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戦のための馬はどのように扱っていたのか

戦国合戦の真実(2)戦支度と馬の扱い方

中村彰彦
作家
情報・テキスト
戦には何人動員すればいいのか? 鎧はどうするのか? 馬は何頭連れていくのか? 後世まで語り継がれる合戦にも必ずあった「準備期間」に、武将たちは何を考え、どう行動していたのだろうか。合戦前夜までの手順を「動員」「具足」「馬」という観点から解説する。(全7話中第2話)
※インタビュアー:川上達史(10MTVオピニオン編集長)
時間:09:01
収録日:2019/11/06
追加日:2019/12/29
キーワード:
≪全文≫

●動員する数は、こうして決まる


―― 兵農分離をしていた地域もあったかもしれませんが、特に上杉の場合、大農業地帯というのは経済と一体になっているということでしょうか?

中村 そうですね。戦国時代は貫高制ですけれども、そのうちそれが面倒だということで、石高制になります。人の財産を、お米を計る単位である「石」で表現するというところが実にドラマチックですね。

―― 当時のことですから、人海戦術で人手をとにかくかける農業だった。そのため、合戦への動員は、農閑期をメインにするということですが、実際にはどういう形で動員をかけていくのでしょうか。

中村 この村には何人住んでいるということが年貢通帳に書いてあります。そのなかの成人、すなわち15~16歳以上50歳未満ぐらいの戦闘能力のある、そうした体力がマッチする人間、いわゆる「壮丁」が対象になります。

 村ごとに壮丁が何人いるかは分かっているため、今回の敵はたいして強くないという場合には、例えば100人いたら4人だけを呼ぶということになる。これを「四人役」といいます。しかし、今回の敵は強いから「六人役」、あるいは、ちょっと厳しくなりそうだから、「八人役」というふうに決めて、動員をかける。そして、これでいいだろうという人数を確保する。さらに、敵のところに、いわゆる「乱破(らっぱ)」「素破(すっぱ)」という当時のスパイを忍び込ませて調べるので、敵は何人で来るというだいたいの数は勘定できている。こうして、それに見合う兵力で迎撃を考えていくのです。


●鎧、具足一式はレンタルできた


中村 また、ちゃんとした武将は自前のいい鎧を持っているわけですけど、動員する農民はあまりいい鎧や甲冑を持っていません。ですから、当時の戦国大名は足軽たちに貸すための鎧と具足一式をたくさん持っていて、それを貸し与える。これを「お貸し胴具足」(足軽胴)といいます。

 ということで、借り物の具足と、籠手(こて)、脛当(すねあて)、鉄の兜、それから合当理(がったり)といって、鎧の後ろ(背中)に筒をつけ、そこに旗印を挿すのですが、そうしたものを一式貸してもらうわけです。

 それらには、だいたい朱の漆で家紋が描いてあって、どこの将に仕える足軽かが一目で分かるようになっています。同士討ちなどしたら大変ですからね。

 ところで、テレビなどを見ていると、「いざ出陣」と言って城門が開いたときに、鎧を着て、馬にまたがって、ドカドカドカッと走り出すという光景を目にしますが、あれは間違いですね。

 競馬を見ていても分かるように、馬は2500メートルから3000メートルぐらい走るとくたびれしまう。そのまま走り続けると、心臓に負担がかかりすぎて死んでしまうこともある動物なのです。ですから、いつどこで敵と遭遇して合戦になるか分かる前に、総鎧を着て、重量を重くして馬を走らせるわけにはいきません。馬もくたびれるし、乗っているほうもくたびれるからです。身体が揺られて腹が痛くなることもあれば、ものすごく汗もかきます。

 例えば、徳川家康の出陣の姿を描いたものからも、普通の羽織袴という軽装で戦場に行く様子がうかがえます。つまり軽装で行って、いよいよ明日の朝には激突というあたりで、着替えるわけです。

―― 馬も駆け出すということはなく、並足でいくわけですよね。

中村 そうです。疲れさせてはいけません。特に日本には蹄鉄の文化がないので、爪を割ったらもうおしまいです。騎馬武者として戦おうと思って行った人間が、突然歩兵としてしか戦えなくなったら、これは無残な話です。

 ですから、馬に関していいますと、故障する可能性があるから1頭では危ない。そのため、位の高い大将になればなるほど、曳き替えの馬という予備の馬を連れていくことが大事なのです。1頭ではなく、2頭、3頭と連れていくことが多かったと思うのですが、あの黒澤映画でもお金がかかりすぎるからか、そこまではリアルにやっていませんね。


●馬の世話だけでも一苦労


中村 そして、曳き替えの馬1頭1頭に馬丁が付かなくてはいけないわけですから、兵隊とはまた違う、侍や足軽には勘定をされない小者、例えば馬丁、荷車を引く人間などがたくさん必要になります。

―― いわゆる輜重部隊ですね。

中村 そうですね。いわゆる「小荷駄方(こにだがた)」と呼ばれる者たちです。戦争のための旅というのは、片道何日になるか分からないところがあるから、野陣を構え野っ原で寝ることも当然覚悟して出かけるわけです。

 ただ、農閑期はだいたい真冬ですから、野原に寝ていたら風邪を引いて、戦になりません。そのため、野畳を敷いて、それを幔幕(まんまく)で囲って、かがり火を焚いて、寝起きする。つまり、野畳まで持っていかなくてはいけないわけですが、もし荷車で野畳50...
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