●セキュアベースリーダーシップの特性
では、「セキュアベースリーダーシップの特性」についてです。スライドにある8つが特性としていわれています。赤字で書いてあるところが、われわれの研究の中でも非常に大事な概念であったことを申し添えておきます。一つ目は「人として受け入れる」ことで、二つ目は「冷静でいる」ことです。もう一つ、「傾聴し、質問する」ことも大事な構成概念ですが、今日お伝えしたいのは1番(「人として受け入れる」)と6番(「冷静でいる」)になります。
1番の「人として受け入れる」は、先ほどから何度も申し上げていますが、存在として受け入れ、その人を評価しない、あるいはその人を無条件に肯定的に見られているかどうかです。ここは、ぜひ見直していただければいいと思います。
6番の「冷静でいる」ですが、前回プレッシャーを受けたときにどちらかに寄りがちだということをお伝えしました。ここは結構大事です。われわれの研究の中でも、とても明るくて陽気なリーダーの方と、非常に寡黙で沈着冷静なリーダーの方の二人がいらっしゃいましたが、どちらの心理的安全性が高かったかというと、実は冷静なリーダーのほうでした。
一見すると、陽気で人の話も聞いてくれそうなリーダーのほうが高そうに見えたのですが、よくよくその方を拝見していくと、非常に感情の起伏が激しい。いいときはとてもいいのですが、落ち込んだとき、あるいはミスやエラーが出ているときにはひどく叱られてしまう。それよりも、いつも沈着冷静でいるリーダーのほうが部下としては信頼が置けるということです。
これはたぶん親もそうで、子どもに対して叱るとき、子どもが同じ行動をしても、機嫌がいいときには叱らなくて、機嫌が悪いときには叱るような一貫性のない行動を取ってしまうと、心理的安全性を低めることにつながります。冷静でいる、一貫性のある行動をきちんと取るといったことが、非常に大事だろうと考えています。
●「リーダーシップ=人として受け入れる」ということ
最後にお伝えしたいのは、「リーダーシップ=人として受け入れる」というところです。カール・ロジャース氏は「人間尊重とは、“無条件に肯定的に見ること”」と言っています。
リーダーとして組織を率いたりまとめたりする立場であったり、メンバーの一人ひとりに関わったりするときに、まず大事なのは「固定観念を見直す」ところだろうと思っています。
われわれは、私も含めて多分いろいろなバイアスを持っています。評価の中にもいわゆる認知バイアスのようなところがあり、一度その人が失敗すると、「この人はこういう人なんだ」といった固定観念を持ってしまいがちです。まずは、ご自身の固定観念を見直すことが非常に大事なことです。
次に「相手を評価することをやめる」です。ビジネスの世界で生きていると、常に相手は「何ができる・できない」「能力がある・ない」「成果が達成できた・できない」というように、人間性を見るよりも、その人が行った結果に対する評価をしながら見ているのではないかと思います。一旦、相手を評価することをやめてみることは非常に大事だと思います。
さらに「問題と人を切り離す」です。これも非常に重要で、何かが起こったときに問題を責めるのではなく、人を責めていることが結構多いように思います。まず問題は問題、人は人で切り離して、物事を整理して考えるところが大事だと思います。
4点目は「アンテナを高く張る」です。前の3つと異なるのは、それぞれの抱える課題は人それぞれ違うところに由来します。メンバー一人ひとりについて、表に出ている情報だけではなく、その人の抱えている価値観や事情を理解していかないと、心理的安全性の高い、いいチームはつくれないのではないかと思います。
例えば介護の事情を抱える社員、育児の事情を抱える社員、ご自身で病的な悩みを抱えている社員などは、自分からは事情を言いづらいことがあります。それを知らずにその人を見ていると、「なぜこの人は早く帰るのか」「この時間はいつも休んで出られないのか」というところで、固定的に「仕事をやる気がない」とつなげてしまいがちになります。
一方、その人の抱えている事情や背景が分かると、見方は一気に変わってきます。そうした観点からも、部下やメンバー個別の事情を知っておくことも非常に大事だと思います。部下の方々に向けて、あるいはメンバー同士の間で互いにアンテナを高く張っていくことは非常に大切ですので、ぜひこのあたりを見据えながらリーダーシップを発揮していただければと思います。
●リーダーの心理的安全性とメンバーの働きかけ
最後にお伝えし...