●税制改革はお金持ちが得をする政治である
ドナルド・トランプ氏は、いわば目玉商品として、主な経済政策を提示しています。これが今どのような状況になっているか、見てみましょう。第1に、税制改革です。法人税、所得税ともに、思い切った減税をすると言っています。確かに減税をすれば、景気刺激効果があります。しかし減税は、大企業と金持ちが得をする政策です。税率を思い切って引き下げると、税収は減ります。税収が減れば、政府を運営する財源はどこから持ってくるのか、これに関して今、全く答えが出ていません。これはトランプ氏が選挙戦中から言っていたことですが、具体案がないままです。こうして政権発足100日を迎えたわけですが、ここまで何一つ公約は実現していません。
そうした中、スティーブン・ムニューチン財務長官が4月26日、税制改革案を提示しました。それによれば、法人税は35パーセントから15パーセントに引き下げられます。これはものすごい引き下げです。日本の法人税(法人実効税率)は今30パーセント前後、イギリスは約20パーセントです。法人税が非常に低いため、資金運用家が集まっている都市としては、香港とシンガポールがあります。シンガポールは約17パーセント、香港は約16パーセントで、アメリカはこれを上回る減税をするという、驚天動地のことを言っているわけです。また、個人所得税も税区分を3つに単純化する。最高税率を思い切って引き下げる。さらに相続税も廃止する。これらは、ものすごくお金持ちが得をする政治です。
しかし、財源のことを考えれば、結局、どこかで増税せざるを得ません。そして、増税の負担を負うのは、トランプ氏を支持した労働者層です。あるいは、長期の債券を発行するということもありますが、アメリカ経済は借金経済です。したがって、税制改革案は出ましたが、今後どうなるのかは見えません。
●インフラ投資の財源として100年債の発行が示唆されている
第2に、トランプ氏は選挙公約で、1兆ドルのインフラ投資をすると言っていました。アメリカは世界最大の設備が整った国で、道路も通信も世界最大です。しかしそれらは、何十年も前につくられたもので、メンテナンスが間に合わず、ものすごく劣化しています。
こうしたことを考えると、確かに1兆ドルの投資は、時代の要請に合っているように見えます。景気刺激効果も莫大でしょう。これを株価が先取りして、ウォールストリートはとんでもない好景気になっています。しかし、具体的な議論はまだ全然進んでいません。やはり財源が問題です。1兆ドル、日本円で100兆円以上です。スティーブン・ムニューチン財務長官は、100年債の発行を示唆していますが、アメリカが100年持つのかという疑問もあります。
●アメリカ医療保険法案の上院可決は不透明
第3に、トランプ氏が最も力を入れているのは、バラク・オバマ氏の否定です。オバマ前大統領は国民健康法案のような政策を出しました。アメリカではそれまで、4,000万人が健康保険の適用を受けていませんでした。先進国でありながら未開発国のような面もあったわけです。オバマ氏はこれを変えようとしました。しかし、トランプ氏はとにかくオバマ氏が嫌いですから、彼のやったことを全部ひっくり返そうということで、オバマケアを廃止し、共和党の新法案を提出しようとしました。アメリカ医療保険法案(American Healthcare Act of 2017)と呼ばれています。法案自体は、下院議長を務める共和党のポール・ライアン氏を中心に書かれたものです。これが3月23日、アメリカ議会の下院本会議に提出されて、採決される予定でした。ところが、共和党執行部が票読みをした結果、必要な賛成票を獲得できそうにないと判断したのです。
結局、トランプ氏はこの案を引っ込めてしまいました。その結果、トランプ氏は議会では何一つできない、トランプは負けた、という印象が広がりました。上院も下院も、共和党が多数派を占めているのですが、その中にはフリーダム・コーカス(自由主義議員連盟)に属する議員が100人ほどおり、彼らがトランプ氏やライアン氏の法案に反対したようです。法案を作成したライアン議長の指導力も大いに傷つきました。しかし、トランプ氏は改正案を、今度はいろいろな根回しを行った上で、再度提出しました。これは5月4日、下院で217対213、4票差という僅差で可決されました。トランプ氏も議員の前に現れて両手を上げ、大勝利だと自画自賛していましたが、まだ上院があります。上院には口うるさい専門家もいますし、何より、上院が法案の決定権を持っています。そう簡単ではありません。
●2018年度予算教書では軍事費が倍増されている
第4に、予算編成も目玉となっています。2017年度予算ができたのは昨年です。ですから、半分はオバマ時代、後半がト...