●「動くスペースが生まれる」~自動運転車の無人空間が持つ可能性~
今回は、自動運転車の中の無人空間をどのようなものとしていくかについて、お話をします。
これから無人化された自動運転車が実用化されたとすると、前回お見せしたように、その自動運転車をリモートで遠隔地から操作することによって、一般公道も走ることができるようになります。しかしこれは、遠隔地に人はいるのですが、一般の利用者から見ると、車の中には誰もいないという状況になります。
見方を変えれば、そこに非常に新しい空間が生まれているともいえます。今までは、移動するときには必ず誰かが運転席にいて、完全にプライベートな空間は生まれませんでした。しかし、無人の自動運転車が実用化されると、移動しながらマンガ喫茶のような個人の空間を持つことができます。これについては、「動くスペースが生まれる」といわれています。
ただ、これは面白い反面、少し不安に思う人が出てくる可能性もあります。「この車は一体どこに行こうとしているのか」と不安になることもあるでしょうし、誰もいないスペースでひたすら移動していること自体が非常に未体験ゾーンになるからです。
そこで、この空間をいかに活用するか、あるいは利用者からいかに不安を取り除くか、そういったことが、研究テーマとしても面白いですし、ビジネスとしても面白いと思います。
●「VTuber」を自動運転と組み合わせることで生まれる可能性
われわれは、無人の自動運転車の車内を「車室空間」と呼んでいるのですが、そこでどういったことができるかと考えると、無数にアイデアが出てきます。その中でもわれわれが特に興味を持って取り組んでいるのは、無人運転車の中に、本物の人間ではないのですが、バーチャルな人間を置くことです。このバーチャルな人間が、車が走っている場所や車の挙動に関すること、例えば「これから停車します」や「赤信号なので少し待ちます」など、他愛もない話をするサービスが面白いのではないかと思っています。そしてこれが、利用者の不安を取り除くものとして、この自動運転技術が将来サービス化されたときに、付加価値を持つのではないかと思っています。
【参考動画1】
https://youtu.be/jX2BuHXnV2o
上のYouTubeの映像をご覧ください。ここでは、後ろの席に利用者が乗っています。運転席は無人なのですが、この車の状況や走っている場所について、この画面に写っているキャラクターが解説をしてくれます。このキャラクターは将来的にはAI(ロボット)になるかもしれませんが、この実験がどのように行われているかといえば、実はここには「ミライアカリさん」という、非常に有名な「バーチャルYouTuber(VTuber)」と呼ばれるキャラクターが登場しています。
VTuber技術は、全てがバーチャルというわけではなく、実際にキャラクターを演じている人間が遠隔地に存在します。その遠隔地で、例えば手首や足などにモーションキャプチャーをつけたり、あるいは周囲のカメラで演者の動きをキャプチャーしたりすることで、その動きをそのままキャラクターに反映するものです。つまり、遠隔地でキャラクターを演じている人間が、キャラクターの動きと同じ動きをしているということです。その動きがキャラクターにリアルタイムで反映されているのです。
VTuberは、自動運転とは全く関係のない技術として、すでに大きな注目を集めています。それを自動運転と組み合わせることで、いろいろなことができるのです。この実験は九州で行っているのですが、例えば、今までガイドという仕事は、この映像の場合、仕事をするためには九州まで行く必要がありました。このとき、ガイドの方が九州の近くに住んでいればいいのですが、そうとは限りません。そこでこの技術を導入することで、いちいちその場所まで行く必要性がなくなり、極論をいえば自宅からでもガイドの仕事をこなせるようになります。これは、今までになかった職業だと思います。
●VTuberという技術によって新たな職が生まれるかもしれない
現在では、自動運転やAIが普及すると職が奪われるのではないかと、非常にネガティブな考え方もなされています。これは確かに一部では正しいことですが、しかし、もっとポジティブに考えると、これから自動運転が実用化される、あるいはAIがどんどん実用化されることによって、今までになかった職業が生まれてくるということです。私は特に、VTuberという技術に対して非常に可能性を感じています。
実際にその場所に行ってそこで働くというスタイルは、サラリーマンの方であればほとんど苦にならないとは思います。しかし、世の中にはそういう人たちだけではなく、例えば主婦の...