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日本経済の強靭性を高めるタイミングは今…必要な戦略は?

世界経済の見方とIMFの役割(6)これからの世界経済と日本経済への視座

田中琢二
元・国際通貨基金(IMF)日本代表理事
情報・テキスト
パンデミックに始まり、金融のタイト化、大幅な金融緩和、地政学的リスクの増大と、わずかの期間に世界経済は激しい波に晒されている。デフレ懸念がインフレ懸念に逆転すると、その圧力はさらに強まっている。また、ウクライナ戦争はいつ終結するのか、新たな経済リスクは発生しないのか、なども大事なポイントである。最終話では、はじめにこれからの世界経済への視座として大事な5つのポイントを挙げ、IMFが取り組む具体的な課題を解説。最後に、これからの日本経済に対する視座を列挙し、強靭性を高めるための提言を行って本講座を締めくくる。(全6話中第6話)
時間:13:28
収録日:2023/01/11
追加日:2023/03/09
≪全文≫

●今後の世界経済を理解するための重要ポイント


 これからの世界経済、IMF、そして日本経済の今後をどのような視点で捉えていくといいのか、お話をしていきたいと思います。

 この図にあります通り、2022年10月時点では、IMFは2023年の(世界全体の)成長率見通しを2.7パーセントと見ていることを頭に入れておいてください。

 そして次に、図表にあります通り、世界経済への視座には、5つのポイントが大事になると思います。

 2023年の世界経済のマクロ動向を見ると、IMFが2022年秋に予測した2023年の2.7パーセント成長はさらに下方に修正される可能性が高く、米国、中国、欧州ともに経済の伸びは低迷するだろうと予想されます。その背景には、インフレの持続による実質経済成長の押し下げや、各国中央銀行による金利の引き上げに伴う需要の減退、さらには国・企業・家計ベースにおける債務負担の増加が挙げられるでしょう。特に米国と欧州では金融政策の判断が注目されます。中国については、断続的なパンデミックの流行と不動産市場の悪化により、成長モメンタムは依然として弱いと考えられます。

 2023年にはインフレがピークを迎え、金利を引き下げる余地が生まれるとの市場の見方がある一方で、インフレを徹底的に抑えることこそが最大の課題であり、そのためには金利の引き上げの継続、あるいは引き上げた金利を一定期間継続することが重要だという欧米の金融当局との見方があり、今のところこの両者の乖離は埋まっていないようです。

 次のポイントは、世界的な地政学的リスクの高まりに伴う分断の圧力が高まり、数十年にわたるグローバル化の進展から得られた成果の一部が失われる可能性があるということです。この点については現在、世界でさまざまな議論が戦わされています。

 例えば、ユーラシア・グループのイアン・ブレマー氏は、「グローバリゼーションは後退してはいるものの、経済統合の終焉というより、世界は地政学的リスクに直面し、グローバリゼーションは漂流しているのである。1970年代から2008年の世界金融危機まで続いた『ハイパー・グローバリゼーション』の時代は、覇権国である米国が貿易自由化と世界統合のプロセスをトップダウンで推進した、歴史的に見ても特異な出来事であったが、それを推進したイデオロギーであるグローバリズムは後退している」と述べています。

 ウクライナ戦争の帰趨により、世界的な分断の構図が変化することもあり得るでしょうし、そうなるとサプライチェーンの再構築に迫られる国も多く出てきます。米中関係に代表される、政治・経済的な緊張関係が及ぼすアジア経済への影響等もよく見ていかなければなりません。

 さらに真ん中ですが、スピルオーバーと債務の持続可能性についてです。先進国の金融引き締め策により金利が上昇しますと、新興国や途上国にその影響が出る、いわゆるスピルオーバー効果が出てきます。金融市場がタイト化することにより、こうした新興国や途上国の資金調達が困難化し、これまで国内のコロナ対策等のために積み上がった債務の返済負担も増加していきます。

 そうしますと、債務の持続可能性に疑問が出る国が増加することが懸念されます。実際にアフリカやアジアの国の一部では、2022年来債務不履行を起こす国が出てきました。債務の削減等の債務リストラクチャリングは、先進国経済も疲弊しているため、なかなか進まないのではないかという見方もあります。

 そして、エネルギーと気候変動対策や食料問題も重要な視座になります。ウクライナ戦争を契機に、ロシアの天然ガス供給が減少し、欧州をはじめとしてエネルギー調達の再構成が始まっています。こうしたエネルギー危機が、再生可能エネルギーのさらなる推進に結びつくのか、あるいは旧来の石油・石炭にさらに依存する構図となるのかは、気候変動問題への対応という観点からも十分な議論が必要ですし、また世界的な原子力発電への推進となるかどうかという問題も含んでいます。


●IMFが取り組む5つの具体的な課題


 次にIMFです。IMFによる、サーベイランス、各国への融資、そして能力開発という3本の柱のもとで、現在の世界経済に対応するために、5つの具体的な課題を列挙してみました。

 最初は国際機関として、国際協調の砦として機能していくということです。経済のブロック化が第2次世界大戦の契機になったとの反省のもとに作られたIMFだけに、いかに国際経済が開放的なシステムを維持していくかに努力を継続することこそ、その存在意義であるといえるわけです。地政学的な各国の安全保障に関わることは政策提言しないという制約のもとで、世...
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