●日本を理解するための『古事記』
古代、特に日本の古代には、何かエネルギッシュでダイナミックな創造性というものが、生存意欲を後押しして、存在しているということを今回の転換期に、もう1度あらわにするということが重要だと思うんです。あらわにできたら、世界に冠たるものがどんどん生まれてくると言っていいんじゃないでしょうか。
そういう意味で、何といっても本居宣長が言うように、「漢意(からごころ)」といいますが、漢意の入る前ということは、要するに外来文化が入る前の日本というものを記したものが『古事記』(ふることふみ)であるということです。今、われわれは「こじき」と読みますが、彼の時代は「ふることふみ」と読んで、この『古事記』をよく理解しなきゃいけないけれども、『古事記』を理解するためには万葉というものをよく読まなきゃいけないんだと。
●賀茂真淵から本居宣長へ引き継がれた日本性の追究
賀茂真淵が一生をかけて万葉の勉強をしたというのも何のためか。日本というものは何なんだということを追究するためには、まず古代文字に精通しなければ何も分からない。そのためには万葉仮名とか、万葉の表現、こういうものはちゃんと理解できていないとダメなんだと。そういうものがあり、それでやったんです(万葉の勉強をした)。
賀茂真淵は本居宣長にこう言ったそうです。「私は『万葉集』の研究で終わってしまう。日本というものの根幹を追究するということができなかった。ぜひ後を継いでくれ」と。それで本居宣長はある種、日本の心というものを追究するということをやったんです。その本居宣長が非常に強く言っているのが、『古事記』をよく読むということがなにしろ重要だということです。そこに日本の“日本性”というものが表れているんだと、そういうことを言っているわけです。
●『古事記』冒頭に出てくるのは日本の産み出す力を表わす「ムスビ」
そういう意味で、『古事記』をしっかり読むということが重要です。まず、この『古事記』の一番最初のくだりが非常に重要なんですね。読んでみますので、五感でぜひ聞いていただきたいと思います。
「天地(あめつち)初めて起こりし時、高天原(たかまのはら)に成りませる神の名は、天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)」
天之御中主神という神様が根本的にあるわけですね。そして「次に」と続きますが、ここが重要です。
「次に高御産巣日神(たかみむすびのかみ)、次に神産巣日神(かみむすびのかみ)。この三柱の神は、ともに独神(ひとりがみ)と成りまして、身を隠しましき」
独神、要するにひとりなんだと言っているということは、非常に純粋性を持った神なんだということなんです。天之御中主神の次に登場する、高御産巣日神と神産巣日神ですが、この「ムスビ」が重要で、この書物では生産の産の「産(うむ)」、鳥の巣の「巣」、それから「日」、つまり太陽で「産巣日(むすび)」と書く。お日様のエネルギーというものを媒介とするような、生産性を非常に強調した、そういう神々のことを言っていると思っていいでしょう。
他には、「産霊」と書くところもある。「霊」というのはこれまでにお話ししたアニマ、霊力の霊ですね。それをもって「むすび」と言っているところもありました。そういう意味では、冒頭からクリエイティビティ、つまり創造するんだ、何かをどんどん産み出すんだという、このエネルギーというものが日本の中心をなす神の存在なんだということをズバッと言っているところが非常に重要なんです。
ですから、そういう意味で、日本は世界に向けていろんなものを産み出していくということに非常に適した場所なんだということです。それは自然というものが豊かだからです。
それから、最近の流行りでいえば「たまり文化」ですが、日本にはたまり文化、要するに味噌・醤油というものがあって、その家独特の麹が培養されており、そういう存在が見受けられるということです。
つまり、生産というものに対して、ものを産むというものに対して、とても協力的な、そういう環境にあるという国なんです。