●経済成長戦略には整合的で緻密な実行プランがない
それではドナルド・トランプ氏の再選があり得るのかについて、考えてみましょう。一番大きな問題は、経済の好調がどこまで続くかということです。やはり大統領のポジションは、経済が良ければそれだけ強くなります。今、アメリカ経済は好調です。あと1~2年は続くでしょう。しかしそれは、リーマンショックを克服し、構造改革をしてきたバラク・オバマ治世の総合的な経済政策の成果だというのが、フェアな見方です。日本やヨーロッパも同様のことを行ってきたため、世界全体が今、景気回復しています。
確かにトランプ氏の経済成長戦略には、大変大きな目玉が並んでいます。大減税や1兆ドルのインフラ投資、保護貿易、規制緩和によって、4パーセントの経済成長を実現すると言っています。しかしこれらは非現実的であるばかりか、整合的で緻密な実行プランをいまだに全く欠いています。議会でも抵抗・反対があるでしょうし、簡単ではありません。
●選挙民が損をする自滅型の経済政策
さらに、トランプ政策は実のところ、選挙民のためにはならないのです。仮にトランプ氏の目玉政策が実行されれば、どういうことになるでしょうか。4パーセントの経済成長を実現するために、1兆ドルのインフラ投資を行い、法人税を35パーセントから15パーセントに引き下げ、さらに所得税も大幅に引き下げる。こうしたことを聞かされれば、確かにウォールストリートは熱狂するでしょう。インフラ投資の恩恵を受ける企業、減税で得をする富裕層はたくさんいます。しかし、アメリカ経済の潜在成長率は過去10年間、良くても2パーセントです。つまり、4パーセントの経済成長をするために数々の大政策を打ち出すというのですが、それらが全て成功するなんて、絵に書いた餅です。
仮に大規模なインフラ投資を実施するとすれば、財源の問題が浮上します。アメリカはすでに1兆ドル近い財政赤字です。ここにさらに1兆ドル(約110兆円)の赤字が加わるとすれば、財源は増税に頼るしかありません。それを負担するのは一般の勤労大衆です。ですから、勤労大衆が一番損をすることになります。
また、大減税をすると金持ちや大企業は得をしますが、彼らが国内の勤労者のために投資するかどうかは分かりません。アメリカ企業はもともと海外に投資し、現地で生産した製品をアメリカに売り込む場合が多く、勤労者消費は良いのですが、国内雇用がめちゃくちゃになってしまったという事情があります。そうすると結局、減税も勤労者の負担につながります。
保護貿易にしても、関税を高めたり、貿易に障害を設けるとすれば、アメリカ国内に入ってくる製品が値上がりし、量も減ります。国内の雇用は増えず、むしろ勤労者が被害を受けることになるでしょう。つまり、万が一トランプ政策が実現すれば、選挙民が一番損をしてしまうのです。これは自滅型の政策です。エコノミストからすれば、これは火を見るより明らかです。
●相当な確率で2期目のトランプ政権が誕生する
したがって、トランポノミクスが自滅的であり、自分たちに被害をもたらすということを、選挙民がいつ気付くのかが問題です。ところが、今後2年ほどはオバマ時代の政策が利いて、好況が続くでしょう。そうすると、トランプ氏の政策が1年~1年半後に法律化され、2年~2年半後に非常にネガティブな効果を生んだとしても、今後2年間ぐらいはそうした効果が覆い隠されてしまいます。3年目の任期に入ると、第2期の大統領選が始まりますが、一般大衆は専門家より物事を認識するのが1年ほど遅れます。気が付けば、トランプ氏が再選されていた、ということになるのではないでしょうか。
これを防ぐことができるとすれば、民主党です。しかし民主党は、アメリカ社会や経済の現状について、大変な戦略ミスを犯しました。今後増えていくであろうマイノリティに注力し、いまだ55パーセントを占めている白人労働者を正面から見据えてこなかったのです。白人労働者が長期的には少数派になるとしても、現在はまだ力があります。今後、アメリカの将来に見合った政策を立てられるのか、しかもその政策を国民に訴えることのできる好感度を持った、若く新鮮な候補を立てられるのかというと、まったく見えてきません。
したがって、このままいけば、相当な確率でトランプ氏が第2期の大統領に選ばれるでしょう。しかし2期目に入ってからは、トランポノミクスの自滅的な効果が表れてきて、惨憺たる有り様になってしまいます。世界経済も影響を受けます。これが、現実的な見通しだと思います。