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DATE/ 2025.01.04

道路沿いの「小さな鳥居」の正体は?

神社はないのに鳥居だけ……?

 山や雑木林へとつながる道路脇などに、小さな鳥居が建っていることがあります。この鳥居は大人の膝や腰くらいの高さで、赤く塗った木材やプラスチックなどでつくられています。鳥居といわれてすぐに思い浮かべるようなくぐれる高さではなく、つくりも簡素なものです。

 そしてなにより不思議なのは、周辺に神社はないということ。鳥居は神様が住む聖域を人間が住む俗界と分けるための結界の役割を持ち、神社の入り口を示すシンボルです。それなのになぜ、小さな鳥居の周辺には神社がないのでしょうか。

 その理由は、鳥居が神様を連想させる心理を利用した“ある目的”のために置かれているからなのです。

「罰が当たる」という心理

 小さな鳥居が置かれている場所は都市部と山間部の中間が多く、車の通り道であると同時に人目にはつきにくい環境です。このような場所には「見つからなければいいや」というよからぬ考えを持った人がやってきて、ゴミを不法投棄していってしまいます。中には軽い気持ちでポイ捨てする人や、用を足していく人まで……。東北地方の不法投棄に悩む自治体では、年間約2トンものゴミが勝手に捨てられていたといいます。

 そこで登場したのがこの小さな鳥居でした。鳥居は神様がいる場所。そんな場所にゴミを捨てたら「罰が当たる」という心理にはたらきかけられるのではないかという考えのもとに、不法投棄が多い場所に設置されたのです。

 その効果はてきめんでした。年間約2トンの不法投棄に悩んでいた自治体は年間約400キログラムまで減ったそうです。「鳥居は神聖なもの」、「鳥居に失礼をはたらいたら天罰が下る」という考え方は日本人のDNAにしっかり刻まれていることがわかりますね。誰も見ていなくても神様は見ているのです。

鳥居を置いているのは誰?

 “神様の力”で劇的な不法投棄撃退能力を発揮した小さな鳥居ですが、周囲に神社がないことからもわかるとおり、実際には神社とは関係ありません。設置しているのも神社の関係者ではなく、不法投棄に悩む自治体の行政やボランティアが担当していることがほとんどです。中には自治体の許可を得た清掃会社が設置していることもあります。

 小さな鳥居の正式な発祥はどこなのかわかっていませんが、日本全国の山道近くの道路脇に設置されています。はじめは自治体の人々が木材を切ったりプラスチックのパイプを組み合わせたりして手作りしていましたが、近年ではれっきとした不法投棄対策用品として販売もされています。

 たとえば、埼玉県の環境対策製品製造会社・ニューマテリアル社の製品には、間伐材を再利用した「ごみよけトリー」という名称の小さな鳥居があります。ごみよけトリーは鳥居に似せてありますが、正式な神社の鳥居の形式とは異なっており、宗教的には無関係であるという配慮もされている製品です。

 ゴミを勝手に捨てる人たちが小さな鳥居を見て不法投棄をためらうのは、それが“いけないこと”だとわかっているから。これからも小さな鳥居は心ない人たちの心にいけないことを自覚させるためにがんばってくれるのです。

<参考サイト>
道路沿い謎の「小さな鳥居」いったいコレは?何のために?調べてみたら深ーいワケが・・・│TBS NEWSDIG
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/173441
「神様が見てるよ」小さな鳥居があちこちに 近くに神社もなく…そのナゾを調査した【長崎発】│FNNプライムオンライン
https://www.fnn.jp/articles/-/198177
「ごみよけトリー」不法投棄対策・不法投棄防止製品│ニューマテリアル 
http://www.new-material.com/gomiyoke-tori.htm

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今井むつみ
一般社団法人今井むつみ教育研究所代表理事 慶應義塾大学名誉教授