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書画に込められた「魂」との対話

人間的魅力とは何か(特別篇4)執行草舟コレクションを見る

執行草舟
実業家/著述家/歌人
情報・テキスト
執行草舟のコレクションには、山岡鉄舟や白隠ばかりでなく、高橋泥舟や近藤勇、三島由紀夫などの書、さらに安田靫彦の絵画など、数多くの名品が含まれている。それらの書画に間近に接しながら、各々の人物に想いを馳せ、いまわれわれが受け取るべき「魂」を探っていく。(全4話中第4話)
※インタビュアー:神藏孝之(10MTVオピニオン論説主幹)
時間:11:04
収録日:2019/04/05
追加日:2019/08/09
≪全文≫

●剣豪の字は、だいたい柔らかい


執行 このあたりが高橋泥舟ですね。

――これまた、すごいですね。

執行 これも武士道の字です。泥舟は日本一の槍の名手ですから。山岡鉄舟の義理のお兄さんにあたる人で、山岡鉄舟の奥さんのお兄さんです

執行 あれが楠木正成です。安田靫彦(やすだ・ゆきひこ)の楠木正成。

――これまた、すごいですね。

執行 これも名画の中の名画です。楠木正成の忠義の心を後世に伝える、一番いい絵だと思っています。楠木正成はよく勇ましさが伝えられますが、憂いを含んだこの顔は靫彦にしか描けません。

執行 これは近藤勇です。近藤勇の子孫からもらいました。こうした剣豪たちの字は、みんなすごく柔らかいのです。

――確かに柔らかいですね。

執行 剣豪はだいたい柔らかいのです。

――そうか、面白いな。違いますね。

執行 全然違います。

――これまた柔らかいですね。びっくりしますね。


●三島由紀夫の未来を見通す感受性


――これは、いつもおっしゃっている三島由紀夫ですね。これもすごい。

執行 「至誠」です。直にもらった書です。三島由紀夫は色紙を七枚もっていて、これもその一枚です。

――三島由紀夫もたいした人ですよね。

執行 まず字がすごく清冽です。三島由紀夫ぐらい頭がいいと、やはりあの時代でも生きられないのでしょう。普通の人が見えないものが見えてしまいますから。感じないものを感じてしまうのです、きっと。

――だからあの時代でも、生きられなかったのですね。

執行 普通の人は、まだあの時代は結構、大丈夫でしたが。

――おおらかな時代だから。でもあまりに感受性があり過ぎた。

執行 ものすごく頭がいいですから。

―― でも、おもしろいですね。そこで、高校生の執行さんが三島と話したのですよね。

執行 文学論ですから。僕は三島文学が好きで、中学生の時点で読んでいないものはなかったので、文学論ができたのです。文学好きならある話で、中高生でも相手してくれたのです。

 僕は三島由紀夫の文学が、すごく好きでしたから。

――でもあまりにも見えないものが見え過ぎて、感受性があり過ぎると、1970年代の頭でも苦しくなってしまうのですね。彼は見えていたのですね、日本の行く末が。

執行 今の状況も。彼が死ぬ前に『産経新聞』に書いた、遺書みたいな有名な文章がありますが、今の世相と同じです。日本人が全部ニュートラルになると。

――50年後も見えていたのですね。

執行 あの人は完全な霊能者です。僕は会って霊能者だと思いました、頭がいいだけではなく。『美しい星』という原子力問題を扱った文学もそうです。昭和34年に出たものですが、もう今の原水爆や原発問題を全部わかっています。あのまま行けばどうなるかわかっているのだから、それは苦しいでしょう。わかっている人は苦しいのです。

――感じない、鈍感な人には何にもわかりませんから。

執行 今だって、まだ感じない人がいます。ここまで来れば、ほとんどの人はわかりますが、三島由紀夫が原子力問題で日本が滅びるとわかっていたのは昭和34年です。やはり文学者はすごいです。あの時代、昭和34年に三島由紀夫が一番認めていた文学者の安部公房も、『第四間氷期』という本を書いています。日本が滅びて、人が「水棲人間」になるという話で、その滅び方はともかく、全部わかっているのです。昭和34年、1959年の時点で日本を代表する知性といわれる2人は、もうわかっていたのです。


●神武天皇は「正しさを養え」と訴えた


――これもすごいですね。

執行 これは菊池契月の「神武天皇」です。神武天皇は何といっても日本武士道の淵源ですから。

――そうか、神武天皇なんですね。

執行 そうです。武士道は源平のものではありません。日本建国のときの詔から、全部が武士道の淵源ですから。神武天皇の「建國の詔」が『日本書紀』に書いてあります。あれが日本の武士道、のちの源平を生み出したのです。だから神武天皇が、日本武士道の祖です。

 僕はこの詔について、毎日考えています。詔の中心課題は、ここが日本人の素晴らしさなのですが、「正しさを養う」です。「正しく生きろ」「正しくなれ」ではない。神武天皇がいった日本人の生き方は、「正しさを養え」なのです。「養正」という言葉が『日本書紀』にあります。

 「正しさを養う」ということは、教条主義にならないのです。「正しくなれ」といったら、教条主義になってしまいます。正しくない人を裁くだけになってしまう。「正しさを養う」といえば日本的で一番よくて、正しくなるための「涙」や「努力」などを指します。

 だから極端にいうと、正しくなりたい人は、正しくないまま死んでもいいのです。それでも許されるのが日本なのです。僕はこれが日本の一番のよさ...
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