●リーダーシップが心理的安全性に非常に寄与している
最後に、(2回に分けて)「心理的安全性をつくるリーダーシップ」についてお話をしていきたいと思います。
ここに書いてある通り、統計的な観点からリーダーのリーダーシップがチームに非常に大きな影響を与えます。そのチームの7割はリーダーが決めるともいわれているぐらいです。
われわれの研究に、ある自動車販売店の事例があります。50ほどある中でも下位のチームに「再生屋」と呼ばれる店長が来ると、半年から1年ほどで、たとえ最下位だったチームでもトップ3ぐらいまでには入れるようになる、という事例を見てきました。そのぐらいリーダーの存在が非常に重要だといわれているのです。
学術的な研究の中でも、リーダーシップが心理的安全性に非常に寄与していることは証明されています。リーダーシップが心理的安全性に寄与すると、コミュニケーション、相互協力、目標共有などを媒介してチームパフォーマンスが上がるといわれています。
●「セキュアベースリーダーシップ」の考え方
今回、特にご紹介したいのは、リーダーシップの中でも「セキュアベースリーダーシップ」です。近年、サーバントリーダーシップやインクルーシブリーダーシップなど、いろいろなリーダーシップの在り方が提唱されていますが、心理的安全性のつくり方に一番寄与できるのはセキュアベースではないかと私は考えていますので、こちらを紹介できればと思います。
それではセキュアベースとは何かですが、日本語でいえば「安全基地」になります。心理学者のジョン・ボウルビィ氏とメアリー・エインスワース氏が提唱したもので、発達心理学の概念になっています。
彼らが対象とするのは子どもで、「成長過程の中で子どもには安全基地が必要である」「帰る場所や安心できる場所があって初めて人は挑戦できる」と考えられています。子どもにとってのセキュアベースは、親もしくは主たる養育者です。子どもの成長過程で、安心できる場所や、何かあったときに帰ってこられる場所があるからこそ、外界の未知の世界に挑戦できるといわれています。セキュアベースは、今の社会心理学でいう「心理的安全性」に非常に近しい概念かと考えています。
セキュアベースをもう少し分かりやすく説明するため、登山に例えられることも多いのです。登山やロッククライミングを想像してみてください。登山を行うときには、「クライマー」と「ビレイヤー」という二人がいます。クライマーはいわゆるロッククライマーで、高い岩に挑戦していくのですが、その下でロープを引いてクライマーの安全を確保するビレイヤーという存在がいます。ビレイヤーの存在があるからこそ、クライマーは安心をして高い岩によじ登っていきながら、飛びついたりして挑戦ができるのです。
リーダーの方々は、フォロワーのビレイヤーになっているということが重要です。安全が確保できなければ、挑戦もできないということです。
「VUCAの時代」になっていく中で、われわれは組織風土としても企業の価値観としても挑戦を志向していかなければいけません。絶対的に合っている考え方や正解のない時代なので、これからわれわれに大事なのは、挑戦を志向していくところなのです。ただ、挑戦を志向していくためには安全がないとできません。よって、ここが両輪となって、その両輪の中でビレイヤーの存在が安全を確保する人であると考えられています。
●「思いやる」ことと「挑ませる」ことの両立が大事
セキュアベースリーダーシップの概念を改めてお伝えすると、「守られているという感覚と安心感を与え、思いやりを示すと同時に、挑戦を求める。その源となれるリーダー」といわれています。安心感と挑戦の両輪が必要だということです。
セキュアベースリーダーシップは、よく「絆の形成」といわれますが、「人・思いやる」部分と「目標・挑ませる」部分の二つをもってセキュアベースをつくっていくことが大事だと思います。
「人・思いやる」については、前回「承認」のところでも話しましたが、「愛される」「所属する」、あるいは「存在するに値する」「無条件に肯定的に見る」ことがセキュアベースとして安心感というところの思いやりを示す部分です。
「目標・挑ませる」については、企業としてしっくりきやすいと思います。「能力を持つ」「行動する」「成功する」「目標を達成する」という...