●「これをやりたい」ということを予算より先に考える
―― 今まで日本の国立大学は、文科省の予算に縛られているため上限が決まっていて、どちらかというとどんどん減らされる方向で進んできました。藤井先生のような考え方でいくと、逆に、学生とともに(社会)実装することによって、お金も一緒に集まるような組立図が可能になりますね。
藤井 そうですね。やはりもう発想を変えなければいけないと思っています。今までは、まさにおっしゃる通り、配分された予算をどう配るかということで、上限も決まっていました。これからはむしろ、「これをやったらいいのではないか」ということを考えて、まず「やる」ということを決めていく。やるのだけど、そのためにはどうお金を手当しようか、という順番にするわけです。
私はこれまでに寄付や基金の担当もしてきましたが、これもやはり「これがやりたいんだ」ということがなければ、寄付をお願いするにしても、何のための寄付なのか分からないわけです。「やるべきこと」が先になければ、支援も受けられない。そこも、まさに「対話と共感」になると思います。
つまり、「こういうことがしたいので、ぜひ支援してください」。あるいは今のお話で言えば、「学生にぜひこれをやってもらいたい。この学生たちをサポートしてもらえませんか」という順番でものを考えるということだと思うわけです。
寄付でサポートできる場合もあるでしょうし、違う財源でカバーする場合もあるでしょうけれども、やはり発想の順番を変えないといけない。「なけなしのお金で、やれることだけをやろう」といった発想では、やはり活動全体が縮こまってしまうので、そこのマインドは変えないといけないと考えております。
●「好きなこと」が世界につながり、社会をよくしていく
―― 日本版「REIT」の取り組みが三井不動産の岩沙(弘道)さんの先導で行われてきました。彼も26年間にわたり不動産業のトップを走っているので、日本の会社では珍しい方です。マンハッタンやロンドンがどうしてきれいになったのかを研究していて、REITの仕組みにたどり着かれました。2600億でスタートしたものが、今では34兆ぐらいになっています。東京が大改革できたのは、REITと規制制限の撤廃が大きかった。これがなければ、こんなに短期間で東京はきれいにならなかったと思います。しかも、34兆の資金が湧き出てきたのは、資金投入した人たちにもメリットがあった。
先生の「対話と共感」の先にあるのは、たぶんそうした部分が一気に噴き出すような感じです。学生さんが社会実装する。その社会実装のなかからヒントをつかむ。社会実装するものというのは、たぶん世の中に欠けているから実装したわけで、実装させてみると便利になる人たちがいる。便利になる人たちがいると、寄付金や補助金ではなく、投資が一番早いということになるのではないでしょうか。
藤井 そうですね。確かに、投資をしてもらう方向に持っていけると、さらに大きく発展させることができますね。
―― 私がとてもいいと思っているのは、ロールモデルが変わってきていることです。「東大発ベンチャー」の時代がきはじめたと思うのです。もっと考えてみると、先生の言われた「対話と共感」を進め、しかもリソースがあるということだと、一気にシフトが進みます。「一番賢い人たちが次の時代の産業をつくる」という方向へ意味づけできれば、かなりの速さで日本の競争力は回復するのではないかと感じがしています。おそらく東大でも一番優秀な人たちは、ロールモデルがなくなったことでみんな困っていたと思うのです。
藤井 そうですね。
―― しかも昔と違って「勉強だけ」の人はきわめて少なくなっていて、できる人はいろいろなことができます。これだけ多彩な人たちに対して、(成功のための)道筋として、「グローバルなネットワークに入ること」と「そのためには人間の幅が必要だということ」を明示してしまえば、非常に早いのではないかという気がするのです。東大は、多大なリソースを持っているところではないか、と。
藤井 本当にトップ層は、そういう意味でも、とても優秀ですから、彼らの背中をうまく押したい。本当は、在学中に先ほどのような格好で何かに関わっていくことで、そこからすでに起業に結びつくような芽を作ってしまう。そんなこともあり得るのかもしれないですね。
―― それが可能な時代にようやく入ってきたという。
藤井 そうですね。いわゆる起業(アントレプレナーシップ)の分野だと、たとえばバブソンカレッジが有名です。バブソンの話を聞いていると、確か学生全員が入学して半年以内に起業するのです。そういうことになっているというのを聞いていると、今のようなお話はありえます。東京大学のなかでも、在学中に何らかの...