社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
	
『科学的思考入門』で学ぶ情報過剰社会を生きるための方法
情報の海でおぼれかけているわたしたち
現代を生きるわたしたちは、かつてないほどの情報であふれた社会のなかで生きています。誰もが文字を使い、誰もがインターネットを通し発言することができる。それはとても幸福なことである一方、指先一つでスマートフォンを開けば、SNSや動画サイトなどから絶え間ない情報が流れ込んで来ます。こうした情報過多な社会は過去に類がなく、さながらわたしたちは、情報という海に飲み込まれ、つま先立ちでなんとか顔を出しているような状態といえるのかもしれません。こうしたあふれかえる情報のなかには、不確実なもの、間違い、有害な情報も混ざり込んでいます。もしかすると、あっぷあっぷと情報の水に飲まれるなかで、意図せずあなた自身がこうした不確実な情報を拡散してしまうこともあるでしょう。
こんな情報社会を生きるわたしたちにとって必要なのが「科学的思考」だというのが、東京大学大学院情報学環・学際情報学府准教授である植原亮氏です。今回は、植原氏の著書『科学的思考入門』(講談社)を通し、情報過多社会での科学的思考の重要性に触れてみましょう。
有害な情報から身を守るための科学的思考
植原氏は、これまでにも『思考力改善ドリル』(勁草書房)、『遅考術』(ダイヤモンド社)といった“思考”に関する書著を書かれています。本書の冒頭に登場する一言は、「ああ……それにしても科学的に考える力が欲しいっ……!!」。これはどういうことでしょうか。これが、「有害な情報から自分の身を守りやすくなり、自分から情報を発信するときにも、その情報の〈品質保証〉ができるようになる」方法が “科学的に考える力”だとすれば、どうでしょうか。ウソかマコトかわからない情報に左右され、「何をどう見て、どう考えたらいいのかわからない!」。本書はまさに、情報にあふれた社会でおぼれてしまい、海の底で貝になりかけている人や、不安を紛らわすように海上で必死に真偽のわからないことを叫んでしまう人のための書籍ということです。
科学的思考の地道なプロセス
では、そもそも科学とは何でしょうか。科学はこの世界で生じる出来事をひも解き、なぜそうなるのかを誰もが理解できるように説明する試みです。科学の恩恵をわたしたちは数多く受けていますが、それは決してどこかでパッとできた魔法のようなものではなく、地道な積み重ねの成果にほかなりません。この科学という試みが、ひとっ飛びに結論にたどり着けるものではないということは、本書の目次ですでに感じられることです。では、科学的思考とはどんなものでしょうか。また、それはどういったプロセスを踏むのでしょうか。ある意味で、そのルートマップが目次には現れています。全7章で構成された本書では、それぞれの章で科学的思考とは何か、そしてその具体的な方法が紹介されていきます。「科学の定義」「理論の構築」「実験の基本」「仮説の設定」「他者の目と確認」──こうした内容が、具体例とともに紹介されていきます。
具体的に実践できない部分があったとしても、例えば認知バイアス──いわゆる思い込みが科学的思考を阻害することを意識し、因果関係を正しく理解するための方法を頭に入れておくことで、日々の生活のなかでも科学的思考が大いに役立つでしょう。
集団で思考することが科学の強み
本書では科学的思考の一端を垣間見ることができるわけですが、どこか「難しい」「自分にもできるだろうか」と考える人もいるかもしれません。もちろん、本書を通して“科学的思考”を身につけていくことが最良ではありますが、物事というのは決して簡単に見通せるものではなく、多くの情報や立ち止まって考える時間、多角的な視点など、たくさんの方法・思考が必要だということを、まずは理解するというのが重要なのです。本書のなかで植原氏は、「〈集団・制度で思考する〉のが科学の強みなのだ」と語っています。「社会」で考え、みんなで科学的に思考することが、有害な情報に対する集団免疫になり得るとも考えているといいます。わからないながらに、科学的な考えを真似てみる。それだけでも、あなたの思考には余裕が生まれ、少し浅瀬に向かい、これまで見えなかった美しい水平線が見えてくるのかもしれません。
感染症や社会情勢の不安定化など、さまざまな出来事が重なる現代。複雑な世界で頭と心を落ち着けたい人、また、「科学的な思考」「科学とはどう考えるものか」という好奇心がくすぐられた人は、ぜひ一度本書をお読みください。
<参考文献>
『科学的思考入門』(植原亮著、講談社現代新書)
https://www.kodansha.co.jp/book/products/0000409249
<参考サイト>
植原亮氏のX(旧Twitter)
https://x.com/ryoueharaS2
			            
		            『科学的思考入門』(植原亮著、講談社現代新書)
https://www.kodansha.co.jp/book/products/0000409249
<参考サイト>
植原亮氏のX(旧Twitter)
https://x.com/ryoueharaS2
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
		物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
		
			明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。
			『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
		
	ケルト神話とは…ダーナ神族、アルスター神話、フィアナ神話
ケルト神話の基本を知る(1)ケルト地域と3つの神話群
ケルト神話とは何か。ケルトという地域は広範囲にわたっており、一般的にアイルランドを中心にした「島のケルト」と、フランスやスペインの西北部などに広がった「大陸のケルト」があるが、神話が濃厚に残っているのはアイルラ...
		収録日:2022/04/12
		追加日:2023/07/23
							
	般若とは何か――秋月龍珉からの命題を探求し到達した境地
徳と仏教の人生論(3)無分別知と全人格的思惟
「般若とは何か」――20歳の時、仏教学者・秋月龍珉から「仏法とは般若だ」という命題を受け、長年般若について探求してきた田口氏。般若とは「無分別知」、すなわち知識ではなく直感的理解であると説く。そして、東大名誉教授で...
		収録日:2025/05/21
		追加日:2025/10/31
							
	メダカの学校・総合的な学習(探究)の時間・逆参勤交代
産業イニシアティブでつくるプラチナ社会(4)社会課題の解決に取り組む人財産業
未来のプラチナ社会の実現に向けて、教育の見直しも欠かせない課題である。旧来的な知識伝達型の教育方法ではなく、教える側のダイバーシティを考慮した「メダカの学校」的なあり方や探究型学習の活用が重要なポイントとなる。...
		収録日:2025/04/21
		追加日:2025/10/30
							
	忠犬ハチ公で哲学する…人と犬の関係から見えてくる道徳論
東大ハチ公物語―人と犬の関係(1)上野英三郎博士とハチ
東京大学大学院人文社会系研究科教授・一ノ瀬正樹氏が、海外でも有名な「ハチ公」の逸話を例に、人と犬の関係について考察する。第一回目は、ハチの飼い主・上野英三郎博士について触れ、東大とハチ公の結びつきや、東大駒場キ...
		収録日:2017/04/04
		追加日:2017/06/13
							
	台湾でクーデターは起きるのか?想定シナリオとその可能性
クーデターの条件~台湾を事例に考える(1)クーデターとは何か
サヘル地域をはじめとして、近年、世界各地で多発しているクーデター。その背景や、クーデターとはそもそもどのような政治行為なのかを掘り下げることで国際政治を捉え直す本シリーズ。まず、未来の“if”として台湾でのクーデタ...
		収録日:2025/07/23
		追加日:2025/10/04
							
	 
 
	 
				 
	 
				 
			

