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『古生物がもっと知りたくなる化石の話』でめぐる古生物世界
		        	    
 過去、地球上に存在した巨大な古代生物といえば、まずは恐竜が思い浮かぶでしょう。子どもの頃、その生活に思いを馳せた人は多いはず。恐竜の映画を見てワクワクしたこともあるのでは。恐竜はその時代の花形ですから。ただし、同時代には哺乳類も生息していました。特に最近の研究では、恐竜と同じ時代から絶滅後まで生きた古代の哺乳類の姿もだいぶわかってきたようです。
そういった最新の古生物研究をもとに、研究の現場からその様子や最新の情報などまでをわかりやすく伝えている本が今回紹介する『古生物がもっと知りたくなる化石の話』(木村由莉著、岩波書店)です。本書はもともと「毎日小学生新聞」(毎日新聞社)に連載されていた「ゆり先生の化石研究室」(2023年4月~2024年3月)が加筆修正を経て一冊にまとめられたものです。
著者の木村由莉氏は、国立科学博物館地学研究部研究主幹として哺乳類化石の研究をしている古生物学者。早稲田大学教育学部を卒業したのち、アメリカ・サザンメソジスト大学で博士号を取得しています。著書としては他に『恐竜がもっと好きになる化石の話』(岩波ジュニアスタートブックス)、『もがいて、もがいて、古生物学者!!』(ブックマン社)などがあります。さらに、学習まんがの監修や恐竜に関する絵本の翻訳なども手掛けています。
また、研究に求められるものとしては「発想力」と「学力」、「プレゼン力」を挙げています。「発想力」については「同じものを観察しても新しい発想によって世界の誰も知らなかったことを発見できる可能性がある」といいます。次に、「学力」は研究の基礎体力で、いわばスポーツでの走り込みのようなものとのこと。「プレゼン力」は自分の研究が大事だと相手に思ってもらうために必要な力とのことです。これに加えて、研究の道のりはとても長いことから、チームワークを大事にする必要性にも触れられています。
それでもやはりネズミ大の小さな種が大半で、肉食恐竜と張り合えるような大きさの哺乳類は登場できなかったようです。ただし、中生代の中でもジュラ紀(2億100万年前~1億4500万年前)になると、多様な生態系を形成していたことが最近の研究でわかっています。具体的にはムササビのように滑空したボラティコテリウム、ビーバーのように大きな尾をもち泳いだカストロカウダ、地面を掘るための頑丈な腕を持ったフルイタフォッサーなどが挙げられています。
また、外温性の生物(現代のワニなど)はゆっくり成長しますが、内温性の生物(現代の哺乳類や鳥など)はかなり早く成長し、大人になったら成長が止まるという性質があります。これは骨に残る成長線を調べることで判明します。これによるとティラノサウルスはかなり早く成長し、大人になると成長がストップする鳥タイプだったとのこと。
ただし全ての獣脚類が同じだったわけではなく、カルカロドントサウルス科は長い期間をかけてゆっくり成長するワニタイプだったこともわかっています。このあたりはまだまだ多くの謎が残っており、研究の余地がありそうです。この点について木村氏によると、今地上で生きている動物の情報と自分のアイデアをフル回転させて証拠をたくさん集めることが大事だということです。
ただし、これら大型哺乳類が登場する前、白亜紀の次の時代である暁新世(6600万年前~5500万年前)には、誕生してはすぐに絶滅するという「試作品」のような哺乳類グループがたくさん存在したそうです。こうした白亜紀末の大量絶滅後の哺乳類については、ごく最近の研究で明らかになってきた部分です。
他にも、本書後半では北極と南極に次ぐ「第3極圏」としてチベット高原が紹介されています。この地は寒さに順応した哺乳類たちが暮らした場所で、古生物学者にとって最後の秘境とのこと。この発掘調査については、実際の現場での発掘の様子なども詳述されます。詳細はぜひ本書を読んでみてください。
このように本書では、これまで一般向けの古生物の本ではあまり触れられてこなかった哺乳類研究について、哺乳類発掘の現場の様子や最新の情報などがリアルに仔細に示されています。この意味でも本書は古生物への入門書、解説書であると同時に、これまである程度古生物について知っていた人でも新しい知の更新ができる書籍なので、ワクワクしながら読み進めることができるでしょう。
		        そういった最新の古生物研究をもとに、研究の現場からその様子や最新の情報などまでをわかりやすく伝えている本が今回紹介する『古生物がもっと知りたくなる化石の話』(木村由莉著、岩波書店)です。本書はもともと「毎日小学生新聞」(毎日新聞社)に連載されていた「ゆり先生の化石研究室」(2023年4月~2024年3月)が加筆修正を経て一冊にまとめられたものです。
著者の木村由莉氏は、国立科学博物館地学研究部研究主幹として哺乳類化石の研究をしている古生物学者。早稲田大学教育学部を卒業したのち、アメリカ・サザンメソジスト大学で博士号を取得しています。著書としては他に『恐竜がもっと好きになる化石の話』(岩波ジュニアスタートブックス)、『もがいて、もがいて、古生物学者!!』(ブックマン社)などがあります。さらに、学習まんがの監修や恐竜に関する絵本の翻訳なども手掛けています。
研究で大事なもの「発想力」「学力」「プレゼン力」
