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ただ独りで坐る白隠の生き方から学べ

人間的魅力とは何か(特別篇3)心意気あふれる白隠禅師の書

概要・テキスト
白隠は自分一人だけの禅を貫きながら、周りの人々に「南無地獄大菩薩」などと記した書を与えていた。「これを拝めば救われる」と、御札代わりに渡していたのだ。その白隠こそが、臨済宗の禅の中興の祖となった。そんな白隠の生き方、そして彼の書から、「人間一人の力」の偉大さが伝わってくる。(全4話中第3話)
※インタビュアー:神藏孝之(10MTVオピニオン論説主幹)
時間:08:08
収録日:2019/04/05
追加日:2019/08/02
カテゴリー:
キーワード:
≪全文≫

●白隠はただ独りで坐った


――白隠禅師の話を少ししていただけますか。

執行 白隠は、いわば日本の禅の中興の祖です。今、日本人は「禅は日本文化と切っても切り離せない」などと偉そうなことをいっていますが、白隠がいなかったら少なくとも臨済禅は日本に一つも残っていません。臨済禅を日本で建て直したのは白隠だけです。

 白隠は江戸時代中期の人ですが、彼がすごいのは自分の幸福、自分の成功を全部捨てたことです。江戸時代中期は臨済禅の最盛期で、妙心寺を中心にすごい権威を持っていました。社会的にいうとお坊さんが偉くて、みんな金持ちになって、すごい生活をしていた。そのときに白隠はただ一人、自分だけの禅、まったく報われない禅をやろうと思い、慧端(えたん)という人の弟子になったのです。

 慧端は長野にいた僧で、やはり同じようにまったく報われない禅を自分の家でやっていた。親孝行で、母親と二人暮らしで母親の面倒を見て、あとは自分一人で禅をするだけ。そんな人に弟子入りしたのです。そうした自分一人だけで、禅で生きるという生き方を初めてやったのが、至道無難、慧端、白隠という三人です。

 彼らは臨済禅の中では変わり者で、臨済禅は本来、集団で勉強します。大学まであり、みんながそこで勉強するのです。そうした時代にあって、「自分が座禅をしていればいい」ということで、自分だけの禅をやった。それが至道無難と慧端で、それを白隠が受け継いだのです。

 白隠は清水の近くにある松蔭寺で、ただ一人だけの禅をやり、近くの農民とつきあっているだけでした。白隠の最後の弟子が遂翁と東嶺で、彼らが白隠の志をつないで、今につながっています。だから臨済禅全部の祖なのです。白隠がいなかったら、もう臨済禅は日本からなくなっています。

 変な話ですが、ものすごく成功して、ものすごく学問として研究をして、ものすごい生活をしていた坊さんたちのやっていた臨済禅は全部なくなってしまった。ただ一人、白隠の「自分だけの禅」が残った。何の名利も求めない、ただ座るだけの禅。そういう禅をやっている「白隠派」だけが、今の臨済禅全部の祖になったのです。だから今の臨済宗の全部のお寺の祖は白隠ただ一人。そのぐらいすごい坊さんなのです。

 白隠がいなければ、日本の禅はほとんど、曹洞宗以外は壊滅していました。白隠は一人だったから大変なのです。

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