●日本全体の社会保障費は30兆円を超えている
法政大学経済学部教授の小黒一正です。今回は、社会保障の予算が毎年どれぐらい伸びているのかということについて、簡単に説明します。
まず、平成29年度の国の一般会計の歳出・歳入のグラフを見てください。当初予算が97兆円になっています。このうち、歳出で最大の支出項目が社会保障で、約32兆円です。2番目に大きな支出項目は国債費で、約23兆円です。さらに、地方交付税が15兆円あり、公共事業や文教科学振興費、防衛費などで、残りの歳出の4分の1を占めています。これが、平成29年度の一般会計の当初予算の姿です。
毎年12月に予算編成が終われば、「社会保障費が過去最大」といって、約30兆円の社会保障費がクローズアップされます。しかし実は、日本全体で見れば、社会保障費は30兆円どころではありません。例えば年金は、1年間でもう既に、50兆円を超える給付がなされています。医療費はおよそ40兆円、介護費も10兆円あります。国と地方を合わせた日本全体の社会保障費ですが、2013年度の予算ベースでは、110兆円にも上ります。
それでは、歳出項目の30兆円とは何を意味するのでしょうか。社会保障費の財源を見てみましょう。保険料の収入は、大体60兆円あります。つまり、支出の110兆円と収入の60兆円に、50兆円の差があることになります。この差を埋めるために、年金の積立金の一部も、社会保障費の財源に充てられています。さらに残りの部分は、国と地方がお金を出して埋め合わせています。このうち、国の負担部分が、先ほどの歳出項目で見た、約30兆円という額になるわけです。つまり、日本全体の社会保障費は110兆円あり、国の一般会計で予算として計上されるのは、その一部、国の負担分としての30兆円だということです。
●社会保障給付費は右肩上がりに伸びている
問題は、社会保障費がどれぐらいのスピードで伸びているか、ということです。この図の赤色の棒グラフが、社会保険料収入を表しています。それを見れば、およそ平成9年ぐらいから、横ばいになっていることが分かります。他方、青い折れ線グラフは、専門用語で「社会保障給付費」と呼ばれる、国と地方を合わせた社会保障費を表しています。これは、ものすごい勢いで右肩上がりに伸びている、という状況です。
したがって、こうした社会保障給付費と社会保険料収入の間のギャップを、国と地方で穴埋めしていることになります。この財源の多くは国と地方が徴収した税ですが、それでも足らない部分は、国債の発行によって賄われています。こうした状況がずっと続いています。
●社会保障費はどれぐらいのスピードで伸びているのか
さらに、過去10年間で、どれぐらい社会保障給付費が伸びているのか、より詳しく見てみましょう。このグラフは、1964年度から2015年度までの、社会保障給付費の伸びとその内訳を示しています。赤い部分が年金、灰色っぽい薄い水色の部分が医療、だいだい色の部分が介護保険です。介護保険は2000年から始まったものです。さらに、生活保護などその他の部分が、青色で示されています。
社会保障給付費は2015年では、116.8兆円です。10年前の2006年には、それはおよそ90兆円でした。90兆円だったものが、10年間で116兆円になっているのですから、社会保障給付費は、毎年平均して2.6兆円というスピードで伸びているという計算になります。
こうした日本の社会保障費の伸びは、どの程度のインパクトを持つでしょうか。通常、消費税を1パーセント上げると、少し前は2.5兆円の税収、最近では2.7兆円の税収が見込めると言われています。そこから考えると、社会保障の伸びを消費税で賄うとすれば、大雑把にいって、毎年消費税を1パーセント程度上げなければいけないことになります。それぐらいのスピードで社会保障費が伸びているというのが、日本の現状です。
●2025年、医療介護費は75兆円に達する
次に、今後、社会保障費がどれぐらいのスピードで伸びていくのかを考えましょう。厚生労働省は、平成24年3月、「社会保障に係る費用の将来推計」という資料を発表しました。給付費と負担費が示されており、2017年に一番近いのは2015年の数字です。そこから10年後、2025年はどうなるでしょうか。これは、団塊の世代が全員75歳以上になる年です。
2015年の医療費は約40兆円、介護費は約10兆円で、両方を合わせておよそ50兆円に達しています。これが2025年にはどうなるのかということを、資料は予測しているのです。もちろん予測ですから、本当にそうなるかということは、今後の社会保障改革によります。しかし、現状のままであれば、2025年には医療費が54兆円、介護費も約20兆円にまで膨らむ、と予測されているのです。
2025年には、医療費と介護費を合わせると、約75兆円に...