●剣豪の字は、だいたい柔らかい
執行 このあたりが高橋泥舟ですね。
――これまた、すごいですね。
執行 これも武士道の字です。泥舟は日本一の槍の名手ですから。山岡鉄舟の義理のお兄さんにあたる人で、山岡鉄舟の奥さんのお兄さんです
執行 あれが楠木正成です。安田靫彦(やすだ・ゆきひこ)の楠木正成。
――これまた、すごいですね。
執行 これも名画の中の名画です。楠木正成の忠義の心を後世に伝える、一番いい絵だと思っています。楠木正成はよく勇ましさが伝えられますが、憂いを含んだこの顔は靫彦にしか描けません。
執行 これは近藤勇です。近藤勇の子孫からもらいました。こうした剣豪たちの字は、みんなすごく柔らかいのです。
――確かに柔らかいですね。
執行 剣豪はだいたい柔らかいのです。
――そうか、面白いな。違いますね。
執行 全然違います。
――これまた柔らかいですね。びっくりしますね。
●三島由紀夫の未来を見通す感受性
――これは、いつもおっしゃっている三島由紀夫ですね。これもすごい。
執行 「至誠」です。直にもらった書です。三島由紀夫は色紙を七枚もっていて、これもその一枚です。
――三島由紀夫もたいした人ですよね。
執行 まず字がすごく清冽です。三島由紀夫ぐらい頭がいいと、やはりあの時代でも生きられないのでしょう。普通の人が見えないものが見えてしまいますから。感じないものを感じてしまうのです、きっと。
――だからあの時代でも、生きられなかったのですね。
執行 普通の人は、まだあの時代は結構、大丈夫でしたが。
――おおらかな時代だから。でもあまりに感受性があり過ぎた。
執行 ものすごく頭がいいですから。
―― でも、おもしろいですね。そこで、高校生の執行さんが三島と話したのですよね。
執行 文学論ですから。僕は三島文学が好きで、中学生の時点で読んでいないものはなかったので、文学論ができたのです。文学好きならある話で、中高生でも相手してくれたのです。
僕は三島由紀夫の文学が、すごく好きでしたから。
――でもあまりにも見えないものが見え過ぎて、感受性があり過ぎると、1970年代の頭でも苦しくなってしまうのですね。彼は見えていたのですね、日本の行く末が。
執行 今の状況も。彼が死ぬ前に『産経新聞』に書いた、遺書みたいな有名な文章がありますが、今の...