本書はもともと小学生新聞での連載ということもあり、わかりやすい言葉で書かれています。また、内容としても「研究とはなにか」であるとか、「研究に求められることは何か」といった、これから研究に興味をもつ人向けのものもあります。まずはこの点をピックアップしてみましょう。木村氏は「教科書を読んだり人から教わったり経験を積むことで得られる『学び』に『世界の誰も知らない新しいことを探求する』ということを足し算することで『研究』になる」といいます。また、研究に求められるものとしては「発想力」と「学力」、「プレゼン力」を挙げています。「発想力」については「同じものを観察しても新しい発想によって世界の誰も知らなかったことを発見できる可能性がある」といいます。次に、「学力」は研究の基礎体力で、いわばスポーツでの走り込みのようなものとのこと。「プレゼン力」は自分の研究が大事だと相手に思ってもらうために必要な力とのことです。これに加えて、研究の道のりはとても長いことから、チームワークを大事にする必要性にも触れられています。
最近わかってきた哺乳類の多様な姿
こうして研究を進めてきた木村氏ですが、本書では古生物の中でも特に著者の専門分野である哺乳類についての興味深い話が多く掲載されています。中生代(約2億5200万年前~6600万年前)の哺乳類について、かつてはネズミやリスほどの大きさのものしかいなかったとされてきました。しかし、この数十年の発掘と研究の成果によって、肉食性では中型から大型のイヌほどの大きさのレペノマムスやディデルフォドン、植物食性ではビーバーよりもやや小さいくらいの多丘歯類ユバーターといったものもいたことがわかっています。それでもやはりネズミ大の小さな種が大半で、肉食恐竜と張り合えるような大きさの哺乳類は登場できなかったようです。ただし、中生代の中でもジュラ紀(2億100万年前~1億4500万年前)になると、多様な生態系を形成していたことが最近の研究でわかっています。具体的にはムササビのように滑空したボラティコテリウム、ビーバーのように大きな尾をもち泳いだカストロカウダ、地面を掘るための頑丈な腕を持ったフルイタフォッサーなどが挙げられています。
恐竜の成長スピードは2パターン
食べ物を「熱エネルギー」に変えて体温を高く保つことができると、寒いときでも外気温の影響を受けることなく活発に行動することができます。中生代の後期にあたる白亜紀(1億4500万年前~6600万年前)には、哺乳類はこの「内温性」を獲得していたと考えられています。鳥類もこの内温性を獲得していますが、原始的な鳥類であるアーケオプテリクス(始祖鳥)や派生的な(=進化的な)獣脚類トロオドン、同じく獣脚類で体の大きいティラノサウルスは内温性と外温性の中間だったとのことです。また、外温性の生物(現代のワニなど)はゆっくり成長しますが、内温性の生物(現代の哺乳類や鳥など)はかなり早く成長し、大人になったら成長が止まるという性質があります。これは骨に残る成長線を調べることで判明します。これによるとティラノサウルスはかなり早く成長し、大人になると成長がストップする鳥タイプだったとのこと。
ただし全ての獣脚類が同じだったわけではなく、カルカロドントサウルス科は長い期間をかけてゆっくり成長するワニタイプだったこともわかっています。このあたりはまだまだ多くの謎が残っており、研究の余地がありそうです。この点について木村氏によると、今地上で生きている動物の情報と自分のアイデアをフル回転させて証拠をたくさん集めることが大事だということです。
哺乳類研究の最新現場から
およそ6600万年前の白亜紀末期に隕石が衝突したことで、それまでも徐々に衰退し始めていた恐竜は一気に絶滅してしまいます。そうして哺乳類が大繁栄することになり、白亜紀末期の大量絶滅から2000万年後にはサイほどの大きさで角と牙を持つユインタテリウムという大型哺乳類が登場します。ただし、これら大型哺乳類が登場する前、白亜紀の次の時代である暁新世(6600万年前~5500万年前)には、誕生してはすぐに絶滅するという「試作品」のような哺乳類グループがたくさん存在したそうです。こうした白亜紀末の大量絶滅後の哺乳類については、ごく最近の研究で明らかになってきた部分です。
他にも、本書後半では北極と南極に次ぐ「第3極圏」としてチベット高原が紹介されています。この地は寒さに順応した哺乳類たちが暮らした場所で、古生物学者にとって最後の秘境とのこと。この発掘調査については、実際の現場での発掘の様子なども詳述されます。詳細はぜひ本書を読んでみてください。
このように本書では、これまで一般向けの古生物の本ではあまり触れられてこなかった哺乳類研究について、哺乳類発掘の現場の様子や最新の情報などがリアルに仔細に示されています。この意味でも本書は古生物への入門書、解説書であると同時に、これまである程度古生物について知っていた人でも新しい知の更新ができる書籍なので、ワクワクしながら読み進めることができるでしょう。
<参考文献>
『古生物がもっと知りたくなる化石の話』(木村由莉著、岩波ジュニアスタートブックス)
https://www.iwanami.co.jp/book/b649626.html
Yuri Kimura氏のX(旧Twitter)
https://x.com/micropaleov
			            
		            『古生物がもっと知りたくなる化石の話』(木村由莉著、岩波ジュニアスタートブックス)
https://www.iwanami.co.jp/book/b649626.html
Yuri Kimura氏のX(旧Twitter)
https://x.com/micropaleov
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