●トランプ氏の主張は挫折ないし修正を余儀なくされている
最後に、ドナルド・トランプ政権の現状を踏まえて、日本は今後どのように対応すべきか、ご説明します。これまで見てきたように、トランプ氏は知識・経験が不足しているだけでなく、不勉強です。性格も粗野で、情緒的で、すぐに激高します。疑心暗鬼で、被害妄想のパラノイアという、典型的な精神障害の症状が見られるということです。政権を支える側近には、スティーブ・バノン氏のようなデマゴーグの過激なナショナリスト、元軍人、実業家、そして家族しかおらず、あたかも零細企業の陣容です。大国の大統領の陣容とは、到底思えません。
選挙公約で、メキシコに壁を造り、建築費用をメキシコに払わせると言いました。しかし、全く実現していません。イスラム排斥も、裁判所の抵抗によって挫折しました。トランプ氏自身は同盟軽視の姿勢でしたが、ジェームズ・マティス国防長官が同盟は大切だと言って回ったので、トランプ氏の無知さ加減が分かってしまいました。オバマケアを否定し、代替案を出したのですが、今後法案が可決されるかは分かりません。主要政策である大減税やインフラ投資、保護貿易は、いずれも実現していません。あるいは、実現するとしても、1~2年という相当な時間がかかるでしょう。そして、仮にその効果が出たとすれば、トランプ支持者に負担を強いるような自滅型の効果になります。政権スタッフの政治任命もひどく遅れているため、業務執行がしっかりとできていません。
さらに、不公正貿易だとか、雇用を奪う国だなどと、中国のことを一番批判していましたが、北朝鮮問題の交渉をきっかけに、トランプ氏はそうした批判を取り下げました。今までの批判は一体何だったのかということになりますが、「見たか、これが俺のディールだ」という具合です。こうしたことでは困ります。バラク・オバマ元大統領が行った、イランに対する経済制裁の解除についても、トランプ氏は真っ向から反対していました。しかし結局、5月17日には制裁解除の期間延長にサインしています。ここでもトランプ氏の批判は宙に浮いてしまいました。このように、彼の主張していたことはほとんど全部挫折か、修正を余儀なくされている、という現状です。
●トランプ氏をさほど恐れる必要はない
したがって、トランプ氏が当初徹底的に批判していた、世界の自由貿易協...