。
ミセス・ワタナベが生まれるのは、個人投資家たちが、プロと比べ、乏しい情報と限られた時間の中で取引を行うからだ。日銀やFRBの発表などに気を配るよりも、実際の値動きの中である程度大きなものがあったら動く。つまり、数円単位(これは為替相場では十分大きい)で上がったら売る、下がったら買うということばかりをやるわけだから、同じような動きが大量に発生するわけだ。
その結果、ミセス・ワタナベはたびたび狩りの対象になりながらも、日本円の安定に一定の貢献を果たしてきた。誰もそんなことは意識せずに。これからも逆張り戦略で、急激な円価格の乱高下をおさえる役割を果たしてくれるだろう。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
自分を豊かにする“教養の自己投資”始めてみませんか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。
『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
豊臣兄弟の謎…明らかになった秀吉政権での秀長の役割
豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(1)史実としての豊臣兄弟と秀長の役割
豊臣と羽柴…二つの名前で語られる秀吉と秀長だが、その違いは何なのか。また、これまで秀長には秀吉の「補佐役」というイメージがあったが、史実ではどうなのか。実はこれまで伝えられてきた羽柴(豊臣)兄弟のエピソードにはか...
収録日:2025/10/20
追加日:2025/12/18
逆境に対峙する哲学カフェ…西洋哲学×東洋哲学で問う矛盾
逆境に対峙する哲学(1)日常性が「破れ」て思考が始まる
「逆境とは何に逆らうことなのか」「人はそもそも逆境でしか思考しないのではないか」――哲学者鼎談のテーマは「逆境に対峙する哲学」だったが、冒頭からまさに根源的な問いが続いていく。ヨーロッパ近世、ヨーロッパ現代、日本...
収録日:2025/07/24
追加日:2025/12/19
日本の外交には「インテリジェンス」が足りない
インテリジェンス・ヒストリー入門(1)情報収集と行動
国家が的確な情報を素早く見つけ行動するためには、インテリジェンスが欠かせない。日本の外交がかくも交渉下手なのは、インテリジェンスに対する意識の低さが原因だ。日本人の苦手なインテリジェンスの重要性について、また日...
収録日:2017/11/14
追加日:2018/05/07
『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(2)バイアスの正体と情報の抑制
「バイアスがかかる」と聞くと、つい「ないほうが望ましい」という印象を抱いてしまうが、実は人間が生きていく上でバイアスは必要不可欠な存在である。それを今井氏は「マイワールドバイアス」と呼んでいるが、いったいどうい...
収録日:2025/05/12
追加日:2025/11/09
葛飾北斎と応為の見事な「画狂人生」を絵と解説で辿る
編集部ラジオ2025(31)絵で語る葛飾北斎と応為
葛飾北斎と応為という「画狂親娘」の人生と作品について、堀口茉純先生にそれぞれの絵をふんだんに示しながら教えていただいた講義を、今回の編集部ラジオで紹介しました。
葛飾北斎といえば知らぬ人はいない江戸の絵...
葛飾北斎といえば知らぬ人はいない江戸の絵...
収録日:2025/12/04
追加日:2025/12/18


