●経済循環を逆行させるディスラプションとは?
それでは、図5(「経済循環の模式図」)を見ながら経済循環についてお話ししましょう。これは経済学を勉強する皆さんが最初の講義で習うことです。経済には企業と家計があり、さらに政府があって、お互いに財とサービスを交換しているわけです。家計は企業に対して労働を供給して、給料をもらう。家計は輸入品を使い、輸入代金を払う。それで、企業と世界はつながっていて、サプライチェーンというものでつながっている。
こういう構造になっているのですが、今起きているコロナウイルス不況で何が起きているかというと、各主体間のつながりが、「ディスラプション(disruption: 活動阻害)」を受けて、分断されたり、壊されたりしているのです。
主なディスラプションの例を赤い丸で描いていますが、×1では企業が不況になって倒産・破綻してしまう。そうすると何が起きるかというと、×2で解雇が起きて賃金が支払われない。それがまた波及して、企業は国内の場合、みんなお互いに部品を供給したり買ったりしていますからサプライチェーンでつながっているのですが、これがボロボロになってきます。
そして、国内で金融危機が起きる。すると資金が供給されなかったりしますので、それが世界につながって国際サプライチェーンは分断されます。今、中国がコロナ不況に突入して、世界中に供給していた中国からの輸出がうまくいかなくなり、世界中の物価が上がったりしているのは、その例です。
それから、国際需要が需要ショックを受けます。需要ショックというのは、人々がコロナ不況で働けなくなって、ステイホームして所得が減る。それよりもっと怖いのは、人々が先行き不安を抱くことです。相手は今まで見たことのないような怪物ですから、何が起きるのか分からなくて、縮み上がってしまうのです。そうすると、異様に需要が減ってきて、世界経済全体を狂わせる。そうした経済循環のネットワークの流れになる可能性があるのです。
ですから、よく考えなければいけないのは、この経済循環のネットワークの流れが「ディスラプト(disrupt: 破壊、止まる)」されることです。順調に流れていれば、これはどんどん機能して付加価値を生み、好循環になるのですが、どこかで壊されると逆循環することになります。それがマイナスの波及効果を経済全体に持つ、つまり経済全体をうんと悪くする最大のポイントなのです。
●不況を深化させない三つの経済政策
では、不況を深化させないためには、経済政策は何をしたらいいのでしょうか。基本は、そうたくさんはありません。
一つは、労働者が絶対に雇用され続けなければいけないということです。アメリカはちょっと経済の調子が悪くなると、すぐレイオフで解雇してしまいますが、それはショックをとても大きくします。
それから、企業を破産・倒産させないことです。そのため、中小企業にいろいろな支援をしなければいけません。
また、金融システムが金融危機に転化するのを防がなければいけない、ということも挙げられます。そのため、とくに金融のところでは中央銀行が金融市場に流動性を緊急的に提供する役割が非常に重要です。
政府としては、財政スタビライザーを発動させることです。これは、不況がひどくなったときに減税や財政支出によって支えるようなことです。
それから、ターゲットを絞った補助金交付を行うことも重要です。日本でも、最初は「所得が激減した世帯に補助金を出す」ということを言っていましたが、情報システムがお粗末で確定できないものですから、とうとう安倍晋三首相が「10万円均一」という、最もやってはいけないことをやってしまいました。
ともあれ、そのような対応策を講じて、不況カーブが深化しないようにし、不況カーブの平坦化を試みて、なんとか耐えていくことが大事です。
●世界の感染者はどのように増えていったか
このような「不況カーブの平坦化」と「感染抑止」のために今、世界中は一生懸命取り組んでいます。ここからは、具体的に世界がどんなことをこれまでの半年間でやってきたかを振り返ってみたいと思います。
その前に図6(「世界におけるCV感染の時系列展開」)をご覧ください。これは、今年の1月から6月の半ばまで時系列で、各国の新規感染者を実数で比べたものです。
2月に中国が、一挙に8万人増えました。ただし8万人というのは実数なので、新規感染者数はそんな数にはならず、1万5000人がピークです。中国がこれを克服していくと、ヨーロッパでの感染者が急増し、アジアでも少し出始めます。ただ、実数で見ていくと、他の国はそれほど目立たず、アメリカ(黄色い線)だ...