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DATE/ 2025.05.14

『自炊の壁』とは?料理につまずく人におくる100の解決法

 食費を節約したいけれどなかなか自炊が続かない、自分一人のために自炊する気にならない、また面倒だけれど家族のためにと自炊を頑張っているなど、自炊に関する悩み、想いをかかえている人は多いのではないでしょうか。なぜ自炊は面倒になってしまうのでしょう。どうすれば自炊を楽しめるようになるのでしょうか。この「自炊を阻む壁」について、著者二人が対話しながら乗り越える方法を考える書籍が『自炊の壁 料理の「めんどい」を乗り越える100の方法』(佐々木典士著、山口祐加著、ダイヤモンド社)です。

 著者の一人、佐々木典士(ささきふみお)氏は、1979年香川県生まれの作家であり編集者です。「STUDIO VOICE」などの雑誌や写真集、書籍などを手がけてきました。現在は特にミニマリストの第一人者として活躍しています。著書『ぼくたちに、もうモノは必要ない』(ワニブックス)は26ヶ国語に翻訳されています。他にも『ぼくたちは習慣で、できている。』などの著書があります。

 もう一人の著者である山口祐加氏は1992年生まれ、東京都出身の自炊料理家です。出版社や食のPR会社を経て、現在は料理初心者に向けた料理教室「自炊レッスン」を行ったり、執筆活動などを行ったりしています。7歳の頃、共働きで多忙な母から「今晩の料理を作らないとご飯がない」と冗談で言われたことを真に受けてうどんを作ったことをきっかけに、自炊の喜びに目覚めたそうです。他の著書に『自分のために料理を作る 自炊からはじまる「ケア」の話』(晶文社)などがあります。

結果ではなく、プロセスを大事にする

 本書では佐々木氏と山口氏の対話をもとに、「自炊の壁」が少しずつその姿を表していきます。自炊はたしかに時間と気持ちの余裕が必要です。この点について冒頭では、コスパでは語れない自炊の価値について触れられます。佐々木氏は自分で家具も作ってしまいますが、自分で何かを作れるということは「『生きていける』という自信を得られる経験」だといいます。

 山口氏は、自炊スキルがあれば世界中どこに行っても料理ができ、年収が半分になって豚バラが買えなくなって豚こまだけという状態になっても工夫できるといいます。つまり、自炊は生きていく力ともいえるのです。ただし、山口氏はお惣菜や外食ももちろんアリだといい、佐々木氏も「今この生活に、とても自炊が入る隙間がないと思う人は無理せず」と加えています。

 また、料理はいくら時間をかけて作っても、すぐに食べ終わってしまいます。けれどプロセスに価値をおくことができれば、「作って楽しいし、食べて美味しい」と考えることができる。つまり、料理をのポイントは「結果ではなくプロセスを大事にすること」なのです。

レシピに頼らず素材をもとに作ってみよう

 初心者が料理する際、レシピを探す人は多いかもしれません。しかし、佐々木氏はレシピを見て作ると、「自分でそれを作った」という感覚がなく、料理が身につきづらいといいます。そこで山口氏は、レシピを参考にするよりもまずは「野菜を焼いて塩をふるところから始めればいい」、また「その辺にあるものを切って、適当に焼くか煮るかして、塩やしょうゆをかけただけでも立派な料理」だといいます。このような「シンプルな料理からスタートする」ことが大事なのです。

 ちなみに、一般的な料理の塩加減はおおよそ食材重量の1%程度とのこと。また、指3本でつまむ「ひとつまみ」は約1グラム、指2本でつまむ「少々」は約0.5グラムと知っておくと、おおよそどんな料理でも対応できるのです。

味付けの基本

 本書ではここで味付けの基本を3つ紹介しています。一つ目は「塩+油」です。例えば、焼き野菜や冷やしトマトなど。二つ目は「しょうゆ+みりん」です。甘辛味にできます。鶏肉の照り焼き、肉じゃが、豚の生姜焼きが代表です。三つ目は「酢+塩+油」、もしくは「酢+塩+砂糖」です。サラダドレッシングになったり、酢の物にかけたりできます。

 また、料理の法則として「野菜+タンパク質」の組み合わせが挙げられています。例えば、ほうれん草にかつお節、サラダにベーコン、野菜に肉、魚、卵、大豆製品などのタンパク質を足します。タンパク質が分解されるとイノシン酸やグルタミン酸といった旨み成分が作られるので、より料理らしくなるとのこと。

 あとは「素材+香り」を意識します。例えば、豆腐にはしょうがやねぎをかけます。また、お肉は塩だけでなく、こしょうやにんにくで香り付けします。同様に魚にはレモンや大根おろしです。このあたりを意識しておくと、レシピから離れて食材をもとに何か作ろうと思った時の指針となります。

 ただしあまり細かく考えず、解像度を低くして捉えておくことも大事です。たとえば、酒=「うまい水」、しょうゆ=液体の塩、味噌=ペーストの塩と捉えます。こうしておくと他の食材と組み合わせを考えやすくなって、似たような性格の食材と入れ替えることが可能になります。たとえば、ベーコンの代わりに干物でポテサラをつくるのもアリです。こういった法則をもとに名もなき料理をたくさん作ってみましょう。こうすることで「自分で料理をしている」という実感が湧きます。

「驚き」「楽しみ」「好き」といった理由を見つけよう

 また、本書終盤では、佐々木氏と山口氏は自炊が「正義すぎる」ことについても触れ、その正義感を振りかざす人間がいたり、そのことで窮屈になる人がいたりすることについても触れます。自分の愛する誰かに「美味しくて栄養のあるものを食べてほしい」と思うことはすごく自然だけれど、この矢印を反対にして「愛情があるなら料理をするはずだ」「愛情の証明のためには料理をしなければいけない」と考えるとおかしなことになる、と佐々木氏はいいます。

 このように本書は、自炊をすべきという観点から読者を説得するようなものではありません。どのような点を意識すれば自炊が「楽に、また楽しくなるか」ということについて、二人が軽妙な対話の中で確認していくような展開です。その途中で初心者に必要な知識や考え方が示されています。ぜひ本書を開いてみてください。ちょっと自炊、やってみようかなという気分になるはずです。それが新たな喜びや日々の満足を発見できる機会になるはずです。

<参考文献>
『自炊の壁 料理の「めんどい」を乗り越える100の方法』(佐々木典士著、山口祐加 著、ダイヤモンド社
https://www.diamond.co.jp/book/9784478120491.html

<参考サイト>
佐々木典士氏のX(旧Twitter)
https://x.com/minimalandism

Minimal & ism
https://minimalism.jp/

山口祐加氏のX(旧Twitter)
https://x.com/yucca88

山口祐加氏の公式ホームページ
https://yukayamaguchi-cook.com/

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