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『日本書紀』に見る日本の忖度文化の原型

世界神話の中の古事記・日本書紀(3)談合の国の「史書」と「秘書」

鎌田東二
京都大学名誉教授
概要・テキスト
本居宣長
出典:Wikimedia Commons
オペラ的な物語性のある『古事記』に対し、記録的な性質の『日本書紀』。この『日本書紀』を見ていくと、さらに”日本らしさ“が浮かび上がってくる。鎌田東二氏が「日本の忖度文化の原型」「談合」と述べる『日本書紀』の性質とは。(全9話中第3話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:12:19
収録日:2020/10/05
追加日:2021/04/14
≪全文≫

●『日本書紀』の時代から日本は談合の国だった


―― 前回おっしゃったように、『日本書紀』の中には、『古事記』の神様も「一書に曰く」という形で入り込んでいますね。

鎌田 『日本書紀』は、いろいろなものをうまく抱き込んでいるのです。『古事記』をうまく懐の中に入れ込んでいる。実に巧妙な手口です。『古事記』の伝承もうまくその中に溶け込ませている。恐らく『古事記』を伝承している家でも、中心をなすような家々があったと思います。

―― 豪族によって信じている神様が違うということですか。

鎌田 家ごとに伝わる伝承が若干違うということはあり得ます。例えば、川上家と鎌田家があるとすれば、それぞれの家々で、自分の家の先祖の神様が活躍する話によりアクセントを付けたいでしょうから、より立派になっているはずです。そのように、それぞれの豪族(氏族)、その家々の物語があった。そして、『古事記』を伝えている家柄の物語もあった。でも、それは「one of them(多くの中の1つ)」です。その「them」の中のいろいろなものをうまく案配しなければいけない。要するに、日本は最初から談合の国なのです。

―― 談合の国(笑)。

鎌田 そう、『日本書紀』の時代から談合の国ですね。A建設、B建設、C建設などさまざまな企業が談合で出てくる。そういった取捨選択、あるいは格付において絶妙に配慮が行き届いて、忖度しているといった具合です。だから、『日本書紀』は日本の忖度文化の原型ではないかと思います。

―― 国家の形がそこからも分かるわけですね。いわゆる独裁的な王権があったのではなく、連合王権のような国として成立してきたということが分かりますね。

鎌田 秦の始皇帝のような絶対的な権力者であったら、このような曖昧なものを読んだら烈火の如く怒って、「こんなもの」と言って破り捨てたと思います。ところが、日本では、『古事記』時代の元明天皇や、その後の元正天皇、聖武天皇といった天皇たちは、国家文書である『日本書紀』を受け入れて、かつそれが日本の公文書である『六国史』の筆頭として、宮中や当時の知識人たちの中で何度も講読されているのです。

『古事記』にはそういった国家的な意思、国家的なプロジェクトとして講読された、解読されたという記録は一切ありません。だから、本当に民間の伝承なのです。

―― どちらかというと、私書というイメージで...
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