DATE/ 2026.07.20

心に刻みたい「美しい漢字」の物語

改めて漢字と日本の関係を見てみよう

 普段、メールやSNSで何気なく使っている漢字は、文字そのものに音も意味もある「表語文字」の代表格です。日本人には当たり前すぎて、いきなり「音も意味もある」といわれてもピンとこないかもしれません。しかし、「表音文字」のアルファベットは「a」なら「エー」という音だけがあってこの文字自体に意味はなく、「表意文字」のアラビア数字は「1」なら数字の1という意味だけがあってこの文字自体に特定の音はありませんよね。「1」は言語によって「イチ」とも「ワン」とも発音されます。一方で「海」は自然界の海という意味があり、「カイ」や「うみ」という発音もあるというわけです。

 漢字の故郷は中国です。日本は自国の文字を持っておらず、推定で1世紀ごろに海を渡ってきた漢字を日本語の音と意味に当てはめて使うようになりました。「海」の読み方が複数ある理由は、もともとの中国語の発音である「カイ」と、この文字が自然界の海を表していることから同じ対象を表す日本語の発音の「うみ」を当てはめたためです。

 日本に渡った漢字は公式の文書などでそのまま漢文として使われるうちに、音だけを日本文に当てはめた表音文字としても使われるようになりました。歌集『万葉集』では、たとえば山菜のワラビを意味する「さわらび」を「左和良妣」のように音だけ拾って表記しています。これを「万葉仮名」といい、さまざまな文字が当てはめられていた万葉仮名を整理して簡略化したものがひらがなとカタカナになりました。ひらがなとカタカナは表語文字の漢字をベースに作られた表音文字というユニークな存在なのです。

一目でわかりやすい漢字とは

 表語文字は物や現象に対応して作られるので、種類がとても多くなります。中国最古の漢字字書『説文解字』ですでに約9300文字が収録されているのですから驚きですよね。これでは覚えるのが大変そうですが、実は8割ほどが法則を理解しやすい「形声文字」という構造をしています。

 『説文解字』では、漢字を成り立ちや用法によって「六書」という分類にしており、形声文字はそのうちのひとつ。音を表す「音符」と意味を表す「意符」を組み合わせた漢字として紹介されています。たとえば次のような文字です。

「江・紅・虹」
<音符>「工」で3文字とも「コウ」と読みます。
<意符>「氵」は水の意味で、「江」は大きな川。「糸」は繊維や染物の意味で、「紅」は赤い染物。「虫」はもともと蛇や龍の意味で、「虹」は中国では大蛇や龍と信じられていた虹。

「銅・胴・洞」
<音符>「同」で3文字とも「ドウ」と読みます。
<意符>「金」は金属の意味で、「銅」は金属の一種。「月」は「肉」を縦に圧縮した形で、「胴」は生き物の腹部。「氵」を使った「洞」は水によって削られた穴。

 このように形声文字は一目で読み方と意味がわかりやすいので、漢字の構成に多く取り入れられているのです。

漢字の奥のストーリー

 先ほどご紹介した「紅」の成立の背景には染物があるように、文字を見るだけで成り立ちや文化が浮き上がってくる漢字はたくさんあります。たとえば、「薬」という字はどうでしょうか。

 「薬」の上部にある「くさかんむり」はその名のとおり、草や木を意味します。現代では薬というと錠剤やカプセルが真っ先に思いつきますが、もともとの薬は薬草から作られていました。このため、草を意味するくさかんむりが使われているわけです。また、下部の「楽」は「楽しい」という意味ではなく、「楽になる」の意味で使われています。薬草の効果で楽になるという意味が込められているのですね。

 お湯を沸かす「やかん」にも、「薬」の文化が込められています。「やかん」の漢字表記は「薬缶(または薬罐など)」です。もともとやかんは煎じ薬を作るための道具だったため、その名残で「薬」が今でも使われています。漢方薬の葛根湯や麻黄湯など「湯」がつくものは、もともとお湯を沸かして煎じて作る薬でした。

 さらに興味深いのは、日本生まれの漢字もあるということ。この和製漢字は「国字」と呼ばれ、1500字以上あるともいわれています。たとえば「働(く)」は国字です。中国には「仕事をする=人が動いて価値を生む」という概念を表現できる文字がなかったため、新たな漢字として日本で作られました。日本生まれなら中国語発音の音読みはないはずですが、「働」に「ドウ」という音読みがあるのは、「動」の「ドウ」から音を拾った形声文字だからです。

 音読みと訓読みがある国字は大変珍しく、通常の国字は日本語発音の訓読みしかありません。小学校で学ぶ漢字ではもうひとつ、「畑」が国字ですが、この文字の発音は「はたけ」という訓読みのみです。中国では田んぼも畑も「田」で表現しますが、日本では両者を区別するために焼き畑から取った「火」を「田」にくっつけて「畑」にしました。この場合、「田」は音ではなく意味を表す「会意文字」なので、音読みはないのです。

 使い慣れた漢字も、このような背景を追ってみると意外な発見がありますよね。秘められた物語をのぞくことで漢字を見る目が少し変わったり、漢字へのさらなる興味が湧いたりしていただけたなら、ぜひご自身でもさらなる深掘りをしてみてくださいね。

<参考サイト>
・漢字はいつから日本にあるのですか。それまで文字はなかったのでしょうか|国立国語研究所 ことば研究館
https://sankei-shokai.jp/kanji-to-nakayoku/2024/2838/
・漢字の成り立ち|漢字辞典ONLINE
https://kanji.jitenon.jp/content/9
・「薬」という漢字について|同志社女子大
https://www.dwc.doshisha.ac.jp/research/faculty_column/19584
・日本の風土と暮らしが織り込まれた「国字」とは|サライ
https://serai.jp/hobby/1243160
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