●アタッチメントが自制心の根底にある
この自分をコントロールする力の根底にあるのは、実は親子関係なのです。これは、心理学では「アタッチメント」と呼ばれます。アタッチメントは、人間に限ったものではないですが、ここでは一応人間に即して説明します。人間が危機的な状況や、困った状況に陥った際に、特定の個体(多くの場合、親ですが)、親あるいはおじいちゃん、おばあちゃんに対して持つ情愛的な絆を「アタッチメント」と呼びます。
特に非常に無力な存在である生まれたばかりの赤ちゃんは、このアタッチメントを持つことで、安心感を得て安全を感じることができます。このアタッチメントが、全ての社会情緒的スキルの基本にあることが知られています。
その理由は、親などに対するアタッチメント、つまり情愛的な絆や親子関係がしっかりと形成されていると、子どもは例えば自分は人に愛される存在だ、あるいは人に優しくしてもらえる存在だなどの、自分についてのある種の考え方やモデルを持つことが知られています。また、自分だけではなく、他人についてもモデルを持つことも分かっています。例えば他人は自分を愛してくれる存在、あるいは他人は自分に親切にしてくれる存在などのモデルを持つようになるのです。
社会情緒的スキルは自分もしくは他人と折り合いをつける力だと先ほど申し上げましたが、その基本にこのような親子関係があるわけです。しっかりとした親子関係を築くことができれば、自分について自信を持ち、他人を信用することもできるようになります。逆に、親子関係がうまくいっていなければ、こうしたことが困難になるのです。
このように、アタッチメント、親子関係、情愛的な絆が、自分をコントロールする力の根底にあることが分かっています。
●2歳以降に発達する「社会情緒的スキル」は三つ
ここまでの話は、赤ちゃんの頃の話です。0歳から2歳前後にかけては、親子関係が非常に大事で、子どもの成長・発達の基本になると考えられています。そして、2歳以降の「幼児期」と呼ばれる時期には、「社会情緒的スキル」が発達することが知られています。
より具体的には、自分についてのスキルとして、自分をコントロールする力、「自制心」があります。また、他人についてのスキルとして「他者の気持ちや考えを理解する力」があります。また、例えば人に「思いやり」を示すなど、自分と他者の関係についての能力も含まれます。どれも重要な力なのですが、今回は特にこの中でも、自制心に焦点を当ててお話をしたいと思います。
この自分をコントロールする力は、専門的には何かを実行する能力という意味で、「実行機能」と呼ばれます。少し耳慣れない言葉かと思いますが、この実行機能を英語では「エグゼクティブファンクション(executive function)」といいます。
エグゼクティブとは、ある種会社組織の中の取締役などを意味します。つまり社長を含めた取締役会は、会社の方向性や目標、どのように会社を運営していくか決定する場といえるでしょう。同様に、エグゼクティブファンクションは、自分の中でどのような目標を持って、どのように行動を実行するかという方針を決める能力だと考えられています。少し小難しい説明になってしまいましたが、基本的には目標を立てて、その目標を遂行し、達成するための力だと思っていただければ結構です。
●実行機能には感情面と思考面という二つの側面がある
この実行機能には大きく分けて二つの側面があります。一つは「感情面の実行機能」です。例えば、先ほどから例として挙げているように、ケーキを食べたい、あるいはビールを飲みたいといった衝動的な感情や欲求を抑えてコントロールする力が「感情面の実行機能」と呼ばれます。この「感情面の実行機能」は、社会的な場面では友だち付き合いや問題行動の多寡など、いわゆる社会性に関わることが多くのデータで示されています。
もう一つは「思考面の実行機能」です。こちらは少し分かりにくいのですが、習慣や癖をコントロールする力だと思っていただければ良いかと思います。より具体的には、一般的に「集中力」と呼ばれるものです。周囲に自分を邪魔しそうなものがあった際に、目の前の仕事や勉強に集中する力は、ある種の「思考面の実行機能」になります。
あるいは、頭を切り替える力も重要な実行機能といわれています。ある方法でうまくいかなかった場合に、別の方針を試してみる、それがうまくいかなければ、また元の方法で取り組むなど、状況に応じて頭を切り替えて目標を...