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「大衆迎合主義」はトランプによって世界に拡大するか
トランプとポピュリズム
最近、ドラルド・トランプ氏の名前とともに、「ポピュリズム」という言葉をよく耳にするようになったと思いませんか? 「大衆迎合」と訳されることが多いこのポピュリズムは、そもそもイデオロギー(政治思想)とはほど遠いもの。それがなぜ、ドナルド・トランプという一国の大統領の名前とともに盛んに語られるようになったのか。このあたりの事情について、歴史学者で東京大学名誉教授の山内昌之氏は次のようにお話しされています。相性の良い「アメリカファースト」とポピュリズム
たとえば、トランプ氏は「アメリカファースト」を旗印に中東政策を変更しようとしており、これが多くの国民の支持を得ています。なぜならば、中東においてアメリカが割いている人的損害と金銭の支出を減らして、国内雇用の増大や投資環境の改善を行うということを、トランプ氏は政策の一環として公言しているからです。トランプ氏が打ち出す「アメリカファースト」とポピュリズムはとても結び付きやすいのですね。実際、2014年8月以来、イスラム国掃討作戦にアメリカは90億ドルを費やしているという事実があります。これは、ざっと計算しても毎日約1200万ドルを使ったことになります。国民の多数がイスラム教徒や難民に対して排他的に傾いている今、アメリカのポピュリズムの潮流が、中東からの撤退を歓迎するのも無理からぬことなのです。
ですが、トランプ氏は、それが人民の多数の意見を代弁しているという大義名分があれば、国際秩序やリベラルな価値観は二の次にして、独自の権威主義的な政治運営することを躊躇しないようにも思えます。トランプ氏にとっては、グローバルな政治的見解より、ポピュリズムを後ろ盾にした「アメリカファースト」が優先するのでしょう。
トランプ発言とポピュリズムを警戒するEU諸国
こうしたアメリカから強く押し寄せるポピュリズムの波に、もっとも頭を悩ませているのが欧州、とりわけEU諸国です。もともとEU諸国は、トランプ氏の扇動的な言動を「トランプ黙示録」「不確実性の時代」といった表現で警戒してきました。ポピュリズムに巧みに乗るトランプ氏の言動は、難民を多数送り出している中東と陸続きの欧州では、非常に影響が大きいのです。日本でも、日米安保条約に関連した米軍駐留費用の負担などでトランプ氏の発言が物議を醸しています。ですが、その発言が日本のポピュリズムを刺激して国内政治に波及する、といったことは地政学的にいっても考えにくく、その点、欧州と日本では事情が大きく異なるといってよいでしょう。
EUの苦悩の元凶-難民問題・テロ・ポピュリズム
2016年12月、イスタンブール、カイロといったヨーロッパの玄関先とでもいえる場所でテロ事件がたて続けに起こりました。また、クリスマスを目前にした同月19日に、ドイツ・ベルリンのマーケットにトラックが突入するというテロ事件が起こったことも記憶に新しいところです。ドイツのメルケル首相が、EU諸国の中でも率先して難民受け入れ策を打ち出しているのは周知のことですが、これらのテロ事件は、中東欧州複合危機を深めかねない要因となっており、また、世界的にもポピュリズムと難民問題が結び付いて、さらなる極右傾向、非寛容政策に傾きかねない状況が危惧されています。そもそも、EU諸国には、アメリカがウクライナや中東の問題で発揮してきたようなリーダーシップを担うだけの力はなく、軍事的能力にも欠けています。何より、トランプ氏の大統領選挙期間からの過激な発言に振り回され、ポピュリズムを横行させている間に、ヨーロッパ最大の難問・難民問題を、解決不能の限界にまで追い込んでしまった感があります。
山内氏はこうした欧州の状況をして、トランプ氏の当選は、イギリスのEU離脱・ブレグジットの延長線上にある、「反グローバリゼーション」のグローバル化現象を招いた、と分析しています。いわば、ポピュリズムの波にのって、反グローバリゼーションが世界的に拡大しつつあるのです。
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