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世阿弥が能に復活させたのは日本の伝統的なライブ感

日本文化を学び直す(8)世阿弥と夢幻能

田口佳史
東洋思想研究家
概要・テキスト
業平を想い舞を舞うシテ
(「能楽図絵二百五十番」月岡耕漁)
世阿弥を語るのに欠かせないのが夢幻能である。夢幻能にはワキとシテが登場するが、そこでは霊力、アニマが時空間を支配し、あの世とこの世の境を断ち切って観客を巻きこんでいく。ドラマとはそのような縄文から受け継がれてきた霊力に満ちたものなのだ。世阿弥はいわば霊力による日本の伝統的なライブ感を能という芸術の中に復活させたわけだが、田口氏は日本人にはこうしたすさまじい霊力に感応する力が備わっていると言う。(全11話中第8話)
時間:08:35
収録日:2020/02/05
追加日:2020/11/04
≪全文≫

●世阿弥の夢幻能はよく知っておいたほうがいい


 その人(世阿弥)が語るのに、これを語らなきゃダメだというものがあります。それが「夢幻能」というものです。これはよく知っておいたほうがいい。これについては『井筒』を例にお話しします。

 夢幻能は、第一に「ワキ」という演者がずっと出てくるんですが、これは僧の形、坊さんの形をしています。その人がこう言うんですね。「これは諸国一見の僧にて候。我この程は南都七堂に参りて候。又これより初瀬に参らばやと存じ候」と。諸国一見の僧が出てくるというのが面白いですよね。いろんなところを見物しながら人生を送っている人がいたと。すごいものですよね。こういう一生があった。そういう人が現にちゃんといたということですね。

 その諸国一見の僧がほとんどボロボロになっている廃寺へ行って、こう言うんですね。「これなる寺を人に尋ねて候へば。在原寺とかや申し候程に。立ち寄り一見せばやと思ひ候」と。つまり、人に聞いたらなんという寺か。「在原寺」と言う。へえ、そうですか。じゃあちょっと見ていこうかと。寺はすっかり荒れ果てて、秋も半ば、冬枯れの時で、さみしい風景。そういうところなんですね。

 その時に、「前ジテ」というものが始まって、スッとそこにシテが出てくるんです。これが「いとなまめける女性」です。なまめかしいということです。美人とは言っていない。なまめかしいと言っているところがいいと思う。いとなまめかしい女性が花とお水を手向けにすっと登場するんです。

 そこで、ワキの僧侶がまずその女性にこう言います。「如何なる人にてましますぞ」これはまだ通り相場の台詞です。続いてこう言います。「これはこの辺りに住む者なり」。私はこの辺りに住んでいる者なんですが、「この寺の本願在原の業平は。世に名を留めし人なり」と。ああ、だから在原寺なんだとなる。

 大体この夢幻能というのは、一時代前の絶世の美男子、在原業平などが登場します。どういう人であったかというと、私を見てくれればいいですよ(笑)。在原寺はこの業平をお祀りする寺だというわけです。


●時空間を支配するアニマ


 「いかさま故ある御身やらん」、あなたはどういう縁故でここに手向けに来られているんですかと尋ねる。「故も所縁もあるべからず」と言った瞬間に、バッとそこで変わって、ここから夢幻空間へサーッと入っ...
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