弥生時代の歴史~研究最前線
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古墳時代成立の鍵となるのは鉄ではなく威信財や祭祀
弥生時代の歴史~研究最前線(7)~古墳時代への胎動~
藤尾慎一郎(国立歴史民俗博物館 研究部 教授/総合研究大学院大学 日本歴史研究コース 名誉教授)
弥生時代から古墳時代へと弥生社会はどのように変化していったのか。従来は鉄などの実用的な道具の入手が九州北部から近畿に移ったことで、近畿を中心とした巨大な政治的権力が成立し古墳時代が始まったとされてきた。しかし、考古学的資料の検討を行うと、鉄ではなく威信財や祭祀の分布が、古墳時代の開始に重要な役割を果たしていたことが明らかになってきた。前方後円墳は、倭国内の各地で行われていた風習を一つに合体し、新たな文化装置として創造された大事業の一環だったのだ。(全12話中第12話)
時間:13分26秒
収録日:2019年6月4日
追加日:2019年11月11日
カテゴリー:
≪全文≫

●朝鮮半島からの鉄の入手ルートが近畿へ移ったことで古墳時代の成立を説明する議論は考古学的事実に合致しない


 それでは、最後の講義、第6章「古墳時代への胎動」に移ります。古墳成立前夜のお話です。

 これまで古墳時代に至るまでの過程はどのように説明されてきたかというと、主に鉄と墓から説明されてきました。簡単にいうと、弥生時代の中・後期には九州北部地方の人々が圧倒的に多量の鉄を掌握していました。

 ところが、ある時、近畿と瀬戸内の連合体が九州北部と戦いました。これは、当時最大の戦乱であり、「倭国大乱」と呼ばれます。これを契機に、鉄が東に集中するようになり、倭国の政治的権力が西から東に移ります。そして、その東の集団が古墳成立の母体となった、と説明されてきたのです。

 しかし、先ほど比恵・那珂遺跡に関して述べたように、九州北部の鉄の量は尋常ではありませんでした。これは倭国乱後も変わりません。つまり、鉄の中心が西から東に移るという現象は、観察されていないのです。戦乱前と同様に、九州北部の鉄の保有量は圧倒的で、鉄をめぐる優位性は変わっていません。ですので、上の説明は現実に即していません。

 この図面は、その優位性を示しています。九州・中国地方の集落から出てきた鉄器の量を示したものです。このなかでも最も重要な鉄器は、先ほど説明した土木用の鉄器です。鍬や鋤の先に取り付けて土を掘る、「鉄刃(てつじん)農具」と呼ばれるものです。

 福岡県では、竪穴住居の大きさにかかわらず、基本的にどの住居からもこの鉄刃農具が出土します。九州中部の熊本辺りでも多くの鉄器が見つかっていますが、大きな住居からしか鉄刃農具が出てきません。さらに、岡山では集落全体で1、2点ほどしか出土しません。近畿ではほとんど出土例がありません。ここからも分かる通り、九州北部の鉄の優位性は倭国大乱後も変わらないので、これまでの説明は現在では分が悪くなってしまいました。


●西から東に比重が移ったものは実は鏡などの「威信財」だった


 それに対して、明らかに分布の中心が西から東に移るものがあります。それは、鏡です。鉄は、武器であり農耕具であり、すなわち利器、実用品です。一方、鏡や玉は、それを持っているからといって戦いに勝てるわけではなく、土地の開発が進むわけでもあり...

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