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「21世紀の第一次大戦」を想起させる3つの要素

グローバリズムの“終わりの始まり”(1)戦争が終わらせるグローバリゼーション

中西輝政
京都大学名誉教授/歴史学者/国際政治学者
情報・テキスト
冷戦から続いてきたグローバリゼーションが今、終わりを迎えようとしているのではないか――そのような議論が見られるようになってきた。グローバリゼーションの終焉という大きなうねりをどう捉えればいいのだろうか。そのために、まずは19世紀そして20世紀に起きたグローバリゼーションの動きとその背景について解説する。(全4話中1話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:15:52
収録日:2022/05/30
追加日:2022/07/15
ジャンル:
≪全文≫

●19世紀のグローバリゼーション


―― 皆さま、こんにちは。本日は中西輝政先生に、「戦争が終わらせるグローバリゼーション」というテーマでお話を伺いたいと思います。中西先生、どうぞよろしくお願いいたします。

中西 よろしくお願いします。

―― 今日のテーマですが、冷戦後から続いてきた「グローバリズム」「グローバリゼーション」が、今回のウクライナでの戦争をキッカケに大きく変わるのではないかということでお話をお聞きできればと思います。そもそもグローバリズムは、こういった戦争がキッカケになって終わっていくものなのでしょうか。

中西 そうですね。世界史を少し長いスパンで見れば、自然と明らかになることです。最初に、「グローバル化」という言葉をどう理解するかという問題があります。皆さんの多くが一番関心を持っているグローバリゼーションとして、産業革命以後、資本主義が世界に広まり、市場経済が歴史を前に進める大きな力として世界を席巻し出した19世紀半ば以降の話を考えてみたいと思います。

―― はい。

中西 グローバル化については、重要な“柱”があると思っています。

 一つは、交通手段、通信手段が革命的な技術的大発展(ブレイクスルー)を遂げ、物理的距離がそれまでの意味をなくしてしまうほど、各地域が一挙に近くなった。こういった「通信手段と交通手段の大発展」が背景の一つにあります。

 二つ目の要因が貿易です。それによって、人・モノ・カネ・情報といったものが非常に濃密に、地域間あるいは地球上を行き交うようになった。いくら技術的な通信手段が発達しても、それが十分に利用されて、特にモノの貿易、カネの流通に爆発的につながらなければ、グローバル化とは言いません。技術発展は常にいつの時代にもありますが、モノ・カネ・ヒト、あるいは情報の動きにガッチリとつながることが大事なのです。

 これが19世紀後半にヨーロッパ、アメリカを中心とした大西洋世界で始まったグローバリゼーションです。そして第一次大戦につながっていきました。


●アメリカの発展に寄与したのは誰か


中西 第一次大戦までにグローバリゼーションがヨーロッパで一挙に進み、特にアメリカの経済成長を促しました。そしてアメリカは19世紀後半に一躍、世界第一の経済大国になるわけです。

 南北戦争までのアメリカは、ヨーロッパに比べれば非常に工業化の遅れた、今でいう途上国、新興国のレベルでした。ですが、南北戦争後の30年ほどのあいだに、一挙に世界一の経済大国にのし上がりました。

 これにはいろいろな理由がありますが、大陸横断鉄道などが同時に3本も敷かれ、北部・中部・南部あるいはアメリカの各地、特に東部を中心に近代工業化が進み、工場がたくさん建てられます。五大湖を中心にして、工業化が一挙に進みました。

 しかし、そのもとになった投資は誰が行ったのか。アメリカの産業革命は誰のおかげなのか。何が支えたのか。アメリカが最初からお金を持って、工場を建てたり、鉄道を敷設したりする資本力があったのかといえば、これは違います。

―― はい。

中西 言うまでもありませんが、イギリスを中心としたヨーロッパの金融資本が、アメリカの西部開発あるいは工業化、近代化の大きな原資になっていくのです。それを実現し、アメリカに投資したのが、自由貿易時代のイギリスを中心とした西欧諸国でした。

 これがグローバリゼーションです。多くのイギリス人がアメリカに渡っていき、会社を経営したり、銀行をつくったり、鉄道会社を経営したりします。そして、アメリカの国籍を取り、アメリカ人になる。あるいは逆に、アメリカの優秀な若者がイギリスの大学に留学したり、ドイツの技術を取り入れたりと、ものすごく人の交流も増えます。

 情報の流れをみても、大西洋世界が一つになっていきました。その時代にイギリスでは、「アメリカとは戦争することを考えられない国。経済的には外国ではない」といった議論をするような動きも出てきます。これこそまさしくボーダーレスの時代でした。


●第一次大戦の大きな副作用


中西 しかし先ほど言ったように、第一次大戦によって、イギリスは国外に資本が流出することを避けて国内に軍事工場をつくり、ドイツと戦うための軍事投資をしなければいけなくなりました。

 第一次大戦は大英帝国を大きく衰退に向かわせた戦争でした。そして、アメリカとの関係もズタズタに切り裂かれていった。イギリスが海外に持っていた投資は、アメリカその他、あるいは日本も関わりがありましたが、アジアにおいてはイギリスの力が非常に大きく低下しました。ヒト・モノ・カネ・情報といったものが自由に国境を行き来できるはずだった第一次大戦前のいろいろな法律ですが、戦争中あるいは戦後のイギリスやフランス、そ...
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