●医療・介護は官民の役割分担を改革する余地がある
年金や医療、介護、成長戦略まで全部ひっくるめると、時間がなくなってしまいますので、さらにいくつか興味深い点だけ、かいつまんでお話します。まずは医療です。社会保障の中では、医療と介護が今後大きく膨らんでいくでしょう。しかし、官民の役割分担を考えれば、この部分を改革する余地は大いにあります。まずその前提条件として、医療費の構造を見てみましょう。
国民医療費の全体は大体42兆円になります。一番右側の年齢構成別グラフで見れば、65歳以上の高齢者がほぼ60パーセントを占めています。これは周知の事実です。さらに、その左側の診療種類別の国民医療費のグラフを見ると、薬関係が8兆円程度の支出です。これは平成27年度の資料なので、今はもっと膨らんでいるでしょう。診療報酬としては、開業医と専門病院を合わせて大体30兆円です。そのうち入院が15兆円で、入院外がおよそ15兆円です。こうした構造になっています。
●本当に救わなければならないのは高リスクの医療だ
これを踏まえて、政府として何を守るべきか考える必要があります。厚生労働省が「保険医療2035提言」というものを出しました。塩崎恭久大臣のときに発表されたもので、今は加藤勝信氏が大臣を務めています。加藤大臣もそうでしょうが、塩崎大臣は相当に問題意識を持たれていて、かなり細かい社会保障改革を提案していました。
2025年は、団塊の世代が全員後期高齢者になる年で、これは非常に大変な事態です。そこで、その先を見据えた医療の哲学を作る必要があり、こうした提言書が作られたのです。実は私もこのメンバーの中に入っていて、その際、強力に主張してこのスライドの文章を入れてもらいました。つまり、政府として医療保険の中で一番守るべきは、財政的リスク保護という概念なのです。
例えばアメリカでは、基本的に全て自由診療で、公的にカバーしている保険はあまりありません。そうすると、メディカルツーリズムのようなことが起きてしまうのです。アメリカで手術をすれば日本円で3,000万円かかるけれども、タイに行けば200万円でできるというものですね。つまり、最悪の場合、医療処置を受けるだけで家計が破綻してしまいかねないのです。したがって、低リスクの医療と高リスクの医療があれば、本当に救わなければならないのは高リスクの医療です。優先順位でいえば、風邪やOTC類似薬のような金額が小さい部分については、状況によっては、政府の保護から外しても構わないのです。
他の国の状況も見てみましょう。医療経済学が専門の河口洋行成城大学教授が作成した資料ですが、公的な保険でカバーされている部分と私的保険でカバーされている部分が分かれています。一番典型なのは、日本と違って財源として税金が入っている医療ですが、イギリスです。公的な病院などの財源として税金が入っている医療は、公的保険でカバーされます。他方、民間の病院の入院医療では、民間の保険がカバーします。もちろん、GP(general practitioner総合診療医)などでコントロールされてはいますが。他にも、例えばドイツでは、歯科でも選択タリフ(被保険者が公的保険による給付以外に、追加給付を選択できる制度)になっています。日本でも矯正は公的保険のカバーから外れていますが、国によって公的保険のカバー範囲は全然違うということです。
●医療費も地震保険と構造を取ればいい
医療費の分布も考慮すべきです。次のグラフは横軸が医療費の点数になっています。1点10円です。「医療費の分布(1)」が入院外、「医療費の分布(2)」が入院のケースです。山が違うのが分かるでしょう。当然入院したケースの方が、30万円、50万円、80万円のレンジが多くなっています。他方、入院外、要するに町医者に行くケースでは、5,000円とか1万円のレンジが多くなります。
したがって、保険収載から外すかどうかという議論がありますが、例えば入院外のケースは自己負担を4割にしてもいいわけです。むしろ本当に救わなければいけない、守らなければいけないのは、高額の点数がかかる医療の部分です。この部分をきちっとカバーしていくことが求められます。
こうした保険の代表例は、財務省が管轄している地震保険です。地震保険は、首都直下の震災が起きたときに、大体7兆円ぐらいお金が出ていくことになっています。そのうち、上のレイヤーについては政府がかなりカバーします。他方、下のレイヤーは、民間保険会社でシェアリングするという仕組みになっています。医療費についても、同様の構造を取ればいいということです。
つまり、医療費は現在40兆円ですが、政府のマネーで救済する必要がない部分については、民間保険を拡充するといったことが考えられます。これは厚生労働省と例えば...