●9割が睡眠障害を起こす「レビー小体型認知症」
今回は、ご視聴の皆さんにとっても非常にご関心があるだろう認知症の話です。特に今日は、認知症の中でも「レビー小体型認知症」という、睡眠に非常に大きな問題を起こすタイプについて、お話をしたいと思います。
この棒グラフは、認知症に伴う睡眠障害についてまとめられた論文です。一番下の段に「何らかの睡眠障害を起こす」割合がありますが、今申し上げたレビー小体型認知症は、9割ほど睡眠の問題を起こしています。
アルツハイマー型認知症も6割ほど睡眠の問題を起こしています。ですので、認知症と睡眠は大きく関わっており、特に介護の方にとっては重要です。認知症の方が夜なかなか眠らずにごそごそしているので介護上困るということは、よく起こっています。
ここに挙げた睡眠障害の中でも、一番上の「レム睡眠行動障害」はあまり耳慣れない言葉だと思いますが、後から触れていきます。
●高齢者が「うつ」になったら、レビー小体型認知症を疑う
レビー小体型認知症は、「DLB」と略します。この写真の小阪憲司先生は、名古屋大学で私の先輩で、1976年に世界で第1例目を発表した方です。下の画像で少しピンク色がかったところが見えます。これがレビー小体で、脳の病理により、この部分が染まることから見つけられた病気です。
この病気はいくつかの症状を出します。実際にあり得ないものが見えたりするなどいろいろありますが、後で言うように、うつ病と間違われる、あるいはうつ病としか言いようのない時期があります。特に高齢者で、どうも最近物忘れをするようになり、うつ病かなと思っている方、あるいはうつ病の治療薬を使うとかえって調子が悪くなったという方は、こちらのタイプを考えた方がいいと小阪先生は言われています。
それからもう一つは今日のポイントで、この病気が「レム睡眠行動障害」を起こすことです。
●認知症の2割を占めるレビー小体型認知症の特徴
こちらは、認知症の中でレビー小体型認知症がどれくらいの頻度を示すかを表した図表です。いくつかの諸外国および日本の研究結果が集められました。ただ、認知症のどのタイプかというのは、患者さんがお亡くなりになった後、脳を確認させていただかないと、最終的な診断はつきません。
ご覧いただいたように、認知症の中の2割方がレビー小体の認知症で、かなりの頻度です。世の中ではアルツハイマー型認知症のことがもっぱらいわれますが、2割はこちらだとお考えください。
レビー小体型認知症(DLB)の臨床診断基準(国際臨床診断基準)は、2017年に改定されています。これまでと大きく変わった点は二つあります。
まず、中心になる症状としてレム期睡眠行動異常症が入りました。認知機能の問題、体の動きの悪さ、変なものが見えてしまう(幻視)などに加えての特徴です。
それから、診断をするための検査データを「指標的バイオマーカー」と呼びます。その三つ目に新しく入ったのが、睡眠検査で筋緊張が落ちないようなレム睡眠が起こることです。夢を見るレム睡眠では普通、脳が働きながら体の緊張を落として、体を休めます。ところが、筋緊張が落ちないレム睡眠が起こることが、バイオマーカーの三つ目に加えられました。
●便秘や嗅覚異常を示すレビー小体型認知症
レビー小体型認知症の臨床経過について、名古屋大学に在籍していた藤城弘樹氏がまとめています。
記憶障害は認知症の特徴ですから当然あるのですが、ほぼ70歳代ぐらいに起こります。その少し前からいろいろなことが起こり始めています。
便秘で認知症を疑うことはまずないと思いますが、76パーセントの方に便秘の症状が見られます。続いて、匂いがどうもうまく分からなくなってきます。これもなかなか(本人にしか)分かりにくい特徴ですが、これで医療機関に来られる方もあまりいません。
続いて、うつ病と同じような症状が、4人に1人は出てきます。ここでようやく結構な割合の方が、われわれのところにもお見えになります。
本当はこの段階で、うつ病なのか認知症の始まりなのかを見定めなければいけません。そのポイントになるのがレム睡眠行動障害です。この時期にはもうすでにほとんどの方が睡眠の問題を起こしています。
●夢を見ながら体が動く「レム睡眠行動障害」
では、レム睡眠行動障害とはどういうものか。本来、レム睡眠期には全身の筋肉が弛緩するはずなのに、そうなりません。夢を見ていても普通なら動けないため、大きな声や動き...