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日本神話と北欧神話の決定的な違いは終末論があるかないか

神話の「世界観」~日本と世界(3)北欧神話との違いと日本神話の構造

鎌田東二
京都大学名誉教授
概要・テキスト
世界の神話にはその地域の気象的特徴や地形的特徴との相関関係がある。そのような中、北欧神話と日本神話には共通する部分も多いのだが、決定的な違いも存在する。それは終末論があるかないかだと鎌田東二氏は言う。いったいどういうことなのか。(全8話中第3話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:09:50
収録日:2020/12/07
追加日:2021/10/03
≪全文≫

●世界の神話とその地域の気象的・地形的特徴には相関関係がある


鎌田 特徴として、日本神話と北欧神話に出てくるもの、出てこないものがあります。これは何か分かりますか。

―― 何でしょうか。前回スサノヲノミコトとは似たところがあるという話がありましたね。

鎌田 ここで寺田寅彦という物理学者を見ていきましょう。

 寺田寅彦が大変面白い論文を書いています。昭和8(1933)年8月、『文学』という雑誌に「神話と地球物理学」として、神話世界観を分析しているのです。非常に興味深いので、それを読み上げていきます。

「地球物理学関係の研究に従事している者が国々の神話などを読む場合に一番気のつくことは、それらの説話の中にその国々の気候風土の特徴が濃厚に印銘されており浸潤していることである。例えばスカンジナヴィアの神話の中には、温暖な国の住民には到底思いつかれそうもないような、驚くべき氷や雪の現象、あるいはそれを人格化し、象徴化したと思われるような描写が織り込まれているのである。」

 エッセイの冒頭にスカンジナヴィア神話のことを述べていて、その後は日本神話について解釈していきます。では、日本神話の解釈とスカンジナヴィア神話の解釈で、どこが一番大きく違うか。

 端的にいうと、氷と火です。

―― 火とは、燃える火ということですね。

鎌田 はい、燃える火ですね。なぜかというと、日本は火山列島なので、いろいろなところから火が噴き出ている島々です。ところが、スカンジナヴィアは北極圏に非常に近く寒いので、フィヨルドや氷河などがあるでしょう。日本では、例えば北アルプスなどの寒冷地において冬の一時期に氷河的なものができるかもしれません。ですが、氷河が何百万年、場合によると何億年も維持・堆積されるということは、温暖な日本には絶対にありません。

 地球上では、各地域には地域ごとの気象的特徴や地形的特徴があります。その気象的特徴や地形的特徴と、各地域や国々の神話とは、それぞれに相関関係を持って語られているのです。なぜ私たちが住んでいる世界は氷がたくさんある世界なのか、なぜ私たちが住んでいる世界は火(火山)が多いのか――それらが神話できちんと説明されているということです。

 そのためスカンジナヴィア神話の中には、氷の人格化が出てきます。日本の伝説の...
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